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005 クロード2

クロードの物語は一回で終わる予定が三回になってしまった。

 ラディアンドの孤児院は基本的に常に金欠だ。俺の育った孤児院は新しい院長先生が五年前に来てから目に見えて貧乏になった。少なくても建物の修繕を一度もやっていない。おかげで孤児院だと知らない人に取っては廃屋か幽霊屋敷にしか見えない。


 しかし院長先生は成人した女孤児を無理やり奴隷として売り飛ばしてでっぷりと太っている。冒険者になるからと言って反対する子は多いらしいが、最終的には妥協して奴隷落ちする子が多い。院長先生は冒険者登録の申請リストに名前を書く義務があるが、俺みたいに何故か記入漏れが発生する事もある。あの男はそう言う不正を平気で使う。


 だからルビー達が冒険者登録に来た事が腑に落ちない。あの欲深い院長先生がルビーを手放すとは思えない。ルビーの値段は他の子と比べて桁が一つ違う。申請リストを確認した時にルビーの名前が載っていたのを不思議に思ったが、俺の知らない何かがあったのだろう。それにもはや俺には関係が無い事だ。これ以上孤児院の状況が悪くなる前に成人した幸運を喜ぶとしよう。


 俺はギィギィ鳴く床を踏みながら院長室を目指した。この時間の孤児院はほとんど無人だ。成人したばかりの者は就職先に顔を出してその日の食い扶持を求めて奔走している。幼い孤児も成人した時のコネのために色々と出払っている。食い扶持を稼げないと夕飯抜きになる。おかげで俺たち孤児は全員痩せているし、背丈も低い方だ。その中で俺とルビーが外の子と比べても遜色なく育ったのは体に流れる強い魔力を宿す青い血のおかげだ。


 ルビーの最後の仲間であるリルが居るはずだが、相変わらず気配を感じられない。一人で居るのなら尚更か。褐色の肌に銀髪金眼を持つリルは孤児院どころかこの大都市では珍しいダークエルフだ。リルの話が本当だとするとリルの母親はダークエルフコミュニティから追放されてラディアンドで娼婦として生計を立てていた。エルフの様な美貌とダークエルフと言う珍しさでそこそこ儲けていたんじゃないか? それが流行り病で死んで、残されたリルは他の孤児院をたらい回しにされてここに落ち付いた。父親についてはリルも知らないが客の誰かなら人間の可能性が高い。


 リルは孤児院に来て少し経った時から咳き込む様になった。病気持ちのダークエルフなんて誰も近づきたくない。唯一手を差し伸べたのがルビーだった。実際はシーナが無理やりルビーを動かした感じだと思う。それからリルは種族由来な類稀なる斥候能力をルビーたちのために使っている。盗賊ギルドが気付かない程度の窃盗にすら手を出しているかもしれない。あの咳さえ無ければ盗賊ギルドが確実にスカウトしたはずだ。最大レベルが13なのもマイナスと言えばマイナスか。せめて15あれば色々違っただろうに。


 院長室に付くまで耳を澄ませたが、結局リルには遭遇出来ず。


「院長先生、入るぞ! 何故冒険者ギルドの登録申請リストに俺の名前を書かなかった!」


 勢い良く院長先生の部屋の扉を開けた。本来なら「ノックをしろ、クソガキ」と悪態が帰って来るはずだが……。留守か?


「お~い、留守なのか?」


 薄暗い部屋に無遠慮に踏み込む。窓のカーテンが閉じていて、まだ昼間なのに周りが見づらい。特に片目では距離感を掴むのに苦労する。


 ビチャ!


「水漏れか? だがこの部屋の屋根だけはしっかりしているはず」


 何かの液体を踏んだ俺は下を見た。雨が降れば水漏れなんて生活の一部だ。だからさして気にしなかった。血だまりに倒れている院長先生を見つけるまで。


「おい、しっかりしろ! 一体誰が!?」


 俺は院長先生の体を揺らした。しかし反応が無い。どうするかと思案し出した時……。


 ドタドタ!


「動くな! 貴様を殺人の現行犯で捕縛する!!」


 都市を守る衛兵が部屋になだれ込んできた。何処で出待ちしていた? 床が軋まないでここまで来られるわけが無い。


「待て! 俺は冒険者ギルドから今帰って来た……」


「黙れぇぇぇ!!」


 衛兵は持っているこん棒で俺の頭をしこたま打ち付けた。しょせんレベル1の俺では最低レベル5はある衛兵に手も足も出なかった。


「ケホッ」


 そして薄れゆく意識でリルがせき込むのが聞こえた。リルはずっとこの部屋で隠れていたのか。何故?


***


「クロードを有罪とする。縛り首にせよ」


 俺が気絶した二時間後には裁判官が俺の処刑を宣言した。院長先生が死んだ今、俺の流民落ちはほぼ確定とは言え、余りにも早い判決だ。証拠もなく衛兵一人の証言ですべてが決まった。


「待ちやがれ! ちゃんと調……」


 バキ!


 俺が発言を終える前に衛兵がこん棒で殴って来た。俺が発言するのが余程不味いらしい。


「お待ちください!」


 ギャラリーがざわついた。俺の処刑を推した判事が死罪に異を唱えるのは異例だ。


「判事よ、異議があるのか?」


「縛り首は市民に与える罰です。流民を吊るすのは市民と社会秩序への冒涜です!」


 どうやらラディアンドは俺から人としての死の尊厳すら奪うみたいだ。


「然り! クロードの流民落ちをこの場で宣言する。よって、クロードをピットに落として処分しろ」


 茶番とも思える判事と裁判官のやり取りで俺は都市の外れにある生ごみを投棄する大穴に捨てられることになった。

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