046 カーツ傭兵団 遠見
「アッシュを通じて私が囚われているのが分かったと言うのか」
「光の剣を見るまでは確信を持てなかったかもしれないがな」
「となるとそれを使ったのは私のファインプレーだったか」
「そんな事はありません!」
自分の判断が正しかった様に持って行きたいマックスにヘンリーが盛大に突っ込んだ。
「だがあれが無ければ見殺しだったろうから、マックスの言う事には一理ある」
「王国士爵を助けないと?」
「少なくとも夜中に城門を開けてまでは助けない」
「見捨てるかは分からないが、城門を朝までは開けないと思うぜ」
俺の考えにカーツが同意して、ヘンリーが信じられないと言う顔で固まる。
「首輪だけでは飽き足らず、その様な外法を使うとは! 絶対に許せん」
遠見のおかげで助かった事に心の整理がついたのか、今度はマックスが怒り出した。
「誓いは忘れるなよ?」
「ぐっ……確かに」
絶対に忘れていた! そして辺境伯辺りに突撃していた。
「マックス様、お願いしますよ! 首輪だけなら叱責で済むでしょうが、本人の同意を得ずに闇魔法の対象にしている事が露見すれば辺境伯家の家人の首が飛びます。もはや遊歴中の騎士が手を突っ込める状況ではありません」
ヘンリーが必死に説得している。これで思いとどまってくれない様ではマックスとヘンリーは帰路で不幸な事故に遭うだろう。
「ちょっと待ってよ! こい……アッシュの話が本当ならこの会話も盗聴されているはずよ!」
包帯を腕に巻き付けていたキスケが突然叫ぶ。彼女の知識は本物だけに全員が固まる。
「だから首輪を斬ってアイテムボックスに入れた。肩はその時の副次的な被害だ」
「それでアンデッド化仕掛けているなんて馬鹿みたい。でもアイテムボックスに入っていれば遠見は無理ね」
キスケが俺の判断を褒める。他の皆も安堵のため息をつく。俺たちが首輪の秘密を知っている事が辺境伯に伝われば、俺達全員は全力で逃避行に切り替える必要がある。
「本当はマックスとの約束を優先して彼に任せたかったんだ」
「アッシュ!」
「そうしたらマックス様を危険に晒す。遠見が本当なら主君に変わって感謝する」
感無量なマックスを無視してヘンリーが頭を下げる。
「気にするな。この首輪があるとデグラスの入り口で止められただろうからな」
魔道具の考えが間違っていても、辺境伯から城爵に何らかの話が言っているはずだ。「逃げた孤児」か「危険な犯罪者」と辺境伯が言えば疑う者は居ない。最悪の場合、遊歴中の騎士が共犯として城爵に処刑を命じるかもしれない。辺境伯なら城爵が勝手に忖度する事を期待するか?
「待てよ? と言う事はアッシュは追っ手が来ると最初から知っていたのか?」
「本当に来るかは賭けだった。最悪の形で本当だと分かってしまった」
「バカ者! 自分をそんな危険に置くくらいなら素早く首輪を破壊しろ!」
「魔道具ですと言って、実はただの首輪だったら格好悪いだろうが!」
追っ手の件の真相に気付いたマックスが俺を叱るも、辺境伯の関与が確実視出来ない状況でマックスを巻き込めない。俺の考え過ぎなら俺はただの笑い者で終わる。俺の考えが正しく、尚且つマックスに首輪を斬って貰ったら俺たち二人の命が危ない。
「その首輪が大事なのは分かるが、アッシュのアイテムボックスの中にあると取り出せんぞ」
「ダンジョンの中ではどうだ?」
カーツの問いに俺がルルブの知識で答える。ダンジョンの深い階層なら遠距離魔法が発動しないはず。
「駄目駄目過ぎて涙が出るわ! そんな中途半端な事をして、相手の魔法レベルが高ければどうするの?」
「おいキスケ、詳しいなら対案を出せ」
「う~ん、ダンジョンに行くのならボス部屋が一番ね。あそこは覗き見出来ないのよ」
駄目だしするキスケにカーツが対案を求め、結局ダンジョンの中のボス部屋なら安全に渡せると言う事になった。
「まるでダンジョン攻略が私のためにお膳立てされたかのようだ」
マックスはそう言うが、当たり前だ。そうなる様に俺が考えたんだから。マックス本人がダンジョン攻略の最後まで付いてくるのだけが予定外だ。
「となるとこれは人選から見直さないといけません。ボス部屋に入る人間を限定するとして、首輪の話が外に漏れるのは危険過ぎます」
「だなぁ。酒場の顔見知りにちょっと声を掛けるには重すぎる」
ヘンリーとカーツが頭を悩ませる。任せるしかないが、明らかに慣れていない。いっそ俺がと思うが、この世界では二人以上の素人の上にこの身なりだ。せめてアドバイスの一つでも……。
「……」
「アッシュ、大丈夫か!?」
「あ、ああ。何か急に眠く」
「薬が効いてきたのよ」
「大丈夫なのか!」
マックスの心配そうな声が聞こえる。聖水の次は睡眠薬と聞けば当然だ。
「普通の治療の一環よ! カーツ傭兵団の名に泥は塗れないからね!」
「そこは信じてやってくれ」
カーツがキスケの肩を持つ。それに件の首輪とダンジョン攻略には俺のアイテムボックスが絶対に必要だ。少なくても殺しはしないだろう。
そうだ! 眠たい体を無理やり覚醒させ、最後の力を振り絞る。
「俺が倒れている間にデグラスに帰るのなら、これらを売ってくれ」
俺は道中で倒したダイアウルフ3体と大熊の毛皮を俺の横にドサッと出した。
「ひぃぃ、ダイアウルフゥゥゥ!」
突然現れた3体の死体にキスケがビビる。
「ダイアウルフ3体だと!? 腕は思った通り確かか!」
「なるほど。これだけ入るのならアイテムボックスの容量は問題無いですね」
カーツとヘンリーは違う所に着目した。
「ん? アッシュ、この大熊は行商人が言っていた奴か?」
「行商人に遭ったのはこの前だ。あいつが帰路であの集落に寄った可能性はあるが……」
瞼が落ちそうだ。
「狩人が結婚式を挙げていたそうだ」
「そうか。ティグの奴は大熊の頭で見事射止めたか。ははは、これは良い夢が見られそうだ」
俺のやった事が実を結んだか。あの逃避行は色々大変だったが、それを聞けただけで幸せだ。
「良い槍を一本。そして残りで洋服と使い捨ての槍を……」
それだけ伝えて俺の意識は落ちた。
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