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045 カーツ傭兵団 首輪

「その追っ手が色々おかしいのはこの際無視します。でもどうやって彼らはアッシュを見つけられたのです?」


「普通に追跡しただけじゃないか?」


 カーツが常識的な答えを言う。


 普通はそう考える。だが俺とマックス、追っ手と辺境伯の動きを頭で追うとその答えは破綻する。


「その場合は間に合いません。辺境伯の命令で当て所もない追跡を10日近く続けることはありえまえん」


 追っ手が仕掛けた時に問題があった。マックスを助ける前に追っ手を差し向けていたらマックスと別れて数日以内に襲われていただろう。それどころか俺が廃寺院を出た直後に襲われたはずだ。マックスがラディアンドに帰還した後に追っ手を差し向けていたら、追っ手はデグラスで俺に追いついたはずだ。俺が追っ手と戦った場所は余りにも中途半端だ。


「奇跡的な確率で遭遇した、では納得してくれないだろう?」


「やはり貴方は何か隠しています」


 信じられない確率で事が起こったと言い張れない事もない。だがそれではヘンリーの信を得る事は不可能だ。右腕さえ動くのなら無視を決め込む事が出来たのに残念だ。


「ふぅ……。知りたいなら隠すほどの事じゃないが……」


 俺を溜息をついて、首をコテッと横に倒す。


「動くんじゃないわよ!」


 俺の傷口に変な葉っぱを貼っているキスケから叱責が飛ぶ。そのハーフエルフの唾液付きの葉っぱは本当に大丈夫なのだろうか? 前世の俺としては非常に心配になる。流石のルルブもそこまで詳しい解説が載せていない。「薬草を患部に張り付けると〇〇分のHPが回復する」だけあれば卓上で楽しむには十分だからだ。


「私に教えてくれないのか?」


 またマックスの顔が陰り出した。メンタルが乱高下し過ぎだ。


「話すが、条件がある」


「条件! もち……」


「マックス様!」


 流石に二回目はヘンリーが止めたか。ちょっとだけ残念だ。


「俺がこれから話す事はマックスとヘンリーが王都に帰還するまで誰にも話さないと天の大精霊に誓うなら話そう」


「それだけか? 我が家の先祖たる天の大精霊に誓う!」


「……私も誓いますよ。マックス様、我が家はこの場合は駄目です」


 この国の王家だけの大精霊を「我が家」と言うのは相変わらず迂闊。それに厳密には先祖と言うわけでは無いのだが、そこは突っ込まないでおこう。王家の自己神格化の過程でちょっとさばを読んだだけだ。


「俺達も誓った方が良いのか?」


 興味津々で聞いていたカーツが聞く。


「話したらこの話が広まるのが困る奴らに惨たらしく殺される程度だ」


 カーツがそこまでの奴と交流を持てるのか俺には分からない。アッシュはダンジョン攻略の功績でどうあっても辺境伯と城爵の両方と顔を合わせる。そこでこの事をほのめかすだけでもマックスは王都に帰還できなくなる。


「じゃあ、酒の女神に誓って言わないぜ!」


 そんな女神居たかな? まあ良いか。


「何処から話すべきか。そうだな、まずは基本的な事を軽く触れておこう。ラディアンドの孤児は首輪を嵌めているのを知っているな?」


「そう言えば、なんか変なアクセサリーと思っていたが、孤児だったのか」


 どうやら基本から始めた俺は正しかったみたいだ。


 孤児は成人まで首輪の着用を強制させられる。成人して定職に着けば首輪を外して貰える。正規の手段以外で首輪を外した者は重罪となる。定職につけない孤児は首輪をしたまま流民に落ちる。最後の一行はあくまでそう言われているだけだ。首輪の真実を知った俺からすると流民のまま生かすとは思えない。


「やはりこんな事は許されない!」


 憤るマックス。ヘンリーの顔色も良くない。


「ですが誓いがあります」


「くっ! 王都に帰って父上に報告だ!」


「この段階で怒るな。本番はここからだぜ」


「あ~ちょっと待てや。もうちょっとまともな神に誓い直すから」


 本番前にこれだけヤバいと分かったカーツが急遽新しい神に誓いを立てると言い出した。しばしどの神が良いかで脱線する。マックスとヘンリーが落ち着くためにあえて騒いでくれたんだろう。


「ヘンリー、マックスを助けるために騎士団が出た時に城門は閉まっていたか?」


「ん? ああ閉まっていた」


「すなわち夜中に突然騎士団が出撃して真っ直ぐ廃寺院に来た、と」


「そうだ。そして真っ直ぐマックス様の囚われている大部屋に入っていった」


 なんだと!?


 これは新しい情報だ。騎士団はあそこにゴブリンの大群が生息している事を知っていると言う事だ。ゴブリンの養殖でもしているのか? まさかな。


「おいおい! どうなってんだ? そんな事あるわけねぇ!」


 カーツが大声で怒鳴る。傭兵団を率いるだけに騎士団の団体行動が余りにも常道を逸してるのが分かったんだ。


「可能性は二つ。一つは北西の守護神と謡われるラディアンド騎士団が完全に狂っている。もう一つはマックスの居場所をその時に知った」


「廃寺院の地下に居たんでしょう? 『神託』か『奇蹟』でも使ったんじゃない?」


 キスケが事も無げに言う。その二つは人間はおろかエルフですら使えない。それこそ神に選ばれた特別な存在専用だ。


「なるほど! 騎士団は狂っていたんですね!」


 ヘンリーが遂に思考停止した。


「それはそれで問題な気がする」


 マックスはまたなんか抜けている事を言っている。


「どれもハズレだ。孤児の首輪は遠見スクライの対象に出来る魔道具だ」


 脱線し過ぎる前に俺が爆弾を投下する。


 余りの事に全員が黙り込む。

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