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042 カーツ傭兵団 迷宮2

「ヘンリーの言った問題はどうする?」


 俺の発言に全員がヘンリーを見つめる。


「アッシュとカーツはダンジョン攻略経験は?」


「無い」


「無いぜ」


「なるほど、そこからですか」


 ヘンリーの発言から、マックスとヘンリーは攻略経験があるのだろう。俺も卓上では100近く攻略したが、流石にそれは言えない。


「まずはDランクダンジョンに限定します」


 Dランクダンジョンは最小で地下11階、最大で20階。地下10階と20階にボス部屋と呼ばれる物がある。


「階層が多いダンジョンの方が攻略が面倒と言う所か」


「正解ですアッシュ。さらに言えば地下20階あるダンジョンはCランクに上がる一歩手前です。これは出来る限り避けたいダンジョンです」


「だがよ、一番美味しい地下11階の奴は人気なんだろう?」


「全くその通りですカーツ。だから狙い目は人の往来が大変な場所にある地下15階前後のダンジョンです」


「人の往来が少ないのは良いじゃないか!」


「いえ、最悪です」


「なんだと?」


「そもそもDランクダンジョンは何人で攻略するものと考えていますか?」


「俺は一人でやる気だが?」


「一人と言う特殊ケースは無しで」


「基本6人に補助要員12人として20人前後か」


 卓上だと6人が戦闘しながらモブ部下を引き連れて攻略するのが普通だ。1人に付きモブ部下2人みたいに簡単に計算する事もあれば、モブ部下全員に名前とスキルを決める事もある。逆に本当に6人だけで攻略するのは全員が勇者とか半神みたいな神の領域に一歩踏み込んだ時くらいだ。


「攻略はそれで良いとして、輜重はどうする? 補助要員を荷物持ちに使うのなら追加の護衛が必要になる」


 カーツの言にヘンリーが頷く。俺は思いつかなかったが、水と食糧は重たく嵩張る。卓上だと全員アイテムバッグかアイテムボックスみたいなほぼ無限ストレージを持っているから考えもしなかった。


「更に言うと、ダンジョンに挑む場合はダンジョンの前にテント村が出来ます」


 俺達が行き詰ったのを見て、ヘンリーが答えを一つ教えてくれた。


「テント村?」


「戦場の商人みたいなものか?」


「カーツの言うそれに近いです。あちらは呼ばなくても勝手に来ますが、こちらは私達で手配する必要があります」


「すなわち娼館を呼ぶって事か?」


「良い女を最優先で呼ぶのは重要だ!」


「女だけで無くて……」


 ヘンリーがこめかみを抑えて唸る。


 まずはテント村の護衛。その次に攻略組と護衛のための料理人。さらに雑貨を売る商人。続いて鍛冶師や弓師、革職人などの武器防具の専門家。そうなるとテント村を管理できる人材が必要になる。当然酒場と出張娼館も手配しないと士気を維持出来ない。


 雑に計算するならダンジョン攻略組50人にテント村500人。それを独占攻略している間に維持できるだけの資金がいる。


「立地の問題か」


 それを聞いて、俺は問題の本質に辿り着く。


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「そうか設置できないのか!」


 カーツも一瞬遅れて反応する。


「その通りです。マックス様の申請が通るのはそう言う立地が悪いから攻略が後回しなダンジョンになります」


「私が力不足なばかりに……」


 マックスが落胆するが、彼のせいでは無い。


「立地さえ良ければ商人に声を掛けて、カーツ傭兵団の実力を見せれば話に乗ってくれるのです」


 ヘンリーが残念そうに言う。


 ダンジョン攻略は諦めるしかない。そんな風潮が部屋を支配した。


 だが今にも泣きそうなマックスを見て、俺は一つ大きな決心をした。


「俺はそれらの問題を全て個人で解決できる」


「流石アッシュ!」


「ほ、本当か!」


「すまん、嘘をついた。娼婦以外ならできる」


 流石に尻の提供までは勘弁してほしい。


「しかしどうやって?」


 ヘンリが困惑して聞いてくる。数字に強いがゆえに常識が彼の発想を阻害している。


「俺は24メートル四方のアイテムボックス持ちだ。水も食糧も予備武具も酒も全部俺が持つ。俺が一人輜重隊で一人テント村だ!」


 実はこれも嘘だ。俺のアイテムボックスは15メートル四方しかない。だが王国一般のアイテムボックスレベル3は30メートル四方の容量を誇る。俺の『心』がそこまで弱いと露見させるわけにはいかない。だから残っているSPポイントをアイテムボックスにつぎ込めば25メートル四方になる。ここまでやれば王国平均のレベル3よりちょっと容量が少ないと誤魔化せる。我ながら名案だ!


 アイテムボックスは俺の生命線だ。これをマックスからすら秘匿するのが生き残るための最善なのは間違いない。しかしダンジョン攻略を進めるのなら明かした方が良いとクロードの記憶が言っている。今回はそれに従ったが、この記憶の危険性を同時に認識できた。クロードの記憶は俺の生存にとっての最適よりも王家にとっての最善を選択する。これはクロードの生前の教育以上に俺とマックスに流れる血によるものだろう。気を付けなければいけない。そうしなければ、俺もまたこの血に飲まれるかもしれない。


「マジかよ。南方戦線なら何処でも引っ張りだこだぞ」


 流石のカーツもたじろぐ。


「アッシュ! そんなスキルがあるのなら流民なんてやめて法服男爵になろう! 私が申請すれば一発だ」


 マックスが善意で言う。王国に取ってアイテムボックスレベル3が流民なのは国家的失策だ。俺が一人居るだけで負け戦を勝ち戦にひっくり返す可能性が大きく上昇する。この世界は俺の前世の戦国時代ばりに輜重制度が未発達だ。個人所有の物資と自国領からの略奪で軍を維持している様なものだ。その問題を文字通り個人の力で吹き飛ばせるのが俺だ。


「マックスの申し出でもそれは受け入れられない。俺はまだ無名でいないといけない」


 マックスが何か言おうとした矢先。


「夕飯が出来たわよ! 私が腕によりを掛けて作ったんだから感謝しなさいよ、そこの!」


 キスケの乱入でこの話は一端保留となった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] とても面白いです。 TRPGの世界を舞台とした異世界転生物の小説は少ないので、嬉しいです。 流民であり、訳ありそうなアッシュには厳しい世界ではあるけれど、狩人のティグやマックスなど少数の信…
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