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406 ラストバトル 2

「もぬけの殻か」


 次の村に踏み込んだのは太陽が昇る前だ。昨晩の内に急いで逃げだしたのか、机の上に夕飯がそのまま残っている。大きい倉には人間と動物の死体が山積みになっている。モンスターの餌にするつもりだったのか、食われた後がくっきり見える。このまま放置すればアンデッドとして蘇るので【アイテムボックス】に入っている聖水を振りかけて置く。これで大丈夫なはずだ。


 ここを発てばゲイルリーフ領との間に村が一つ残るのみ。動かせる戦力をそこに動かしたと見るべきだ。そっちの方がやりやすい。上手く行けば今日で決着が付く。多少浮かれた気持ちで次の村へ走る。


「これは骨が折れる」


 次の村の周りはアンデッドだらけだ。ゲイルリーフ領のアンデッドの大半をここに動かしたと感じる。この村に撤退したはずの邪教徒でさえ首を斬られたり心臓を刺されたりしてアンデッドモンスターの仲間入りを果たしている。もう生半可な生者なんていらないと言う事か。シーナかマリーメイアが居たら無双できそうな戦場だ。だがそう見えるのがトラップだ。そうなると俺の予想通り事態は最悪の方向に向かっている。そしてこれを何とか出来るのは俺一人だ。永遠帝に連絡が付くのなら土下座してでも助力をお願いしている場面だ。


「カタカタ……」


 ゾンビと言うかほとんどスケルトンとなった村の住人だったモンスターが近づく。


「……なるほど。こういう趣向か。貴様だけはクロードに斬らせるわけにはいかない!」


 先頭を切って走ってくるのはクロードを守るために死んだ祖母のスケルトンだ。その後ろにクロードの兄弟と思えるアンデッドが続く。家族の死体すら安らに眠ることを許さないか! 魂は既に成仏しているだろうが、生前の家族の面影を残すアンデッドを斬るのは誰にとっても苦痛だ。クロードなら斬れるかもしれないが、斬る事で最期に残った一欠片の人間性すら消滅しては意味が無い。


 俺は穿つバイオレットゴージャーを振り容赦なく向かってくるアンデッドを消滅させる。クロードの知り合いを斬る度に一瞬だけクロードの記憶を鮮明になる。今斬ったのは寂れた神殿で農民に文字を教えていた老神官か。彼は良く祖母と戒律無視の深酒をしていた。次は冬に倉庫の穀物を猫糞して村八分になった男か。年老いた母のためとは言え、盗みは不味かった。次は一番上の兄の愛人じゃないか。兄が死んで再婚したはずだが、その時には疎遠になっていたので詳しく分からない。


「ちぃ、きつい!」


 精神に来る。俺だから他人とある程度割り切れるが、クロードだったらどうなっているか。記憶のフラッシュバックもクロードが強く思っているから発生している。


 生憎と弱音を吐いても手加減してくれないのがモンスターだ。幸いなことに、アンデッドは俺の精神状態を考えて攻めない。多少頭を使えるモンスターなら俺に有効なゲイルリーフ領のモンスターを集中してぶつける。これがないから俺は関係ないアンデッドを消滅させながらクロードの知り合いを斬る事にインターバルを設けている。


「次はヘルハウンドか!」


 俺を狙う炎がアンデッドを巻き込んで迫る。アンデッドは燃えながら前進をやめない。【風魔法】で炎を遠ざけて近づくモンスターを確実に屠る。舞い上がってのアイスジャベリンは効果的だが、滞空すると的になる危険がある。奥の方に強いモンスターの気配がある。ティノーラの報告にあったグレーターレブナントだ。あれの前で大きすぎる隙を見せるのは避けたい。しかしそんな戦いをしていたらアンデッドに包囲されてしまう。ゲイルリーフ領から遠ざかる一点突破は成功しそうだが、俺が退いた後にモンスターを補充されては元の木阿弥だ。


「ここはお誂え向きのテンペストサイクロンを食らえ!」


 俺の【風魔法】が考えずに近づくアンデッドを粉砕する。


「オオオオオオ!!」


 俺が無意識に一歩下がる咆哮をしながらグレーターレブナントが迫る。


「どんなに強かろうともこれは抜けない!」


 絶対に大丈夫だ!


「ザイグロンデンベズドォォォ!!」


「同じ魔法だと!?」


 サイクロンテンペストがサイクロンテンペストにぶつかり、俺と彼の前にある風の壁が消える。あろうことか二つのサイクロンテンペストは融合してより強固で広範囲なサイクロンテンペストとなり、安全圏から見ていたヘルハウンドを巻き込む。そして風の壁に囲まれたボクシングリングより一回り大きいエリアに俺とグレーターレブナントが取り残される。


 ルルブにこんな情報は無かったぞ! 【風魔法】はかなり人気の魔法属性だがサイクロンテンペストは使い道が無いとして不人気なんだ。敵も距離を開けたら簡単に回避される魔法を使う事は無い。なのでプレイでサイクロンテンペストがぶつかる事は無い。それ以前にサイクロンテンペストを覚えている存在が一つのアドベンチャーに二人もいる事すら稀だ。


『我の出番だ』


 突然クロードが語りかけてくる。


『だが、あいつは!』


『我と同じだ。後悔が深すぎて成仏しきれなかった父上の残滓だ。息子の俺がケリをつける!』


『分かった。任せる』


 そう言ってクロードに主導権を渡す。


「グロードォォォ」


「死にきれないか、父上ぇぇぇ!!」


 ヴァンパイアロードの【風の聖戦士】とグレーターレブナントの先代【風の聖戦士】が風の故地の手前で激突する!

応援よろしくお願いします。

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