表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
404/416

402 裏の戦い 中(アメリア視点)

「具体的なプランはあるのか」


「草案ですが、南領には伯爵家を一つだけにし、残り全てを男爵家にします」


 中央はこの伯爵家すら潰したいでしょうが、中央集権するには段取りが大事です。今は王家と戦争しても防衛戦になれば長期間持つ子爵以上の領主貴族が多くいます。男爵でそれだけの戦力を維持出来るのはほんの一握りです。なので南領を男爵だらけにすれば南領で王家に反旗を翻せる貴族の数をほぼゼロに出来ます。唯一の伯爵家が男爵家を糾合して反旗を翻す危険はあります。


 西領では辺境伯が王家に取って変わろうと男爵の多くを味方に引き込んでいます。なので私とアッシュがその気なら南領で同じことが出来ます。アッシュの性格からしてそんな面倒な事をするくらいなら爵位を返上して自由に行きます。アメリアと名乗る前の私も同意見だと思うのですが、最近は頭の中がかき回されたかのように本当に何を望んでいるのか分からなくなってきています。妊娠の影響で霞がかかっていた様な思考が多少は鮮明になっている気がします。少なくてもリルは「昔のアメリアに戻りつつある」と言ってくれます。


「それが実現すれば確かに……。だが」


 宰相がリルをチラ見します。


「リルの子爵領に加増し、三分割して男爵領にします。一つはリルのダークエルフ、一つは派遣された家宰、最後は現地の有力者を抜擢します」


「問題無い」


 私の発言にリルが同意します。リルは爵位を返上すると言っていましたが、王家はダークエルフの領主貴族を欲しています。降爵もかなりギリギリの線です。ですがアッシュの腹心中の腹心と目されるリルが降爵を率先して受け入れたら他の領主貴族も追随します。私とリルが調べた限り生き残これる南領の子爵家はいないので儀礼的な行動に終わる可能性は大です。それでも新しい子爵を受爵する必要が無くなるのでそういう面では十分に有効です。


「そうか。そう言うのならそうするか」


 宰相は必死に頭の中を整理しているのでしょう。リルの家宰は宰相の腹心です。宰相が領主貴族になれるチャンスを潰したとしれば家宰はどう考えるか。それを考えさせないためにも宰相は私の分割案を受け入れるしかありません。三人目の男爵は誰にしますか。宰相に妙案が無いのならリルが推薦する水魔法の使い手を男爵にしましょう。アッシュを憎んでいる男をなんでリルが推薦するか分からないのですが、リルは「もう大丈夫にした」と言い張るので信じます。現地に住んでいるダークエルフの三姉妹を嫁に貰った事と関係があるのか聞いてもリルは笑みを浮かべるだけです。


「他に懸念がありますでしょうか?」


「あるにはある」


「それは?」


「アッシュ卿の後継者問題だ。戦死した場合どうするか」


 貴族なら当然の懸念です。ここでアッシュに子供がいなければ、偶然・・流れ矢がアッシュに当たって新しい伯爵領が王家に吸収される流れです。アッシュは【風の聖戦士】の断絶は絶対にあり得ないと主張していますが、彼は考えが甘すぎます。勇者を召喚するのなら、新しい【聖戦士】の家系を起こせば良いだけです。国父がやったのです。同じ勇者が出来ないわけがありません。500年前から続く【聖戦士】の血筋は王国の重荷になっています。新しい【聖戦士】を求める中央で唯一の反対勢力が王家だと言うのは何とも皮肉な事です。


「ご心配なく。私の中に次の【風の聖戦士】が宿っています」


 これを明かすのは諸刃の剣です。ですが私の中の貴族が「利確を優先」と呟いています。


「ほ……本当か!」


 宰相が余りの衝撃で飛び上がります。


「ユーグリン王家の名に誓って、この子は神々の神託を得た風の嫡男です」


 生まれる前から神々に役目を与えられた我が子を憐れむべきかしら? アッシュは色々複雑みたい。


「それは実に素晴らしい事だ! うむ、実に素晴らしい」


 宰相を驚かせすぎましたか? いえ、油断大敵です。


「ありがとうございます」


「してつかぬ事を聞くが、リル卿はどうなのだ?」


 ちっ、聞いてきますか。ですが嘘を付くと後々面倒になりそうな気配がします。


「リルも同日に妊娠しました」


「それはおめでどう。となると伝令の役からは外さねば」


「それは不要」


 リルは即座に否定します。


「リル卿、私は気にしないがその子に何かあれば王家が私の首を取りに来る」


 宰相は額の汗をぬぐいながら話します。王家と王家に近い人間なら誰でも分かる事です。神々にとって私の子が本命でリルの子が予備です。どちらも失う危険を冒せません。


「リル、ここは宰相の言う通りです。アッシュの褒美絡みで明らかにするのは既定路線です」


「分かった」


 王家を出汁にしてまでリルを伝令役から遠ざけますか。私とアッシュがやり取りを密にするにはリルが伝令として前線に赴く必要があります。それを尤もらしい理由で潰せば宰相は情報面で私にマウントを取れます。褒美が決定される前の数日で180度ひっくり返す真似は出来ないでしょうが、予想外の一手を打ってくるでしょう。もしアッシュが何かやらかしていれば、流石の私も予想できません。

応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ