400 アッシュの珍道中 下
400話達成!
穿つ紫が松明代わりになってくれて助かる。真っ暗闇の中を明かり無しで歩けば色々と変な噂が立つ。俺がダンジョンを単独で攻略したいのも明かりの有無が問題の半分を占めている。急ぎでないなら松明の火が消えないような速度で進むが、最近の俺は隙間時間にダンジョン攻略を余儀なくされている。ストーリーとストーリーの間に入るオフタイムでRTAを強制されている気分だ。ちょっとダンジョンを攻略しようとしただけなのになぜか推定ヴァンパイアロードと戦う事になっている。
屋敷の地下は流れ作業でアンデッドを倒していく。実力差があるし、アンデッドの攻撃に乗る特殊効果は俺には効かない。動きが遅い分ゴブリンより弱く感じる。地下室とカタコンベの境界線上で立ち止まって、中の様子を見る。
「古いな」
その割に埃っぽくない。ヴァンパイアは奇麗好きなところがあるから掃除には余念が無いのだろう。【風魔法】を使い、壁に隙間がある場所は気を付けて罠を発動させる。ダンジョンでは無いので一度発動した罠は自動的に再装填sれない。自分の強さを信じて罠に掛かりながら進んでも良いが、無意味にダメージを受ける気は無い。罠を男解除していると掠ったら新しいキャラシートなデストラップが仕掛けられている事も稀にある。現実には無いと思いたいが、油断大敵だ。特にこのヴァンパイアロードは古いヴァンパイアだ。弱く見積もっても先代勇者から逃げ延びた実力者だ。俺がヒヤッとする切り札の一枚か二枚を持っている可能性は捨てきれない。
カタコンベの壁を見ると、骨と化した死体が窪みに並んでいる。五段しかないから、小規模な埋葬場所だったのだろう。棺らしいものは見当たらない。あるとすればもう少し奥か。余り得る物は無さそうだから墓荒らしはやめておく。いずれこの事態が鎮静化した後に来る冒険者に散策の権利を譲るとしよう。
「あ~、でも年代が分かりそうなものは無いか?」
副葬品はどうでも良いが、カタコンベの凡その年代は知りたい。闇雲に漁っても時間を無駄にするだけだ。俺は急ぎカタコンベの奥へ向かう。
「石棺か」
どうやらアタリみたいだ。奥の方には長方形の部屋があり、そこに二つの石棺が安置されている。散乱する蓋の状態から片方は内側から破壊されている感じがする。もう片方はしっかり蓋が閉まっている。しかし隙間から【風魔法】を吹き込ませた感じだと中は空っぽだ。保存状態が悪い方のカタコンベの死体がまだ残っているのは気になる。棺に彫ってあるはずの名前と死亡日時は両方とも削られている。空の石棺を開けようか数秒迷う。
「無しだな」
確実に何らかのトラップが発動する。餌にされる少女が入っていれば助けるが、そうでないならこれは強欲な冒険者を必ず殺すトラップに違いない。天井崩落か大爆発か。はたまた無色無臭の毒ガスか。俺なら生き残る自信がある。だが上で待っている冒険者を説得できる自信がない。大きな音で気が動転してここまで確認に来たら最悪だ。盗賊が居ればと嘆かずにはいられない。昔ゴブリンから得た【盗掘】スキルの出番かと一瞬心が揺れるが、ビルドとシナジーの無いスキルを取っている余裕は無い。このイライラをヴァンパイアロードにぶつけてやる!
カタコンベを越えた所に部屋がある。中から新鮮な血の匂いがする。どうやらここに待ち構えているみたいだ。
「良く来たな矮小なる存……うぎゃああああ!」
「ボスの会話中に弱点属性マシマシのクリティカルを叩き込むのはTRPGプレイヤーの嗜みだ」
欲を言えば戦う前にバフを山盛りしたいが、生憎と単独で該当スキルが無い。なので瞬殺する事を強いられた!
俺が倒したヴァンパイアロードは色々話したかったみたいだが、話に付き合っても最終的には倒す事になる。彼が冒険者を殺していなければ一縷の望みがあったかもしれない。だがヴァンパイアと言う存在の習性からしていずれ人間に討たれるか討たれる前に人間を滅ぼすしかない。
「さて帰るか……ん?」
【風魔法】が作る風から隠し部屋の存在を感じる。そう言えばここまで糞尿の匂いが濃い場所が無かった。ヴァンパイアには必要ないが、餌の人間は普通に出すものを出す。餌を置く場所が何処かにあるはずだ。そして隠し部屋があるのならそこに餌が居る可能性が高い。
「オーソドックスだが……」
火が付いていない松明が刺さっている松明受けを下に引っ張ってみる。ゴゴゴゴと地面を擦る音がしながら壁の一部が開く。俺は臆せずに入り、声を掛ける。
「おい、誰か居るか! 冒険者ギルドから助けに来た!」
「ぼ、冒険者?」
隠し部屋には汚い牢屋が一つ。中にはゲッソリとした女性が四人。その中で年長と思える女性が掠れた声で問う。
「ヴァンパイアロードは倒した。ここを出るぞ」
俺が正直に答えたら冒険者じゃないとバレてしまう。俺はバレても問題無いが、冒険者ギルドとしては面白くない。問題がある内は俺を持ち上げてくれるが、いざ解決したら目の上のたんこぶだ。
一人は起き上がろうとして躓く。残り三人は動くのも辛そうだ。
「これを飲めば外に出る程度には回復する」
一人一人にポーションを手渡す。そして最後の一人にポーションを渡すふりをしてその体を穿つ紫で貫く。
「ぎえええええ!!」
貫かれた痛みより聖なる光で溶かされる痛みでもだえ苦しむ。残りの三人は余りの恐ろしい光景に必死に後退るも、牢屋の鉄格子に当たって止まる。
「何故! 何故見抜けたぁぁぁ!!」
「数が合わない。それに奴隷が香水などをするものか!」
奴隷商の話では奴隷は3人だ。前から居た奴隷の可能性はあったので実はこの理由は不正解だ。香水で死臭を隠しているのは確かだが、これだけ周りが臭いと人間の鼻では香水の匂いすら分からない。なので厳密にはこの理由も不正解だ。肌が冷たいとか胸が上下運動してないとか理由を多く出せるが、それだけで咄嗟に貫いたのはおかしいと指摘されそうだ。種明かしをすると簡単だ。【魔眼】で全員を見ただけだ。女ヴァンパイアは焦燥を装うために俺の顔を見ない様にしていたから見られたことすら気付いていない。伊達に演技が良すぎたのが敗因だ。
「口惜し……。あの人の仇を……」
それだけ言って女ヴァンパイアは灰となる。こうして屋敷の地下に巣食うヴァンパイアロード問題は解決される。
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