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038 マックス視点 デグラスの日々 下

番号のズレを修正しました。


誤字の指摘ありがとうございます。

「ヘンリーが話したのか?」


「私は何も……」


 私の正体は秘密だ。それを知っていてカーツに言えるのはヘンリーだけだ。幼少の頃から兄弟の様に育った男が裏切ったとは思いたくないが、彼以外に候補がいない。しばらく言った言わないで争っていたら、カーツが私達を止めた。


「埒があかん。これを見ろ」


「それはコームグラス家の家紋!?」


 カーツがおもむろに取り出した手紙にはヘンリーの家紋が付いていた。コームグラス伯爵家は王都に居を構える法衣貴族で、ヘンリーの父である現伯爵は私の守役だ。第二王子までは領地持ちの貴族が守役に任じられるが、第四王子以降は法衣貴族が守役に任じられる。第三王子の守役は王家と貴族のパワーバランスでその都度変わる。


「ヘンリーの親父から『二人がグダグダ抜かすならこれを見せろ』って言われていたんだ」


 手紙に目を通すと、カーツはヘンリーの父が手配したと記されていた。


「偶然では無かったのか!?」


 ヘンリーが驚く。コームグラス家中なら寄子まである程度把握している男に取っては余程ショックな出来事なのだろう。


「なわけないだろ?」


「冒険者ギルドと傭兵ギルドで俺達しか居なかったのは辺境伯の差し金っち」


 当然だと言うリーツにダニクが驚くべく事を言った。


「何故そんな事を?」


「護衛がいなければデグラスに進めないと考えたのでしょう。二人だけで行く様なら『安全のため』と言って護衛の騎士が無理やり付けられたのでは?」


 キスケの説明はもっともに聞こえた。となると辺境伯はいつ私の正体に気付いたんだ? ヘンリーは辺境伯に私の正体は明かさなかったと言う。だが何らかの確信が無ければ騎士団を動かさないはず。何か致命的な情報が抜けている感じがする。


 カーツ団は護衛依頼を受けないため、辺境伯に雇われなかったらしい。カーツが団長をしている10年でこれが三度目の護衛依頼だと言うのだから無理もない。だからヘンリーの父が送り込んだのか。


「どうやって知り合ったんだ?」


「凡そ8年前か。俺たちが南で帝国軍と戦争していた時に伯爵の陣が隣になった」


 南の帝国とはかれこれ100年近く戦争をしている。大規模な軍同士の激突はあまりないが、毎年のように小競り合いがある。兄上である第二王子は5年以上も南の国境沿いの城で指揮を執っている。王国は一年で動員できる兵力の凡そ半分を南に張り付けるしかない状況だ。そのため北への備えが手薄になり、ラディアンド辺境伯の手腕に大きく頼る形になっている。


「8年前と言えば、あの大敗?」


「ヘンリーは知っているか。あれだよ。いやぁ、あれは凄い負けっぷりだったぜ」


「伯爵閣下の軍と並んで殿を務めさせられた時は『王国討つべし』と思いましたね」


 キスケが物騒な事を言う。


「運が良かった。帝国軍は大勝利したが、思ったより打撃を受けていた。歯抜けの追撃部隊と亀の様に籠った王国軍の戦いで俺達が帝国軍を跳ね返せた」


 領主貴族が法衣貴族を使い潰そうとして逆に面子を潰された事件か。兄上の長期赴任もそれの後始末が関係していると聞いた。


「となるとカーツ団は功一等か? その割にヘンリーが知らないのはおかしいな」


「……」


 カーツが押し黙る。聞いてはいけない事だったか?


「もう、拗ねないの。功一等は違う傭兵団の団長に行きました」


「戦績は俺の方が圧倒的に上だった!」


「その主張は通らなかったでしょう?」


「ふん!」


 カーツは両腕を組んで、もうこれ以上は話さない格好を取る。


「身内贔屓と思うかもしれませんが、カーツの活躍は本当です。それでも功一等に選ばれたのは今デグラスで城爵をしている男です」


「あいつは売り込みが上手いだけのカスだ!」


「だからカーツは俺を団に加えたっち」


 ダニクは8年前の戦争が終わった辺りから団に入ったと言う。カーツ団が城爵の手癖に嫌に詳しいと思ったが、因縁の相手だったか。


「はぁ、もう昔の事だ。それよりそのアッシュとやらの事を話せ」


「良いだろう」


 そして私はアッシュとの出会いからゴブリンとの戦いを臨場感たっぷり解説した。良い歌になると思ったのか、ダニクが所々で盛り上げる質問をした。ヘンリーには以前にも話したので彼にはつまらない話だったかもしれない。


「だがアッシュは騎士団が来ると同時に消えた。私は彼との再会を信じデグラスに来た。そして彼は私の想いに答えてくれた!」


 パチパチパチ! ダニクが盛大な拍手をくれる。


「どう思う?」


 カーツが聞く。


「マックス様はやはり騙されているのでは?」


「胡散臭いわね」


「創作としては恋愛が抜けているっち」


「ヘンリーまでそんな事を言うのか!」


「そもそも、なんでそのガキがマックスの後に牢に入れらるんだよ? 餌はマックスで十分だろうが」


 カーツの指摘に残り全員が頷く。


「アッシュは下から連れてこられた」


「?」


 流石に全員理解が追い付かないみたいだ。言うべきか迷ったが、黙っていれば余計信じて貰えないだろう。


「アッシュは殺人の咎で処刑されたと言っていた。本人は無実を主張したし、私はそれを当然信じた」


「余計胡散臭いだろうが!」


 カーツの叫びに皆が同調する。


仮令(たとえ)そうであっても、私は騎士として彼に借りがある。なので会いに行く」


「ヘンリー、簀巻きにして押し込まないか?」


「マックス様は一度決めたら聞かない人です」


「一人で行くから、皆は留守番……」


「駄目に決まっているでしょう! 私が居ないと待ち伏せに気付けないのよ!」


「面白人間に会いに行くっち」


「いや、ダニクは別任務だ。調べて欲しい事がある。手練れ数名で行く。多過ぎたら逃げる。」


 カーツが意外と乗り気だ。


「カーツは分かってくれたか!」


「気付く前にゴブリンの餌だったなら団の名に傷がつかないんだがな」


 カーツの半分諦めた溜息と共にアッシュに会う計画を立てる。

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