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037 マックス視点 デグラスの日々 中

上下終わるはずが長引いてしまった。

「貴様が私に用があるのか?」


「はい、その通りでございます」


 かなりみすぼらしい行商人だ。何か私に売りつけようと言うのか。だがそれならカーツが連れてこないはず。


「して、何用か?」


「私はソッドと言うのですが、お二人の名前を窺ってもよろしいでしょうか? とある男に伝言を頼まれたのですが、士爵様と従騎士様の名前で探す様に言われました」


「マックスだ」


「ヘンリー」


「だから間違いないと言っただろうが」


 カーツが「ほら見たことか」と言う顔でソッドを鼻で笑う。


「はい、まさしくこのお二方で間違いないと思います」


「それで伝言とは?」


「はい、『ゴブリン戦での借りを返せ、地下の友より』とだけ。それと待ち合わせ場所は東門を出た所にある見捨てられた監視塔だと」


「おお! 彼は無事なのだな!」


「は、はぁ」


 私の頭が興奮気味にソッドの頭に近づく。そんな状態に困惑するソッドに気付かず畳みかけた。


「そうだ! 名前は名乗らなかったのか?」


「いえ、進行方向が逆でお互い名乗らず別れました」


「何故だ。何故アッ」


「ハクション!! いけねぇ、外の寒さにやられたぜ」


 カーツが盛大にくしゃみをした。こっちにまで鼻水が飛んだぞ! 抗議しようと思った矢先、ヘンリーが服を拭くふりをしながら「名前は隠す」と短く耳打ちした。二人には何か考えがあるのだろうか。


「そんな事より、どうやって知り合ったのだ?」


「実は行商していたおり、ゴブリンライダーに襲われまして」


 そこからソッドの武勇伝が始まった。ゴブリンライダーに勇敢に立ち向かい、謎の男の乱入にも動じず見事モンスターを全匹討ち取ったらしい。流石の私もソッドではゴブリンライダーどころかゴブリンにすら手古摺りそうなのが分かる。何か言おうかと思ったが、ソッドの後ろに立っているカーツが「黙っていろ」と唇を動かしたので黙っていた。


「モンスターを駆除した後に伝言を頼まれたと」


「はい」


「となるとその男はもう監視塔に着いていないか?」


 カーツが当たり前のことを指摘した。


「それは分かりません。あそこは治安が良いとは言えませんので」


 腕に自信があるのではなかったか?


 俺が彼を追い出そうとした時、ヘンリーが口を開いた。


「行商人なら色々な村を見て来たのだろう? 何か面白い出来事はあったか?」


「そうですね。私が回った集落と村は例年通りでした。東、と言ってもラディアンドの西ですが、は来年の収穫が少し悪くなりそうだと」


「年々の収穫量は変わるから仕方あるまい」


 そうなのか? ヘンリーがそう言うのならそうなのだろう。


「他にはデグラスに近い集落で結婚式がありました」


「行きしなか?」


「それが帰りでして」


「それは面白い」


「ヘンリー、何が面白いんだ?」


「あぁ、申し訳ありません。結婚式は収穫祭と一緒にやる事が多いのです。この遅い時期に恐らく一組だけなのが気になって」


「流石ヘンリー様はお目の付け所が高い。集落の若い狩人が大熊を討伐して集落を救ったんです」


「大熊ってのなら体長は五メートル以上のバケモンだぜ。狩人がやれるか?」


 カーツが突っ込む。


「なんでも毒餌を使ったそうです。それと首は長老宅に飾ってあったので体長はそれくらいあったと思います」


「そうなら凄いな。一人身なら傭兵団に誘うんだが」


 カーツが残念そうに言う。


「毛皮はどうした? 売りに出すのではないか?」


「毛皮は傷みが激しかったらしいです。その代わり、爪を買う事に成功しました」


「見せてくれ」


 ヘンリーが勝手に商談を進める。いつの間にか私は熊の爪を三本も買っていた。その後も話を少し続けたが、夜が暗くなる前にソッドを追い出した。


「酷いっち」


 ソッドが部屋を出るのと同時にダニクがクローゼットから出て来た。ずっと警戒して待機してくれていた。上手く途中で出せれば良かったんだが、機会が無かった。


「すまん」


 私は素直にミスを認めた。


「キスケが飲み物を持ってこなかったからなぁ」


 ソッドを送り出したカーツが帰って来て開口一番頭をかいた。カーツに取ってもダニクの状態に思う事があったみたいだ。


「ハーフドワーフに出す飲み物なんてありません」


 五人分の暖かいワインと軽く摘まめるものを持ってキスケが部屋に来た。彼女のスキルを使えば完璧なタイミングを計る事は簡単だ。そしてキスケはドワーフが嫌いなのを思い出した。あのソッドはハーフドワーフだったのか。人とあまり違わないので気付かなかった。


「さて本題だ。あいつはどれだけ嘘をついていた?」


「大熊の爪は本物っち。他は全部疑うっち」


「爪だけでも本物なのが驚きです」


 カーツ達が行商人の信憑性を議論し出した。こいつらはソッドが居る時は一切顔に出さなかったのに彼が帰ったら散々だな。


「事実確認のために買った爪が本物でしたか。良い土産になります」


 ヘンリー、おまえもか!?


「となると、マックスの待ち人は居ると思うか?」


「ここからでは分かりません」


 キスケの範囲外か。だが監視塔に近づくだけでアッシュの有無を確認出来るのは嬉しい。


「居るっち」


「ダニクが言うのは珍しいな、おい!」


「あの行商人は金で動くっち。ありきたりな名前だけで探すなんて時間の無駄をやったのは、そうしないといけない理由があったっち」


「そうなの?」


 キスケが興味深そうに聞く。


「町に顔を出せず、ゴブリンライダーを複数殺せる男が冬を越すもっとも手っ取り早い方法は集落を襲う事っち」


「あり得ん! アッシュはそんな事はしない!」


 私がテーブルを思いっきり叩いて否定する。


「マックス様、落ち着いて」


 ヘンリーが仲裁に入るが、流石に今回は聞き捨てならない。


「ならそろそろ話しやがれ、殿下」


 そう言ってカーツはドカッと私の前の椅子に腰を下ろした。

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