003 転生失敗
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気付くと俺は透明な道路の上を歩いていた。下り坂なのか、だんだん下に向かって進んでいる。本能的にこの道路の終点が転生先だと分かった。
「しかし何も無い所だな」
道路の終点だけが淡い色で光っている。それ以外は漆黒の闇だ。せめて上は星空くらい移して欲しかった。だが俺が最後に星を見たのはいつだ? 夜遅くどころか明け方まで仕事しているのが日常だったが、夜空を見上げた記憶が無い。あれだけ動き回っていたら見上げる時間位あったはずなのに。だから本来なら急ぐのかもしれないが、俺は折角の超常体験だからゆっくり歩いた。そして転生したら最初は星を見ると心に誓った。
丁度道半ばを越えた辺りで後ろから突然音が聞こえた。
「まさか時間切れで道が!?」
音に驚いた俺は振り返った。振り返ったら駄目、とかは聞いていないしたぶん大丈夫だ。それに本当に道が無くなっているのならこの期待できない両足で全力疾走しないといけない。出来ればこのままゆっくりペースで進みたいのが本音だ。
振り返った俺が見たのは加速する巨大な何かだった。そしてここは一本道。残念ながら端に寄って回避するだけのスペースは無い。すなわち、追いつかれたら俺は潰されるか道路から弾き飛ばされる。
「走れぇぇぇ!!」
俺は両足を鼓舞する様に大声を張り上げた。しかし幾ら走っても距離は縮まるばかり。もう真後ろに来ていると思った瞬間、俺の体は宙を舞っていた。
「ハハハ! 俺様の竜神丸に勝てるわけが無いだろう!」
闇に落ち行く俺に聞こえた幻聴だろうか? 転生する前にもう一度轢かれるなんて事は無いはず。
フリーフォール中の俺は横目でその物体が淡い光に到達して消えたのを見た。そして辺り一面が闇に閉ざされた。
「これってもしかしてヤバいのか? 俺はこのまま落ち続けるとどうなる?」
本能が危険を知らせている。しかしブラック企業に長年勤めたためか、頭がそれを理解できない。腹が減らずにこのまま永遠に落ち続けるなら悪くないのかもしれない。ブラック企業の日常とそう大差ない。それに滅びる予定の世界に行かないで済む。だがここに永遠があると仮定するには情報が足りない。遅すぎるが、転生前にルルブを読ませてもらえば良かったとやっと気づいた。物質の持ち込みは禁止されたが知識の持ち込みは禁止されていなかった。
「キャラメイクからやり直したい!」
そんな事を言っている余裕は無いはずなのに、ついつい声がこぼれた。だが、それが逆に良かった。
「そうだ! こういう時の神頼みだ!! 秩序の神よ、奇跡で何とかしてくれ!」
俺は大声で叫ぶ。きっと秩序の神に届くはずだ。
念のため数回神頼みを繰り返した。
しかし、待てど暮らせど何も起こらなかった。
「気付かなかった? それとも奇跡は転生後のみ?」
奇跡の発動が転生後だとすると今の状態だと発動しないかもしれない。仮にも神と名乗る存在だ。気付いていないとは思えない。
「詰みか?」
流石にこの状況になったら諦める気が強くなった。
ガン!
「痛ぇぇぇ!!」
諦めかけた時、俺の後頭部な何かに当たった。そして体が固い大地にぶつかった。
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