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028 騙し合い 遭遇

「今日も良い天気だ」


 天気は良いが最近の夜は冷えて来た。俺の体は寒さに慣れているから大丈夫だが、もう一月もすれば冬になる。冬になれば凍死と餓死の可能性が増す。生き残るためには最悪、農村の一つを潰すしかない。生き証人を残すとそこから更なる追っ手が掛かる。俺にそこまでの事が出来るだろうか? だが蔵から数日分の食糧を盗むだけは根本的な解決にならない。卓上なら都合よく冬を越せる依頼が舞い込んでくるが、現実では犯罪者になるか死ぬかだ。


「やめやめ、考えても仕方が無い」


 サウル達を退けて三日。俺は一日北上した後に遠回りで南進した。予想外にも北上している時に細い道を横断した。その手のスキルを持たない俺でも気付いたんだから、間違いなく人が通る道だ。この道を東に進むと消去法で農村があるはずだ。ラディアンドの北方に人族の大きな町や都市は無い。北方の農村は税が安い代わりに北方の脅威に対する生きた盾だ。そしてそんな農村の役目は「時間をかけて殺される」事だ。稼いだ時間でラディアンド辺境伯が迎撃の兵をあげる。やりきれないが、彼らの犠牲無くてはこの地の防衛が成り立たない。


 西に何があるのかは分からない。最終的にデグラスに通じる可能性が高い。その間に集落の一つや二つはあるかもしれない。ここから西に進むと山が増えるから地形的に大きな農村は無い。俺はこの道を見失わない様に少し北の森林の中を歩いた。追っ手にレンジャーが居たら痕跡が発見されるが、『森林歩行』を取る気はない。これは一度見つかった後の逃げる際に効果を発揮する。俺の癖を探して追うのなら、その癖が突然消えたら混乱するはずだ。


「おっ、鹿だ!」


 冬支度をどうするか考えながら進んでいたら鹿に出会った。鹿が逃げるために俺から目を離した隙をついて俺の槍で刺殺した。


「数日分の飯を確保!」


 今の内に野生動物をたくさん狩ってアイテムボックスに入れたいが、冬を越すほどの容量が無い。スキルポイントを入れたら良いんだが、今の状況でスキルポイントは貴重だ。やはりもっと強いモンスターを大量虐殺して経験値を稼ぐしかないか。ただ強いモンスターの素材は換金できるのに俺には換金する方法が無い。換金素材をアイテムボックスに死蔵すると今度は肉の総量が減る。それでなくても食える草や果実を片っ端からアイテムボックスに入れて容量に余裕が無い。クロードの記憶で食えるキノコ類は無視している。ここ数日で分かったが、クロードのサバイバル関係の知識は余り当てにならない。貴族事情の方は期待したいが、やはり何処かで確認した方が良いかもしれない。


「ゴブ! ゴブ!」


「……なくそ!」


「ガルル」


 しばらく歩いていると西から戦いの音が聞こえた。気付かれない様に静かに接近してみると行商人がゴブリンライダーに包囲されていた。ゴブリンライダーとは狼に騎乗したゴブリンで人間の騎兵に相当する奴らだ。人間の騎士には弱いが人間の歩兵には強いと言う雑魚の癖に嫌な所をつく存在だ。


「えい、躱すな!」


 行商人が必死の形相でメイスを二本振り回している。ゴブリンと狼は一発良いのが入れば死ぬから堅実な選択だ。戦いの素人なら剣や槍よりもメイスの様な打撃系武器の方が効果的な場合が多い。転じてこの行商人が短槍みたいなより有効な武器を持っていないのはスキルを持っていないからだ。


「はぁ、はぁ」



 行商の相棒であるロバを背に行商人は肩で息をしている。ロバの背中には荷物が積んであるのでゴブリンライダー相手に即席の壁として機能している。かなりしっかりしたがたいの割に少し背が低い。年齢はたぶん40代。衣服とロバから見て貧乏そうだ。謝礼は期待できない。便宜も期待しない方が良さそうだ。


 しかし奇妙だ。ルルブだとゴブリンライダーが戦闘する際には上位種かダイアーウルフが音頭を取る。指揮個体が居ないから行商人相手に勝ち切れていない。時間の問題とは言え、その時間を掛ける行為はゴブリンライダーの長所を潰している。


 もしや廃寺院から逃げたゴブリンと俺が殺したダイアーウルフが群れ長だった狼が合流した? まさかな。


 この状況をどうするか考える。クロードなら行商人が死んでから行商人の持ち物と身分を奪う。生き残るにはそれが最善だ。それはかなり私情混じりの決断なのだが孤児院に捨てられた経緯を思うと分からなくはない。クロードを孤児院に預けた行商人は「毎年来る」と約束しながら二度と姿を見せなかった。彼が約束した祖母の実家からの援助どころか手紙一つ来なかった。クロードの中では「行商人=敵」となっている。


 俺も行商人の死体を見つけたらクロードと同じ行動をしていた。だが、この行商人はまだ生きている。やはり見捨てるのは寝覚めが悪いし。


「そこのおっさん、幾ら出す?」


 そう言いながら俺は肩に槍を背負った姿で彼らの前に躍り出た。突然の事に行商人に集中していたゴブリンライダーは一瞬動きを止めた。それ以上に驚いた行商人はゴブリンライダーを一体倒す絶好の機会を棒に振った。


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