027 騙し合い 首輪
「良し、まずはポイントに余裕があるから『毒耐性』だ」
これからする事を考えると『毒耐性』の有無が生死を分けそうだ。助かるための必要経費と割り切った。
「嘘だろ? 騙された!!」
我を忘れて大声で叫ぶ。まさか『ブレイブシステム』にこんな畜生機能があったなんて。
俺が考えていた形はこれだ。
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個別スキル
耐性系
└01/05 毒耐性
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だが現実はこうだった。
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複合スキル
ダンピール
└01/10 剣術
└01/05 吸血、毒耐性
└01/03 マナ呼吸、暗視
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ダンピールの職業スキルに自動統合された。使用したポイントは返って来なかったし「詐欺だ!」と声高く宣言しても許されると思う。
これは非常に不味い。これ以降『毒耐性』を上げるにはダンピールのレベルを上げる必要がある。『毒耐性』だけ個別に上げる方法が無くなったのだから今後も毒に注意する必要がある。卓上では鉄板の状態異常耐性の一つにブレーキが掛けられたのは悩ましい。
気休め程度の『毒耐性』で大丈夫かと不安になるが、覚悟を決めるしかない。俺が投げ捨てたぼろいローブから綺麗そうな部分をレイピアで切り取る。それを何枚も重ねて俺と首輪の間に押し込む。
「ちょっと毒が漏れてもこれで大丈夫だ」
大丈夫だと思う事にした。クロードの常識と俺のルルブの知識が「絶対にNO」と盛大な赤信号を出しているが無視だ。
サウルが使っていた毒付きのナイフで首輪の切れ目をなぞる。一つ間違うと素肌に毒付きナイフが刺さるので気が気ではない。「シューシュー」と音がして、だんだん首輪が切れている感じがする。直接見る方法が無いので俺の当てにならない勘に頼るしかない。ある程度切れ目が深くなったと感じたからナイフを仕舞い、両手で首輪を引っ張る。「パリン」と音がして首輪が割れ、最後の一枚まで貫通していた布が地面に落ちる。
「ふぅ、ギリギリアウトか」
ブラック企業時代はギリギリアウトは問題無しと習ったし、大丈夫だ。
首輪に付着している毒は布で拭きとって180度回す。そしてもう一回切れ目を入れる作業をした。今回は勝手が分かったのと、時間をかけるとアウトなのを知ったため、結構早く割れた。
「これが自由か」
半分に割った首輪を片手ずつに持ち、首輪の内面を見る。俺では何かある様には感じられなかった。魔力や魔道具に詳しい人で無いと分からないか。素人でも見るだけで分かるなら気が楽だったのに。
外れた首輪をどうするか迷った。ここに捨てる、川底に投げ入れる、そのまま持ち運ぶなど様々な案を考えたが、マックスに渡すのなら持ち歩く必要がある。遠見の視点が分からないから、革袋に入れても空の上から見えるのなら意味がない。なのでアイテムボックスに入れた。これまで見た魔法とルルブの説明を信じるのなら、アイテムボックスに入ったアイテムを起点に魔法を掛ける事は出来ない。闇魔法レベル10とかになれば話は変わるだろうが、そこら辺は既に神の領域だ。俺が心配するだけ無駄だ。これまでの事から敵の闇魔法レベルは高くても4位だ。アイテムボックス相手に何かを出来るようになるには圧倒的にレベルが足りない。
「後はこのまま北に一日進んで、そこから一気にデグラスを目指そう」
かなり遠回りになるがこれだけすれば今からラディアンドから追っ手が放たれても俺には追い付けないはずだ。デグラスに直行されたらお手上げだが、その時はその時だ。今日まではデグラスを目指していなかった。今日からデグラスを目指すと読める奴が敵に居たら、そいつは軍略に天賦の才を持っている事になる。戦の天才と噂される辺境伯以外にそんな奴が居る可能性は低いだろう。
「後はこのナイフだが、どうするか」
地面に突き刺して「シューシュー」音を立てているナイフ。大地に突き刺して毒抜きを試みているんだが、中々終わりそうにない。これ以上ここで時間を潰したくはないのでナイフを地面から抜く。
「腐食も刃こぼれもしていない?」
このナイフの材質はなんだ? 首輪を斬る時に気になったが、やはり普通の金属ではない。なんでも溶かした毒なのに、このナイフの刃だけは一切溶けていない。何らかの魔法金属だと当たりをつける。それに良く見ると柄の部分が溶けだしている。ブレードの材質だけが違うのか。意外と折れた剣の先端を再利用しているのかもしれない。この世界の人間の冶金能力は低い。専門家であるドワーフに頼り過ぎている弊害でもある。
「ミスリルはこの手の毒に弱そうだから除外。アダマンタイトとかオリハルコンが候補に浮かぶが実物を見たことが無いからな」
クロードの実家には全部あったはずだが、素材段階の物はクロードも見たことが無い。そもそも完成品のあれは初代からずっと継承してきたものだから、二代目以降がこれらを購入できたとは思えない。
「毒抜きをしっかりやってドワーフに鑑定して貰うか」
幸いデグラスにはドワーフが多い。元々首輪を外すならそこのドワーフに頼むのが手っ取り早いと思っていた。当初の目的が多少変更されるが、ドワーフに会えると思うと自然と足取りが軽くなった。
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