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025 奥地 後処理


「さてどうするか?」


 一番は寝たい。でも最低限の後処理をしてここを離れるのが最優先だ。幸い俺に取って数日徹夜は平常運転だ。


 毒の腐食でボロボロになったローブを投げ捨てる。量が少なかったとは言え、ローブの下にあった一張羅のボロ着まで影響を受けている。それを貫通した分は肩と胸の辺りがどくだみでも擦り付けたように腫れている。ボロ着の綺麗そうな所で拭くが、余り効果は無いみたいだ。それと俺の首輪には毒で溶けた跡がクッキリ残っている。鉄すら溶かすっていったいどんな毒だ? なんでも問答無用で溶かす毒なんてルルブにすら載っていなかった。色々検討しないといけない事があるが、今はもっと優先する事がある。


 サウルとゾンビ二体の死体は見当たらない。肉片ならそこら中に落ちている。この三人の死体を漁るのは諦めた。答えがこうシンプルだと気が楽だ。


「でもあいつの死体は綺麗なままのはずだ」


 俺が首を斬り落とした男はゾンビ化しなかった。そして位置的にサウルの自爆の影響を受けなかった。サウルがあの死体にトラップを仕掛けていたら気が滅入るが、疑い出すと切りが無い。それに爆弾トラップを二つは仕掛けないと思う。初見だから一撃必殺。サウルが俺を過大評価していた事を祈る。俺は罠だとしてもホイホイ死体を漁るぞ!


「大丈夫か? 大丈夫だよな?」


 俺は落ちていた長い枝を10フィート棒代わりに使い、ニューハーフの死体を数回突いた。これ以上やって確かめるには専用のスキルが必要だ。サウルを殺した時に手に入ったスキルにポイントを振ればそれが可能になる。だが汎用性に乏しすぎるから出来れば取りたくない。


 俺は意を決して死体に近づく。矢を抜こうとしたが、死後硬直で固まったのか取れない。仕方が無いので落ちていたレイピアを使い適当な所で矢を斬る。そしてゆっくり死体をひっくり返す。


「……大丈夫か」


 盛大に息を吐きだす。この10分ほどはサウルと殺し合っていた時の様だった。


 まずは彼の上着の前を斬る。上等なコートとシャツなんだが、背中に毒矢を受けたのを再利用しようとは思わない。


「普通のコートか」


 ポケット類を切り裂いて中を取り出すが、これと言った物は無い。多少意味があるのは彼の名前が刻んであるカードくらいか。都市を出る際に衛兵に見せれば入る際の身分確認が簡略化される。冒険者になった孤児に取っては垂涎の品だ。何らかの方法で真贋鑑定しているらしく、俺が彼に成りすますのは無理だ。彼が行った事のない都市ならあるいは入れるかもしれない。だが普通はカードと貴族からの紹介状を数枚携えて動く。都市から都市への移動は前世のパスポートを使った国際旅行より面倒だ。そもそも生まれ故郷から外に行くのが稀なのだから仕方が無い。


「これは!?」


 シャツの裏地に隠しポケットが縫い付けてあった。金貨の数枚でもあれば良いと思った俺の期待は裏切られた。


「冊子か。……意味が分からない」


 冊子は数ページしか無かった。びっしり文字で埋め尽くされているが、意味のある単語の羅列ではない。彼の持ち物で無ければゴミとして捨てていた。クロードの記憶では何が何だか分からない感じだ。だが俺には何となく分かる。


「全部隠語だ」


 犯罪者や盗賊ギルドが使う暗号文だ。単語の意味が分かる奴が居れば色々分かりそうだ。そう言う都合の良い人は大抵この暗号文が解かれたら困る人だ。俺が持っていると知ったら全力で殺しに来そうだ。良し、アイテムボックスに封印だ。俺は何も見ていない。


「次はベルトか」


 ベルトも斬れば楽だが、ベルトとズボンはそれほど痛んでいない。俺のズボンなんて来月に布が残っているかすら分からない。リスクはあるが手でベルトを外してブーツとズボンを一気にずり下した。


「……セーフ」


 ベルトに括り付けてある革袋には銀貨が10枚ほど。他にはポーションと思える物が一つ。これは商人に鑑定して貰わないと怖くて使えない。とにかくここら辺の物は全部アイテムボックス入りだ。


 回収できるものは回収したし、次はどうするか。遠見スクライをしている奴はこの光景を見たかもしれない。見てなくてもあの爆発だ。絶対に調査の手が入る。邪教徒が証拠隠滅に走るかもしれない。ここに留まるのはどう考えても愚か者のする事だ。一瞬だけ「追っ手を待ち伏せして返り討ち」と考えてしまった。俺は首を横に振ってその考えを捨てた。衛兵数人相手ですら手古摺る強さしかない。もしゴブリンの時に来た騎士が一人でも来たら俺に勝ち目はない。ゴブリンの時は俺の事が眼中に無かったから見逃された。最初から俺が狙いなら逃げきれないかもしれない。


「良し、逃げるぞ」


 実質逃げる一択だ。問題は何処に逃げるか。



 特に行きたい場所が無い俺はマックスが目指していた都市を目指す事にした。運が良ければそこでマックスに会えるだろう。マックスの性格からして恐らくそこに向かう。俺の方が早く着くかもしれないが、その時は「遅い」と詰ってやろう。

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