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023 奥地 狩人

 沈黙が森を支配する。俺はサウルを発見できない。サウルの矢は俺に弾かれる。ニューハーフから手に入ったスキルを『ブレイブシステム』で確認したが状況を打破出来るスキルは無かった。双方が待ちの姿勢を取ると俺が不利だ。だが夜になったら俺は『暗視』の分だけ有利になる。サウルが『暗視』の事を知っているとは思えないが、俺を遠見スクライの情報から追跡してきたんだ。夜目が人より効く程度の情報は持っているはずだ。


 とにかく風上に立たない様に気を付けて動く。サウルの手持ちの毒が一種類だとは思えない。俺が一か所で防御を固めたら風上から毒粉を流すだろう。足元も気を付けないといけないので意外と疲れる。サウルは音を立てずに隠れながら動くんだ。彼も俺以上に疲れるはず。


「無駄だ!」


 俺の右後方から飛んできた矢を錆びた槍で叩き落とす。


「ちっ」


 毒が塗られていない。透明な毒の可能性もあるが、恐らく何も塗っていない。これで全ての矢が毒矢の前提で迎撃するから毒矢じゃなければ多少の傷を無視して突っ込むと言う行動が選択肢に上がった。全て毒矢と思って行動するのが正解だ。だが、ちょっと無理をすればサウルをやれる状況になったら俺は自制出来るだろうか?


 色々な方向から飛んでくる矢を迎撃するのが何回も続いた。平均三本に一本が毒矢だ。相手がアイテムバッグを持っていない限りそろそろ矢が尽きるはず。何か他の狙いがあるのか? それともこれもブラフの一つか? 前世の俺だったらとっくの前に根を上げているぞ! 日が沈んでも『暗視』があるからこそ落ち着いて粘れる。


 空がオレンジ色に染まる頃には矢が止まった。


「逃げたか?」


「まさか」


「なっ!?」


 俺の呟きに返事が返ってきた。これまでずっと姿を隠していたのに声を出すとは何を考えているんだ?


「貴様の狙いはなんだ?」


「逃がした供物をきっちり殺さなくては我らが神に顔向けできない」


 強力な毒を持っているから裏が居ると思っていたが、やはり邪教徒か!


「そこまで言って俺を逃がしたら邪神もさぞ不満だろうな」


「あの御方の事を邪神と呼ぶな! あの御方こそ真の解放者!」


 初めてサウルの動きに乱れが出た。俺のステータスで凡その位置が掴めたがすぐに分からなくなった。


「供物の戯言で一歩踏み間違うとは、お許しください我が神を!」


「矢はもう尽きたはず。尻尾を撒いて逃げれば?」


「愚か。いえあの御方のお力を理解できない愚昧の徒に言っても無駄か」


 好き勝手言いやがって! 逃げる気が無いのなら確実に殺す。この状況になってサウルとの戦いで初めて有利になったと確信した。


 ガサッ、ガサッ。


 モンスターか野生動物でも来たかと思い音のする方を見た。


「おい、マジかよ?」


 そこにはゾンビとなったスキンヘッドとモヒカンがノロノロと歩いていた。特にモヒカンの方は片足がもう少しでポッキリ折れそうだ。ニューハーフの死体は運よく視界内にあった。彼は動くそぶりを見せない。頭を落としたからか、毒で死ななかったからか?


「夜こそあの御方の世界! 俺はゆっくり見物させて貰おう」


 ゾンビは真っ直ぐ俺を目掛けて歩いている。頭を潰せば止まるはずだ。だが体中に回った毒がまだ生きていれば返り血で死ぬ。『光魔法』か『火魔法』を取るか? 俺の魔法系のステータスがここまで低く無ければ間違いなく最適解と言えた。


 そう、俺が人間ならば!


 ヴァンパイアとゾンビを同列に扱えばヴァンパイアが七族を皆殺しにするほど怒るだろうが、ルルブでは同じアンデッド仲間だ。ヴァンピールは怪しいが、俺には『マナ呼吸』がある。少なくとも知能の欠片も無さそうなゾンビを騙すのは余裕だ。


 俺は呼吸を止め、ゾンビの視界から消えた。先ほどまで真っ直ぐ進んでいたゾンビが止まり、とろい動作で首を左右に動かす。そして誰もいない所を目指して歩き出した。即ち、そこにサウルが居る。人間の俺とサウルならゾンビは隠れているサウルを感知できない。でも俺が消えれば微弱なサウルの息遣いに反応する。


「何故こっちに来る! 供物はあそこだ! 見えないのか!?」


 焦るサウルの声が静かな夜の森で良く通る。サウルは夜目が効く見たいだから未だ俺の事が見えている。


 しかし思った通りだ。サウルにはゾンビを支配する方法が無い。ゾンビ二体が戦力として使えるのなら、毒矢で援護すれば俺は大苦戦した。


 だが依然としてサウルの居場所を捉えるには苦労する。ゾンビ二体の動く方向である程度分かる。サウルの思考が正常なら一目散に逃げる。予想外の事態で混乱しているこの時を逃したら俺の勝ち目は霧散する。


 サウルが俺の方に来るみたいだ。左側を通過して俺の体がゾンビの進行方向上に来る状況を作るつもりか。だがこの暗闇では小枝を踏まずに走る事は出来ない。ここまで近づけば俺でも分かる!


「サウル、覚悟!」


 俺の槍が確実にサウルの脇腹を刺した。


「狙い……通り!」


 サウルは自分から槍に深く刺さりながら俺に近づいた。予想外の動きに俺は一瞬硬直した。


「何!?」


 そしてサウルは至近距離に近づいた俺の首を猛毒の塗ってあるナイフで狙った!


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