表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

22/416

022 奥地 毒矢

「毒を使うなんて、なんて非道な!」


 ニューハーフが俺を糾弾する。モヒカンはどうすれば良いのか分からずオロオロしている。


「矢じりの毒だ」


 俺は警戒度を上げて答える。あの二人は俺の言う事を信じないだろう。そしてここからは全力で殺しに来る。それに姿を見せていない弓使いの危険度が跳ね上がった。数滴だけであんな筋肉だるまが死ぬようなら余程強い毒を使っている。


「ぐげ……」


 そしてスキンヘッドが息絶えた。俺が刺した脇腹には大穴が空いており、骨も内臓も溶けていた。未だ「ジュー」と音が聞こえるから毒の効果はまだ続いている。これだけ強い毒はクロードの記憶にはない。ルルブならヒドラなどの高レベルモンスターから採取した毒と書きそうだ。卓上では「ヒドラ毒」が金で買える最も効果のある猛毒だったが、こいつらのコネで買える物か?


「許さねぇ!」


 怒りで我を忘れたモヒカンが防御を捨てて殴りかかってきた。槍で刺せば勝てると思うが、俺も大けがを負う。頭への直撃になるだろうから死ぬ確率が高い。


「ちっ!」


 ゴブリンガードから手に入れたもう一つの盾をモヒカンの足元に投げた。


「うお?」


 うまい具合に踏んでくれた。筋肉だるまの体重で盾が割れた。そしてそのままバランスを崩して滑って頭から大地にダイブした。それで終われば良かったが、モヒカンが倒れる横からニューハーフがレイピアによる流れるような連撃を決めてきた。この動き、細剣レベル3はある! 力任せの筋肉だるまと違い、ニューハーフの実力は本物だ。それに俺が盾を投げたのを見てこの展開を瞬時に想定して、モヒカンに止めをさせない様に動いた。


「毒が無くなったら逃げるしかないのかしらぁ」


 懐に入られては槍では不利だ。槍と細剣レベルの差のおかげで攻撃を受けて流すのは簡単だが、ここから反撃に転じる方法が閃かない。敵の挑発を適当に無視し、回避しながら距離を取る。クロードなら貴族の誇りに賭けて逃げないが、俺はクロードじゃない。このまま逃げ切れるなら逃げる!


「待てごらぁぁぁ!」


 鼻血を垂らしながら起き上がったモヒカンも迫ってきた。だが先ほどの広場から木々が多い場所に戦場を移した今、モヒカンの長所は半分封じた。距離さえ取れば負けない。後はニューハーフに誘導されない様に戦うだけだ。それにしても矢はいつ飛んでくるんだ?


「サウル、何をやっているのぉ」


 どうやらニューハーフの方が先にキレたみたいだ。仲間が一人死んだのに未だ援護射撃すらない。それに後衛なら回復アイテム類を預かっている可能性が高い。本来なら普通の毒だと思って毒消しを使うはず。それを使う素振りすら見せなかったと言う事は弓使いは既にパーティーを見限っている。少し冷静になって考えればあのニューハーフは気付くはずだ。すでに三つ巴になっている事に!


「しょせんは腰抜け野郎だぜぇ!」


 モヒカンがまた無謀な突撃をしてきた。しかし木々が邪魔してスピードが乗らない。先ほどの叫びも上手く行かない事に対する自分への苛立ちだろう。


 そしてそれは無理をして俺との距離を詰めようとした時に起こった。


 ガキン!!


「痛えぇぇぇ!!」


「えっ、何やっているのよぉ?」


 モヒカンの右足がとらばさみを踏んだ。モンスター用の罠であり、人間なら肉が削げ落ち骨まで軽く折るタイプだ。派手に飛び散った血を見る限り、もう戦う以前に歩くことすら出来ないだろう。回復魔法で治すのならせめて光魔法レベル3は必要だ。こいつらの稼ぎだと払えたとしても数か月分の稼ぎになるだろう。俺は卓上経験から足元が見えない茂みを意図的に回避していたが、そんな罠があるなんて驚きだ。一体誰が仕掛けたんだ? 愚問だったな。


「俺は逃げる」


 それだけ言ってその場を去ろうとした。死亡1重傷1ではあのニューハーフは諦めるはず。


「うががが……」


 急にモヒカンが喉をかきむしり出して泡を吹いて倒れた。足の出血と併せてスキンヘッドより早く死ねそうなのがせめてもの救いか。


「まさか、罠にもあの毒を!?」


 無責任すぎないか? ここはモンスター以外に冒険者も偶に来る場所だ。毒付きのとらばさみなんて放置したらどれだけの人が被害に遭うか見当がつかない。


「サウルゥゥゥ、今すぐ説明しなさいよぉ!!」


 辺りを見回しながら叫ぶニューハーフ。しばしの静寂の後、答えは背中への毒矢で帰ってきた。


「がはぁ! 裏切ったのねぇ……なぜ」


 崩れ落ちるニューハーフはまだ死んでいないが、あの毒を受けては助からない。しかしレベルが高いだけに長く苦しみそうだ。ニューハーフが俺を見た。ブラック企業で心がすり減った俺には分からなかったがクロードの記憶が正解を教えてくれた。


「今楽にしてやる!」


 俺は駆け寄り槍の一閃でニューハーフの首を斬り飛ばした。最後に「ありがとう」という感じでニューハーフの唇が動いた気がしたが、俺の気のせいだろう。こんな形で最初の殺人をするとは思ってもいなかった。だが、次の殺人は自分の意志でやる。やらなければならない。

応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ