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002 秩序の神

1月は毎日8時に更新します。

 気が付けば白い空間に居た。死後の世界かそれとも昏睡状態で見ている夢か。前者なら良いが、後者なら早く目覚めて仕事に行かないといけない。


「人の子、只野蔵人よ、貴様は死んだ。しかしそれでも仕事に行かんとする心持ちは評価に値する」


 俺の目の前に白いのっぺらぼうの様な存在が現れた。ポリゴンの数が足りないのか、テクスチャーを貼れないのか、どっちだろう。二昔前のゲームでは良く遭遇した現象だが、現在は低予算のローポリゲームでももう少しはマシな描画をしている。


「もしかして神様?」


 初対面なのに俺の名前を知っていたし、こんなドッキリに予算を使う会社じゃない。無難な所は神か医者だろう。


「我は秩序の神……」


 名前は聞き取れなかった。姿形が分からないのと同じ理由だろうか。でもこの声って何処かで聞いた感じがする。


「それで、俺は死んだと」


「そうだ。本来ならこのまま輪廻の輪に帰る所だが、今の貴様は永遠に帰る事が出来ない」


「な、何故!?」


 まさか、サビ残が足りなかった!? それとも係長が俺の給料から万札を数枚抜いた事を部長に報告したから!? それ以外だとライバル企業の倉庫を放火する事を断固拒否したから? それが原因だとは思いたくない。少なくても禁固刑を食らう様な仕事はしていない。だから永遠の平社員でもあった。


「前世の遵法精神は関係が無い。ただ放火していた場合、我は貴様に手を差し伸べなかった」


「ギリギリセーフ!」


 放火のボーナスで卓ゲーの新しいルルブが買えたので迷ったが、我慢した俺は偉い! 初版が売り切れてネットでは中古本が定価の10倍で売られているのを見て何度悔やんだか! だがその苦しみは決して無駄では無かった!


「貴様は最後の行動を何処まで覚えている? 違和感は無かったか?」


 神は俺の事を気にせず淡々と話を進めた。とにかく必死に思い出してみる。


 高校生バカップル。そしてトラックの前に飛び出した。それは覚えている。


「変だな」


 思い返すと、あのタイミングではとても間に合わない。そして何より……


「俺なら助けなかった」


 俺は自分の命を犠牲にして他人を助けるほど高尚な男じゃない。俺なら例え助けられる状況でも見捨てていた。


「左様。貴様があの二人を助けたのは我が貴様を動かしたからだ」


「何だって!?」


 俺はこの秩序の神に殺されたのか。だが、何故!?


「大きい秩序のためには小さな犠牲だ。しかし秩序の神として貴様をこのままにはしておけない」


「まさか証拠隠滅のために抹消……」


「逆だ、愚か者!」


「ご、ごめんなさい」


 ブラック企業で磨いて来たノータイム土下座の腕を見せてやる! これを見れば神に俺の誠意が伝わるはず。


「貴様の土下座と都合などはどうでも良い。秩序の神たる我が秩序を乱すのは許されぬ事。我が過ちは正さねばならない。そこで貴様には二つの選択を与える」


「二つ!」


 最初は絶対にNOと言う様な選択なんだろうな。神の本命は絶対に二つ目だ。


「最初の選択はこのまま本来の体に戻り死ぬ事だ。我と話したことにより魂が少し強化されたため、肉塊となった元の体でも数時間は生きられよう」


「その時の痛みとかは?」


「その精神力では体に戻った途端に痛みで発狂してのたうち回るだろう」


「俺にメリット無いですよね?」


「これなら輪廻の輪に帰る事が出来る」


 人間として死ねるのがメリットか。仕事を続けられるなら選択したんだが死ぬだけではうま味が足りない。


「二つ目の選択は我の異世界に転生する事だ。転生と言ってもこちらで新しい成人の体を用意する」


「いきなり大人からですか。その世界の常識や身分が無いと辛いのでは?」


「赤ん坊から始めたいのなら構わないが、成人する頃には世界が滅びているぞ?」


「えっ!?」


「我は滅びを回避するため、5年後に地球から勇者を招く。されど、その勇者に与える予定の力が正しく機能するかは賭けだ。そこで貴様だ。勇者に与える力の試作品を与えよう」


「なんか凄い力なんですね!」


「貴様では十全に使いこなす事は無理だ。良くて1割か。そして力に溺れて自滅するだろう」


「何とかならないんですか?」


「魂には格と言うものがある。貴様の魂の格では我が新しく構築した勇者の力の一端をギリギリ使える程度だ。本来の勇者が持つ華々しい力は何一つ使えない」


「俺は転生しても俺なのか」


 転生とか勇者とか聞いて舞い上がった自分が恥ずかしい。もういっそ元の体に帰って死のう。


「これは貴様に取ってはまたとないチャンスだ。我の世界で何かを成せるチャンスを捨てるか?」


「俺がブラック企業のイエスマン以外の何かになれると言うのか!」


「雀の涙ほどとは言え、勇者の力を持つのだ。しっかり鍛えれば凡百の徒など鎧袖一触だ」


「やる! いえ、やらせてください!」


 力に溺れて自滅すると言われたのをすっかり忘れて俺はこの提案に飛びついた。


「そうか! やってくれるか」


「ですが、やはり俺は不安だ」


 さて、ここから交渉で上乗せだ。神はどうしても俺を転生させたいらしい。世界の滅亡が掛かっていれば当然なのか? とにかく俺の持つ卓ゲー知識基準で勝負を掛ける!


「貴様の格はこれ以上上がらない。何かを神界から持ち込む事は不可能だ」


「形あるものじゃなくても」


 本当はお金とか欲しいんだが、神には人の心は分からないか。それに聖剣とか貰っても俺なら「売る」の一択だろうし。低レベルの俺がシナリオボスが直接出向いてくるような危険物を持つなんて自殺行為だ。


「なら貴様の頼みで我の奇跡を一度だけ起こそう」


 奇跡って神が直接現世に介入するあの奇跡? 今度は使いどころか難しいものを出して来た。でも、これを超えるものを俺の交渉力で引き出す事は無理だ。回数を三回に……は神の顔を見る限り無理だ。二回……二回なら行けそうだけど、それは俺がブラック企業で培った交渉術をフル活用しての事だ。確実に相手の不興を買う。流石に秩序の神を名乗る存在に睨まれたくはない。


「分かりました! それで結構です」


「そうか」


「それで、俺は具体的に何をすれば良いのです?」


「貴様に与える勇者の力を使え。我が定期的に貴様の軌跡を見る事で未来の勇者に与える力に必要な修正を加える」


「分かりました!」


 一見簡単に見えるが、目に見える指標が無いので実際にはとんでもなく困難な依頼だ。何処までやれば良いのか分からない。報連相すら無い。しかしここでそれを聞くのは忍びない。ブラック企業では上に報連相する事は給料を抜かれる事と同義だった過去が俺を苦しめた。


「なら、そろそろ行くが良い。貴様の旅路に……の導きがあらん事を……」


 秩序の神が話し終わらない内に俺は大いなる光に包まれた。


「えっ!? まさかG……」


 思い出した! オンライン卓ゲーのゲームマスターの声だ。あの最後のフレーズは冒険を開始する時に彼がいつも使っているフレーズだ。畜生!! オフで会ったらウィザードを死んだままにした事で文句を言おうと思っていたのに!!

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