191 ラディアンド籠城戦 魔導鎧と傭兵
「うぎゃあああああ!」
「てめぇは人間じゃねぇ!!」
「死ぬ死ぬ死ぬぅぅぅ!」
「ママ助けてぇ!」
最後の悲鳴は2メートル超のスキンヘッドが発している。大の大人が四人揃って情けないと言いたくなるが、ラディアンドの城壁からダイブしたら当然の反応かもしれない。悪い意味で感覚がマヒしていた辺境伯の魔導鎧乗りなんか涼しい顔して俺に捕まっていたので、そこら辺は本当にエリートなんだろう。
体全体にドガンと衝撃が伝わり、大地に着陸したのが分かる。
「展開! ……お~い、そろそろ降りろ」
「助かったぁ!」
「おお神よ!」
「おらぁ田舎帰って畑耕すだ」
「バブー」
四人は固まって動かない。操縦席にまでアンモニア臭が入って来て辛い。
「いい加減にしろ、ゴラァ!」
着陸地点から少し離れた場所で見ていたカーツが容赦なく四人を殴る。それでやっと俺が『アイテムボックス』から出した魔導鎧に向かう。
「うげっ!」
急いで離れようとして腹が締め付けられる。
「ロープを切れ!」
四人はダイブのショックで腹にロープを巻いている事を忘れていた。だから俺から離れようとしても離れられない。カーツに言われて震える手でロープを切って自由になる。安全帯なんて便利なものは無いから、俺がロープで取っ手と腹を結ぶ様に指示を出していた。咄嗟に取れないのはやはり問題だ。しかし命綱無しでダイブはそれ以上に危険だ。魔導鎧に乗り込む事にすらまごつく傭兵を見て、それ以前の問題かもしれないと考える。
「予行演習して良かったな」
「ああ、流石にこれほど勝手が違うとは……」
俺の発言にカーツが同意する。出撃は明日からと聞いたから、今日は無理を言って実地訓練する事にした。本来は城壁から外にダイブするが、今日は安全な中にダイブしている。外ならもう何回全滅しているか分からない。
「ダイブに関しては慣れが一番だ。数回飛んで落ちないと分かれば行ける」
「行けない奴は明日の出撃から外す」
俺は後何回野郎の液体濡れになれば終わるのだろう。
「ロープは大事だがやはり切るのに時間が掛かる」
「明日の出撃までに知り合いの鍛冶師にアッシュの考えたリング状のクリップを用意させる」
俺は詳しい形状を知らないし、この世界の技術で再現出来るか分からない。なのでどういう効果を望むか説明して、後はカーツに丸投げした。本当は安全性のテストをしたいが、明日ぶっつけ本番になる。
「ツーマンセルの動きはどうだ?」
「厳しいかもしれない」
傭兵の魔導鎧乗りはツーマンセルで戦わせるように進言した。これなら少し強いオークと戦っても生き残れる。辺境伯の魔導鎧乗りもツーマンセルならもう少し信用出来た。しかしツーマンセルには問題がある。俺とツーマンセル2組で3つの戦線を構築するが、以前の単独行動だと5つの戦線を構築できた。そして3つの戦線の方が倒せるオークの数が減ると思われる。オークの数を減らすのが至上命題だと考えると、これは余り良くない。
辺境伯の魔導鎧乗りは一人で戦線を維持する事でペンタゴン型の防衛陣地を構築し、背中への攻撃を回避していた。前方に攻撃を集中し、万が一横をすり抜けられたら後退しながら迎撃できた。そしてオークの攻めに合わせてペンタゴンからスクエア、そして最終的にはトライアングル型になれた。彼らは誰の指示も仰がず日々の訓練で自動的に布陣出来た。そう考えると彼らを見直さずにはいられない。
「戦線を無理に押し上げると裏を取られるか」
「指揮官の不在が痛い」
微妙に話がかみ合っていない?
「あいつらの一人を指揮官にしてフォーマンセルだと戦線維持が出来ないぞ?」
「スリーマンセルでトライアングルが理想だが……」
カーツは殺害数よりもスリーマンセルによる柔軟な行動に重きを置いているみたいだ。傭兵としては殺害数にそれほどこだわりが無いのかもしれない。軽く聞いた限り、殺害数が増えてもボーナスは出ない契約みたいだ。
「6人でダイブしたら解決するか?」
俺は意を決して言う。
「……それは確実に。しかし6人を背負ってダイブ出来るのか?」
カーツがしばし熟考して答える。一日に6人と6機を出す事のメリットとデメリットを必死に考えているのが分かる。数を増やしても予備の魔導鎧乗りは増えないし、出撃ごとの魔導鎧の整備計画も一から練り直す事になる。それでも死の危険がある現場の事を最優先で考えて数を増やす方に傾く。
「安全帯があれば」
今の俺ならもっと余裕で背負える。しかし人が増えれば増えるほど落ちた際に助けるのが大変になるのは変わらない。安全帯さえあれば必要な労力をほぼゼロに出来る。
「なら6人で飛んでくれ」
「分かった」
決まってからのカーツと傭兵団の行動は早かった。俺とカーツ、そして戦場に出る予定の傭兵は昼飯を食いに行く。傭兵団の裏方担当が魔導鎧の整備担当と安全帯を作っている鍛冶師に走り、各種調整を開始する。俺の方からはエミールを整備担当のドワーフに送る。アドリアンの魔導鎧を整備していたドワーフらしく、彼と多少交流があるエミールが話した方が色々と上手く行くと考える。
昼飯から帰って来る頃には俺の魔導鎧は6人を背負う前提で取っ手が増えている。もはや戦闘用の魔導鎧と言うより運搬用の魔導鎧と言った方が良いいで立ちだ。幸いにも魔導鎧は戦闘専門と思われているので、俺の魔導鎧はただの不格好な魔導鎧としか思われない。魔導鎧の持つ戦闘以外のポテンシャルに人類が気付けないのが人類の一番の損失かもしれない。パイロットの数が限られている高級装備なので仕方が無い面はあるが、重機として使えると言うパラダイムシフトを引き起こせれば王国は更に反映するから実に惜しい。
それからは太陽が沈むまでダイブ組とスリーマンセル組に分かれて訓練を続ける。数十回のダイブを繰り返した俺の魔導鎧は尿とリバースされた昼飯でコーティングされる。訓練終了後に引き取るために近くで見ている清掃担当の見習いドワーフの顔が引き攣っている。見なかった事にしよう。スリーマンセルの方は詳しく見ていないがカーツは声が枯れるまで叫んでいたので形になったと信じる。
「終わったな。ダイブには慣れたと思う」
「こっちも展開からのスリーマンセルの基礎は出来た」
「後は明日の本番以降か」
「念のため、明日は予定より早く撤収だ」
「分かった」
カーツと訓練の成果を話し合う。結構甘い採点をしている気がする。
「つうか、良く付き合ってくれたな。感謝はしているが、少し意外だ」
「カーツ達は聞く耳を持っていたから。俺の方から前の奴らにもう少し歩み寄るべきだったかもしれないが、俺にはハードルが高かった」
嫌われている所に飛び込み営業なんて前世で十分だ。
「その分、俺達が活躍出来そうだから俺は気にしないぜ!」
「ははは、カーツらしい。それより飲みに行けるのか?」
俺に気を遣ってくれたことくらいは分かる。これ以上続けても愚痴大会にしかならないし、話題を変える。
「傭兵は死んでも飲む、買う、打つだ! 行くぜ野郎ども!」
「「おおーー!!」」
酒場に意気揚々と向かうカーツ達。俺はエミールと共に追う。これって経費で落ちるのだろうか? 落ちなければヘンリーに付けるから許せ、と心の中でヘンリーに謝る。そしてエミールを出汁に早退していなければ酒場から城壁に直接出勤する羽目になっていた。
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