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189 ラディアンド籠城戦 反動

「ここは……見知った天井か」


 マクシミリアン邸にある俺の部屋だ。どうやって戻ったのか記憶が無い。


 外は昼みたいだ。これは完全な遅刻と罵られても仕方が無い。とにかく城壁に向かうべきだと思い、ふらつきながらも立ち上がる。


「ああ! アッシュ様!」


 体を壁に預けながら部屋を出るとエミールに遭遇する。


「エミールか。城壁に行ってくる」


「その体では無理です!」


「俺のせいで防衛に穴を開けるわけには……」


「昨日も休んだので今日休んでも変わりありません!」


 二日経過している? 無断欠勤2日はまずい。


「殿下を呼びますので、話を聞いてください!」


「……分かった」


 俺にエミールを押しのけるだけの体力があれば違ったが、どうやら思ったより疲れているみたいだ。


 ベッドに寝転んでいるとマックスがノックをせずに部屋に飛び込んでくる。


「アッシュ、目覚めたか! 一時はどうなるかと心配したんだぞ!!」


「大袈裟な。ちょっと疲れただけだ」


「バカ! シーナの魔法でも治せない重症だったんだ。私がどれだけ心配したと思っている!?」


 シーナのスキルで過労は治せないだけじゃないか?


「それはすまなかった。そもそもそんな重症の自覚すら無いんだが?」


「そんな無自覚だから私を筆頭に皆が心配するんだ」


「分かった、分かった。今度からは気を付ける」


 何とか涙目のマックスを宥めすかし現状を聞く。


「まずはアッシュが倒れた理由だが、聖戦士としての力を使い過ぎたのが原因だ。あんな大魔法をノーリスクで放てると本当に思っていたのか?」


 マックスの話を聞くに、風の大精霊の魔力を自由に使える反面、使った魔力は後日徴収される。俺が2日間も目覚めなかったのは死の一歩手前まで魔力枯渇に追い込まれていたのが理由だ。けち臭い大精霊だ。悪魔と戦う場合は事後徴収を免除してくれる事もあるそうだ。


 しかし数日ぶっ倒れる事と引き換えに自由に大魔法を放てるのは使える!


「アッシュ、大魔法を悪用しようとしていないか?」


「そんな事は無いぞ?」


 顔に出ていたか?


「信じているからな。現状だが、アッシュが味方を攻撃した事が問題になっている」


「やはり殺しておくべきだったか?」


「とんでもない! 彼らが生きているから辺境伯とも手打ちが出来るんだ!」


「また手打ちか?」


「すまない」


「はぁ、マックスのせいじゃない。それに今回は俺の責任の割合が多い」


「とにかく魔導鎧乗りの騎士爵の命令無視とアッシュの味方攻撃は功罪相殺となった。今回の件では珍しく侯爵が辺境伯を非難してくれた事で思ったより有利な形で手打ちが出来た」


 早口でまくし立てるマックス。


「そうか」


「ただし、辺境伯の魔導鎧乗りがアッシュの下で戦いたくないとボイコットをしている」


 この状況でそんな個人的な感情を優先すると言うのか!


「半数を吊るせよ!」


 クビに出来るのならそれが最善だが、権力構造と密接に絡み合っていると生きて転職は不可能に近い。


「それは流石に無理だ」


「だろうな」


 辺境伯に取って地縁がある主力の魔導鎧乗りを失うわけ位にはいかない。逆に俺は籠城戦が終われば出て行く。俺を犠牲にして地元民を助けるのは当然だ。それでこの籠城戦に勝てるのなら世話無い。ただ俺の一日の戦果が辺境伯の魔導鎧乗りの一月の戦果を余裕で越えそうなので対応に苦慮している感じだ。


「幸い魔導鎧の修理は今日の夜まで掛かる。それまでに説得が終わるはずだ」


「俺が2日休んだ事も問題にならないのか?」


「出撃出来ないので自宅待機扱いだ」


「それだけは良かった」


 コンコン。


「アッシュ様、カーツ様と名乗る方が話があると屋敷を訪ねてきました。取り次ぎましょうか?」


「「カーツが!?」」


 俺とマックスがハモる。将来の栄転を考えるのならここに来るのは下策。それを知っているカーツが訪ねて来るのは余程の事だ。


「通してくれ」


 俺は即答する。


「おう、見た目より元気そうじゃねえか?」


 ズケズケと部屋に入って来るカーツを見てエミールが目を白黒させている。マックスの正体を知っていてこんな態度を取れる男はそういない。エミールがここに滞在すればするほど、彼の貴族常識が粉砕される。


「倒れた事を知らない程度には元気だ」


「ははは! となれば殿下と嬢ちゃんたちに後でこってり絞られるんだな」


「病気を理由に面会謝絶にならないか?」


「俺に会った時点で無理だと思うぜ」


「困ったな。怒らせると命は無いが、泣かれるとどうなるんだろうな?」


「押し倒されるんじゃないか?」


「そうなったら笑えない。侯爵に火葬される」


「俺が近くにいない時にやるように言っておくぜ!」


「はは。で、そろそろ本題に入れよ?」


「部下に逃げられたへぼ隊長に付く契約を結んじまってな。隊長の面を拝みに来たわけだ」


「はぁ、そんな隊長に付くなんて物好きだな」


 俺が聞いた限りカーツの傭兵団は5伯爵の一人に雇われていたはず。となると辺境伯は違約金を払い、尚且つより良い条件で契約したか。配下の魔導鎧乗りの説得に失敗したか、はなから説得する気が無く傭兵を兵士として押し付ける事を選んだか。世間は俺が降格されたと判断する。それは別に構わない。だが辺境伯の譜代が不在だと気軽に死地に送り込まれそうだ。


「知らない奴なら絶対に断った。知っている奴でも普通は断る」


「ならなんで?」


「気になる噂を聞いてな。位階レベル20になったって本当か?」


「ああ」


「そうか。心配した通りだ」


「心配? そもそもどうやって俺が位階レベル20になったと知ったんだ?」


「酒場でアッシュの部下……今は元部下か、から聞いた」


「良く接点を持てたな」


「あいつらはお高く留まっている貴族様だが、魔導鎧乗りって共通点があるんでな。そう言う輩が集って愚痴る高級店があるんだ」


「さしずめ俺の悪い噂は酒のつまみか」


「店の外なら決闘沙汰な話ばかりだぜ」


「詳しくは聞かないさ。そう言うルールなんだろう?」


「そんな所だ」


「店で知ったのは良いとして、あいつらに位階レベル20の事は伝えていない」


「あいつらも知らないと思うぜ。『戦闘中に突然人が変わった』と言う情報の価値を認識出来ていない」


「それだけで?」


「少なくても直接確認に来る程度の価値はある。そして大当たりだった」


 ルルブに記載されていない秘密が位階レベル20にはあるのか? 少なくてもカーツは何か気になる事があって訪ねて来た。


「大当たりなら何か景品でも貰えるのか?」


「俺のありがたい過去話を聞かせてやろう」


「野郎しか出ないならパスしたいぞ?」


「アッシュの年齢なら絶対聞きたくなる血沸き肉躍る冒険譚だぞ!」


「本当?」


 ジト目で睨む。


「たぶん」


 露骨に目を逸らすカーツ。


「まあ良い。今日はベッド生活を続けろってマックスが五月蠅い。俺の採点は結構厳しめだぞ?」


「言ったな! 今回は何処から始めるか。天地開……」


「ツッコミ待ちか?」


「ちょっとしたジョークだ。聞いているのが分かったし、本題の南方戦線時代から始めよう」


 そうしてカーツは話し出す。

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