184 ラディアンド籠城戦 空襲
ラディアンドを囲む城壁の上から見下ろす。オークしか見えない。
「隊長、準備完了です」
「分かった」
俺を隊長と呼ぶ30代の騎士爵が「とっとと攻めろ」と急かす。彼を責めるのは酷だ。辺境伯の見立てが甘すぎた事で籠城側が浮足立っている。
ラディアンド籠城戦が本格的に始まって6日。俺はこれまで5回城壁の上からダイブしてオークに痛撃を与えている。俺が降下時にキャリーする魔導鎧乗りは4人だ。最初の内は降下時の風圧で手を放して落下死したり着陸時のショックで足が折れたりと散々な結果に終わる。それでも3回目からは俺が内緒で『風魔法』を使ってサポートする事で全員無事降下出来るようになる。
全員が俺の魔導鎧に捕まった事を確認し、城壁から一歩空に踏み出す。魔導鎧は重力に沿って自由落下を開始する。俺の魔導鎧の頭に付いている1メートルを超える鮮やかな羽飾りが風で揺れる。どう考えても敵を誘引する呪いのアイテムモドキだが、支給品ゆえに勝手に改造できない。
「シエル!」
魔導鎧の中は魔導炉のおかげで魔力密度が濃いのか、俺はシエルを視認できる。風の大精霊が全力で力を貸してくれたら楽だが、悪魔と戦った時のような手厚いサポートは無い。最低限空を飛ぶ助力は得られているので、それ以上は無理強いしない。俺に力を貸すのは風の大精霊の本意で無いのは分かっている。それを無視して度を超す力を引き出せば結果は良くないものになる。
「今日は誰を落とすー?」
「全員無事に届ける!」
「つまんないー」
賽子を振って落とす男を決めたい衝動に駆られるが、そんな事をしても俺が不利になるだけだ。一気に加速してオーク達の中心に強行着陸すると同時に両手に持っている3メートルのブレードを振り回す。1分も掛からずに100人近くが肉塊と変わる。ここまで上手く行ってのは全部シエルのおかげだ。口では色々言っているが魔導鎧と『風魔法』の制御で失敗した事は無い。
「展開!!」
俺は叫ぶと同時に『アイテムボックス』から待機状態の魔導鎧を4機取り出す。連れて来た魔導鎧乗りがそれぞれの魔導鎧に乗り、近くのオークを手当たり次第に殺しだす。周りはオークだらけだから武器を振れば最低でも一人は殺せる。
「西ー」
「了解!」
シエルが強いオークの居場所を教えてくれる。大抵は俺に向かって真っすぐ突撃しているので分かりやすい。
「オークキャプテン!? 遂にこのクラスの奴が出て来たか!」
オークを無理やり王国軍の階級にはめ込むとオークキャプテンは千人隊長だ。これまでは百人隊長相当のオークコマンダーを良く殺しているが、ここまでの大物は今回が初めてだ。オーク軍は数が多く、尚且つ部族単位でまとまっている。一部族が奇襲を受けたとしても他の部族は原則として援軍を出さない。なのでこれまでは一部族ごと殲滅し、時間と共に撤退を繰り返してきた。オークキャプテンが動くとなると部族単位を越えた枠組みで動くと言う事だ。
「隊長、今日はやけにオークが多い!」
「オークキャプテンを殺して撤退する! 全員もう少し暴れろ!」
俺は弱音を吐く魔導鎧乗りを叱責して強敵と斬り結ぶ。ボキンと俺のブレードが一本折れるも構わず打ち込む。オークキャプテンは強いがオークチャンピオンの足元にも及ばない。
「貴様に負ける余裕は無いんだぁぁぁ!」
軋む魔導鎧を無視してオークキャプテンの首筋にブレードをねじ込む。
「限界ー!」
「粗悪品が!」
二日で一機使い潰す事で整備をしているドワーフからまた小言を食らいそうだ。その内、辺境伯の指示が無くてもサボタージュされそうで怖い。それとも低品質過ぎて自然と戦場のど真ん中で壊れるか? まだ整備のための予備部品は多く、整備員も疲れていない。今の生活が数か月続けばどうなるか心配だ。
「離脱!!」
俺が叫ぶのと同時に4機が俺を取り囲む。その外から纏わりつこうとするオークを無視して垂直に上昇する。最初の頃は城壁目掛けて斜めに飛ぼうとしたが、魔導鎧の足を捕まえてぶら下がるオークが出て危険だった。一定高度に達すると、後は滑空しながら城壁を目指す。
「全員無事か!?」
「大丈夫です」
4人と軽く言葉を交わし別れる。4人は今日の戦果を報告しに行き、俺は魔導鎧5機を整備工房に持って行く。隊長の俺が報告しなくて良いのか疑問に思うが、ここにも中央貴族と地方貴族の確執が色濃く出る。オークキャプテンの手柄は誰のものになるのか、と悪い考えをしながら移動する。手柄を取られるのは構わないが、オークキャプテンを殺したと主張すると他の戦場でもオークキャプテン担当になるリスクを分かっているのだろうか? それで死ぬのならその程度だと割り切る。
「魔導鎧5機を置いておくぞ!」
整備工房のドワーフ達は無言で俺を睨むだけだ。整備不良となれば首が飛ぶだろうから、しっかり整備だけはしてくれると信じたい。そのまま工房近くで俺の帰りを待っている馬車に乗り込む。
「お疲れ様です! マクシミリアン邸で?」
「頼む」
宰相家の御者だけあり、彼の対応は丁寧だ。
「糞どもが! 轢き殺されたいかぁぁぁ!!」
御者がいつも通りに叫んでいる。本来は15分で帰れるのに最近は1時間以上掛かる。貴族の馬車に手を出す事は無いだろうし、俺は安心して窓の外を流れる景色を見る。
人、人、人。人であふれかえっている。それが150(・・・)万人都市ラディアンドの現状だ。落城までのカウントダウンは既に始まっている。
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