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183 ラディアンド籠城戦 作戦(裏)

明日から籠城戦開始です!


結構削ったのですが、長くなった説明パートは今回で終わりです。

「200万の敵はどうするんだよ!?」


 俺は手で顔を覆いながら言う。


「全くその通りだ」


 マックスはため息しながら同意する。闘技場で再会した時より顔が明らかにやつれているが、その理由を行けば頷ける。


 マックスの語る所によると、3つの対立軸がある。貴族なんて表向きは笑顔で付き合いながら水面下で蹴り合うものだが、戦争そっちのけで政治闘争に全力を出すとは呆れる。


 その中で中央貴族同士の暗闘は青天の霹靂だ。宰相家はデグラスの実効支配、聖女の確保、そして悪魔を倒す魔導鎧の製造と言う三大功績を数か月の期間で上げている。王都では「コームグラスに非ずは貴族に非ず」なんて噂が立つ程度に宰相家の権勢は増している。マックスが第二王子だったら間違いなくクーデターか粛清が発生しているらしい。他の中央貴族は宰相家を掣肘したい。そしてそれは中央からの軍事支援が籠城戦に間に合わない最悪の形で結実する。王家の辺境伯家への基本方針を踏襲している形なので王家としては強く反対出来ない。


 その流れで中央貴族と地方貴族の対立が激化する。王家は地方が危機に晒されたら王家の人間と援軍を送る義務がある。偶々デグラスに滞在していたマックスと宰相家の部隊がそれに選ばれる。援軍と呼ぶには余りにも数が心もとないが、封建上の義務は果たしたと主張できる。国王が率いる1万人の援軍を期待したら継承権が事実上ない第四王子一人とその愉快な仲間50人ばかりが来たら誰でもブチ切れる。


「だから籠城戦には参加させないと地方貴族が息巻いたか」


「止せば良いのにヘンリーは彼らの挑発に乗って大神殿の防衛のみ引き受けると言い出す始末だ」


 これだから狂った聖女の光に焼かれた男は!


「でマックスの動かせる手勢が俺だけになったと」


「アッシュだけが頼みの綱だ!」


「ヘンリーのバカが。……どれだけ支援して貰える?」


「出来ればコームグラス家には一切頼らないでほしい」


「分からないでも無いが、流石に厳しい。そもそも戦力が増えるのなら地方貴族が気にするか?」


「今朝まではアッシュが正しい。だが辺境伯はアメリアの件を軍議で暴露した」


「あの糞野郎! 自分から特大の火種を投げ入れるか!!」


「地方貴族に取って、自分の先祖が仕えていた旧王家の姫は特別な存在だ。知らなかったとはいえ、それを有象無象の一人として前線で殺される立場に追い込んだ宰相家への非難は天井知らずだ」


 少し調べれば分かる事だが辺境伯は孤児院と孤児の首輪の件は一切言わなかった。侯爵家も出来れば明かしたくないので黙っていた。なのでラディアンドの地方貴族が一致団結してコームグラス家を生贄のやり玉に挙げる。ラディアンド貴族の心が一つになったのは旧王国滅亡以来初めての事だ。


「で、ヘンリーは今何処に?」


「侯爵家に釈明しに行っている」


「ボロ負けか」


 俺はアメリアの件を侯爵邸から帰ったその日に二人に伝えている。翌朝ヘンリーはグリフォン便で実家に事の次第を伝えた。恐らく今この時に宰相が手紙を読んでいるだろう。そして数日後に返事が来るはずだ。宰相が何らかの手打ちを提示すると思われるが、ヘンリーが先に侯爵と話し合うとそれがご破算になりかねない。侯爵は他の地方貴族の手前、卸しやすいヘンリーに無理難題を吹っ掛けるだろう。


「辺境伯の手腕は認めるしかない」


 マックスは苦虫を嚙み潰したように呻く。王都と距離があるとはいえ、ラディアンド内での政治闘争ではマックスとヘンリーが犯したミスの傷口を広げる形で辺境伯が有利に立ち回っている。


「デグラスでは勝ったと思ったのに残念だ」


「そのデグラスも『援軍を送れない』状態のために更に王家への風当たりが厳しい」


 デグラスのドワーフが100人ほど援軍に来たらどれだけ助かるか。だがラディアンドは「宰相家の援軍はお断り」ムードだ。宰相家はデグラスを実効支配しているだけで軍権に関してはグレーゾーンだ。デグラスから軍を動かせば敵対している中央貴族から集中砲火を食らう。「ドワーフは独立勢力」くらいの政治的配慮を希望したいが、ヘンリーがそんな柔軟な外交を展開出来るのなら偽者を疑う。


「侯爵家と辺境伯家が対立していなければオークに関係なくラディアンド地方を失っていたぞ」


 恭順派と独立派、そして日和見派。侯爵家とギセルの実家である伯爵家は恭順派。辺境伯家と3つの伯爵家は独立派だ。残り2つの伯爵家は日和見派らしいが、内心はどう思っているか謎だ。辺境伯が別の伯爵位を持っているから籠城戦に5人の伯爵しか援軍を出さないのに全部で6人の伯爵が居る。辺境伯はアメリアを娶る事でギドルフが侯爵になるアシストを約束したらギセルの実家を味方に出来る。そして侯爵が死んでギドルフの時代になれば侯爵家も味方になる。


「この流れを断ち切るには王家が英雄的な活躍をしないといけない」


「俺に前人未到の戦術をやらせる事に繋がるわけか」


「辺境伯が考えた戦術だから心配なのは分かる。でも辺境伯はこのままでは守り切れないと知っている。少なくても籠城戦でアッシュに仕掛けはしない」


「少なくても最初は普段より安全かもな?」


 最初期は戦術確立のために手厚いサポートを期待できる。突然の魔導鎧の不調などは勝ちが見えた後に発生すると考えて良い。俺と行動を共にする魔導鎧乗りが全員辺境伯家の人間なのは仕方ないと割り切れるが、俺に与えられる魔導鎧がラディアンド産なのは嬉しくない。


「なのでどうすればこれに同意してくれる?」


 前世と南方にある帝国の軍事組織は上意下達だが、王国はお願いに近い。参戦の義務を果たせばどう戦うかは自由だ。だがそれではまともな作戦行動を取れない。なので上は下が言う事を聞くために飴を用意する。それは金だったり陞爵の約束だったりする。


「出せるものがあるのか?」


 厳しい言い様だが、マックスはここの王国軍のトップだがマックスの財布は王家では無く宰相家だ。飴の支払いを宰相家が持つなら何の問題も無い。しかし宰相家に頼る姿勢を見せるとマックスの立場は悪化する。


「……」


「籠城戦時に滞在出来る屋敷を用意してくれ。大きい準男爵か小さい男爵の屋敷だ。大きすぎると管理できない」


 仕方が無い。俺がマックスの用意出来そうな飴を提示する。幸い一番欲しい資金は決闘で稼げた。屋敷を生かすために欲しい情報は宰相家が奴隷商を拷問して得たはずだから、それはヘンリーから貰う。


「そんな! 私を見捨てるのか!?」


 この世の終わりの様な顔をするマックス。


「勘違いするな。俺は籠城戦が終わるまでここで暮らす。アメリア達の部屋もそのまま残してくれ。だがマックスの頼りない財布と政治力で用意出来そうなものって空き家の使用権くらいだろう?」


「それはそうだが……。直接言われると凄いショックだ。他に何か無いものか?」


「……。そうだ、マックスはちょっと俺の部屋に来い!」


「主君と殿下が二人っきりで部屋に。尊い」


 今まで黙っていたリルが突然変な事を言い出す。


「アッシュが望むなら……」


 顔を赤らめるマックス。


「誤解だ! と言うか二人でわざとやっているんだろう?」


 小さく笑うリルと混乱しているマックスを見て俺は頭を抱える。何とか誤解を解くことに成功するが、後日俺がマックスを部屋に連れ込んだのを見たメイドの噂話が屋敷中に広まる。最悪だ。

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