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181 ラディアンド籠城戦 平和な朝食

 アメリアとリルを侯爵邸に預けて二日が経つ。マクシミリアン邸で少し遅い朝食を食べる俺の横でリルが同じものを食べている。今日も一人飯と思っていたらいつの間にか侯爵家で雇われている貴人が着用する紺色の上級メイド服が隣に座っていて驚く。アメリアの傍に居ても怪しまれないための変装らしい。それはそうとリルの長髪が数本俺の首に巻きついている事を指摘すべきか迷う。間違った受け答えをするとスパッと首が飛ぶ自分の姿を幻視する。


「主君、酷い拷問にあった!」


 銀髪がさらさらになり、フローラルな香りがするリルが言う。売れっ子高級娼婦だった母親の顔立ちを継承しているだけあり、多少の化粧をするだけで見違える。こんな美少女に主君と呼ばれていると知られたら世の男の多くが敵に回りそうだ。


「風呂に入れられた程度で……」


 町に風呂屋はあるが、掃除の雑用以外で孤児が入る事なんて無い。一般市民ですら余り利用しない。水浴びなんて暑い夏に川へ飛び込むのが関の山だ。逆に栄えている貴族と俗に言う市民の上澄みである一級市民は数日に一回は風呂に入る。ルルブによると貴族はメイドが数人掛かりで磨くのが普通だと書いてある。リルはアメリアと一緒に複数人コースを体験した。


「人間怖い!」


「つうか孤児院で人間に囲まれて育っただろうが!」


 微妙にトラウマっぽくなっているが「逃げ隠れて死角から暗殺」スタイルのリルに取って数人に拘束されるのはきついのかもしれない。詳しく聞くと穴に仕込んである暗器すら手際よく回収されたらしい。「侯爵家のメイドって凄い」としか言えない。怖くて聞けないが、リルが着ているメイド服には侯爵家のアサシンメイドが常備している各種暗器が仕込まれているのだろう。


「あれは本当に同じ人間?」


「そのはずだ。と言うか綺麗になったんだから良いじゃないか」


「主君がそう言うのなら」


 なんか納得してくれたみたいだ。そんなリルのはにかむ姿にクラっと来る。どうする、『魅了耐性』はストックにないぞ? こういう時は話題を変えるしかない!


「ル……アメリアはどうだ?」


「苛められている」


「マジか!? 助けに行くべきか?」


 俺が知らないだけで侯爵は孫娘に人に言えない事をする鬼畜外道だったのか!?


「大丈夫。『魔法制御を恵まれた血筋に依存している』とか『ファイアボールを5つ同時に維持出来ないとは』とか陰険な守役に言われているだけ。アメリアも『ぐぬぬ』とか『焼き殺す』とか言いながら楽しんでいる」


 理路整然とした鬼コーチと化しているハインリックとそれに食らいつくスポ根お嬢様のアメリアって感じか? ただ一つ言えることがある。ファイアボールなんて普通は1つぶっ放すだけの魔法だ。5つも同時に維持なんてハインリックはアメリアを一体何にするつもりだ? まさかガチで侯爵家の継承レースに挑むつもりじゃないだろうな。


「ギドルフはそれが出来るのか?」


「アメリアは生来の才覚だけでギドルフを圧倒していると聞いた。一日授業を受けただけでもう勝負にすらならないらしい」


 駄目じゃん。これって絶対に駄目な奴じゃん! ギドルフだって10年以上一流の教師に師事して『火魔法』を学んだはず。それを一日で越えられるって、俺なら絶対にショックで折れる。俺は心の中でギドルフに謝る。めっちゃ謝る。


「他に何か問題は?」


「辺境伯にバレた」


 余りの事に齧っているパンを吹き出す。


「ゲホッ、ゲホッ。嘘だろう!? 屋敷の外にすら出ていないのに何故?」


「不審な出入りは無かった。それでも昨日の昼過ぎに『勝利した暁にはぜひ紹介を』と使者が来た」


 リルの『索敵』をすり抜けられる存在なんてラディアンドに居ても数人だ。そんな貴重な人材を侯爵家に貼り付かせる余裕は無い。侯爵家もアメリアの存在が露見しない様に気を付けていたはず。侯爵領に残っているギセルがアメリア生存をしればどう激発するか誰にも分からない。なので内部犯行を許すほど脇が甘いとは思いたくない。


「どう見る?」


「最初から知っていた」


 そんな事があり得るのか? だがリルが言うのなら真剣に検討する。


「となるとハインリックがただの道化に……。ああこれは逆か。見張っていたハインリックが興味を示した対象を注視していたのか?」


 リルが頷く。ハインリックは身分を隠すような真似はしていなかったはず。なので辺境伯はハインリックが接触した奴隷商にちょっと圧力を掛けて情報を仕入れた。奴隷商の方から積極的に情報を上げた可能性もある。奴隷売買で潤う貴族は辺境伯の重臣の一人だ。


 そうだとするとハインリックがルビーを殺す場面で介入してルビーを救う、なんて事も出来なくはない。俺ではそんな綱渡りは絶対に不可能だが、あの辺境伯はそれが出来ると自惚れている節がある。俺が邪魔しなければ成功の目はそこそこあった気がする。


 考えすぎかもしれないが、都合よく決闘の前に本来は城に居ないエリックが居て、尚且つルビー救出に尽力したのは偶然だろうか。エリック自信は知らなかったはずだ。だが辺境伯ならエリックをそう言う風に動かす事が出来る。疑い出せばきりが無い。


 最後に状況の変化に合わせて、Cランク冒険者になったルビーを護衛に指名してそのまま囲う計画を立てていても不思議ではない。ラディアンドの冒険者ギルドが中央貴族の要請で特例を認めるのは違和感があったが、冒険者ギルドの首根っこを抑えつけている辺境伯の命令なら最優先で処理する。結果論だが俺が侯爵家に駆け込むのが僅差で早かったと安堵する。


「閣下はご気分斜め」


「まあ分かる」


 辺境伯に取ってアメリアは大事だ。死地に送られる事は無い。俺と侯爵は分からないがな!

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