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177 ラディアンド籠城前夜 冒険者ギルド


「冒険者ギルドですか? 酷い手のひらを返し忖度でした」


 ルビーが不愉快そうに言う。


「Cランクに昇格したと聞いたが?」


 リルがそう言っていた。


「完全にシーナのおこぼれ扱いです」


 ルビーが怒気の孕んだ声で言う。


 Cランク冒険者になるには位階レベル10、3年以上の冒険者活動、そして一定以上の依頼達成率が必要だ。一番のネックである「3年以上の冒険者活動」を特例で免除とは中々思い切った事をしたものだ。一見面倒そうな依頼達成率は薬草採取とゴブリン討伐でかさ上げすれば余裕で合格ラインに到達する。更に昇格試験があると聞いているが、これは合格するまで毎週受けるだけなんで形式的なものでしかない。


「宰相家と大神殿に睨まれたらそれくらいはするだろう」


「こんな非常時にCランクの義務を押し付けられては困ります」


 冒険者はCランクにならないと一般市民から市民扱いされない。Cランク未満だと裏で三流市民と揶揄されている。なのでこれからのルビー達の生活は大幅に上向くはずだが、面倒事も多い。その一つが従軍義務であり昇格条件に位階レベルが設定されている理由だ。位階レベル10未満の市民に従軍義務は無い。今回のような籠城戦だと補助的な仕事に駆り出される事はある。


「やはり昼の行事に間に合わせるためにシーナの昇格を強行したか」


 シーナの事を考えると従軍の可能性があるランクアップは下策に見える。しかしCランクなら大手を振って転職か叙爵が可能にある。シーナが騎士爵になり冒険者の身分を返上する事でオークとの戦争は寄せ集めの冒険者部隊に配属されず、宰相家の精鋭騎士部隊の名目上の指揮官として参戦する。Dランクからでも叙爵は可能だが、身内人事を始めとした悪い噂が一生付きまとう事になる。ヘンリーはシーナの事は過保護にまで完璧に成し遂げたが、ルビー達4人にそんな特例措置は用意しなかったので結構面倒な事態になっている。


「ミリスは私に代筆させた衛兵転職の願書を持って衛兵になれました」


 流石はミリス。完璧なタイミングでルビーを見限るか。衛兵なら野戦に参加する事は無いし、生き残る可能性は高い。そして生き残れたら今後の人生は明るいほうだ。戦場ロマンスからの出き婚狙いなのは鈍感な俺でも分かる。一般的な感性を持つミリスは貴族と言う生き物から全力で距離を置くので俺やマックス邸の住人がミリスに狙われることはない。


「メアはどうした?」


 あの戦闘狂だけはヘンリーが余計な手を回さなかった事に喜んだはずだ。


「オークチャンピオン戦で生き残った冒険者のパーティーに臨時で入るそうです」


「なら一先ずは安全か」


 幾ら雑多に人員を割り振る冒険者部隊とは言え、パーティー分割まではやらない。分割をする時は逆転不可能なほどに劣勢になった時だけだ。メアと互角に戦える前衛が数人いるパーティーなら問題なかろう。ミリスが抜けてメアがワントップになればルビーを守り切れない。ルビーは城壁の上から固定砲台として運用するのが正解だが、Cランク冒険者一人のためにそこまで配慮しない。受け入れたパーティーはメアの剣技のみならず、シーナとの関係を重視したはずだ。何せこれから絶望的な人数差の戦争が始まる。王国で三人目となった『光魔法』レベル6のヒーラーの治療に優先して掛かれるかが生死を分ける。


「リルはアッシュが上手く処理したのよね?」


「やるべき事はやった。リルが帰って来たら確認しよう」


 リルはダークエルフだ。そしてラディアンドはCランク冒険者のダークエルフを許容できるほど懐が広く無い。そしてこの戦争で嬉々として死地に置いて始末する。リルが薄汚い三流市民なら市民の留飲を下げるスケープゴートになれたが、同じ市民となると不気味に思う感情が上回る。


「主君、今帰った」


 噂をすれば、ダボダボの騎士爵服に身を包んだリルが合流する。


「上手く行ったか?」


「冒険者の身分を返上して、主君の騎士として参戦する事になった」


 俺が準男爵になったため、騎士爵が余る形になった。陞爵と同時に不要になった爵位を家臣に下げ渡す事は多い。下げ渡さずに複数持つ事もあるが騎士爵くらいなら豪快にバラまいた方が貴族の格が高いとされる。なので俺は急ぎリルに俺の騎士爵を譲った。あくまで家中の事なのでマックス邸で見届け人数人を集めて簡素に処理した。ヘンリーに頼んで宰相家の寄子から俺の寄子に付け替えて貰うのに少々手間取ったくらいだ。両属にするのが一番角が立たない方法だったが、それだけはリルが強硬に反対した。「自分の主君は来世・・までアッシュ様お一人!」と宣言したのでヘンリーが折れてくれた。すまないヘンリー。


「良かった。私も心配だったのです」


「ルビーもありがとう。本来ならこの騎士爵はルビーのもの」


 騎士爵を下げ渡すもう一人の候補がルビーだった。侯爵との夕食が無ければルビーに下げ渡していただろう。


「心配するな。決闘で稼いだ金でもう一つ騎士爵を買えば良い。とにかく今夜の夕食の流れ次第って事で」


 爵位は買えるが本来はそんな簡単じゃない。俺とマックスの友情、そしてルビーの実力があって初めて可能になる。ダークエルフのために新しく騎士爵を買うと言っていればもめにもめた可能性が高い。俺のお・・の騎士爵を下げ渡すから宰相家からは表向き反対が無かったのを忘れては駄目だ。


 夕食と爵位がどう関係するか? ルビーが侯爵と会う際に中央貴族だと色々厄介な問題になる事を懸念している。ほぼ確実に侯爵の縁者であるルビーを侯爵に無断で強奪したと責められる。俺と辺境伯の手打ちでシーナの身柄の件が処理されたのと似た理由だ。シーナはスキルだけだが、ルビーは血筋とスキルと血統絡みの特殊加護だ。戦争が無ければルビーを攫ってでも王都に逃げている。もしルビーを侯爵に会わせる事でルビーが不幸になるのなら本気で攫うだけだ。出来れば円満に終わって欲しいが、侯爵家は侯爵家で深い闇を抱えている。


 馬車に乗り、3つ隣の侯爵邸に到着する。待ち時間を考えると絶対に徒歩の方が早かった。屋敷に案内され玄関広間で待つこと数分。侯爵が主だった家臣を引き連れて出て来る。準男爵相手に少し大げさだが、悪魔討伐をした男と言葉を交わしたい貴族は多いと納得しておく。俺がとち狂って侯爵に襲い掛かった際の護衛では無いと信じたい。


「アッシュ卿、今夜は忙しい中で……」


 侯爵は俺に話しかけながら連れの二人を見る。そして侯爵とルビーはお互いの目と目が合い完全に固まる。

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