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174 ヘンリー視点 聖女救出

今章ラストです。明日から新章を始めます。


ルビー視点にしようか悩みましたが、ヘンリーの方がリアクションが面白そうだったので彼視点にしました。全部詳細に書けば1万文字を越えそうですが、別視点なので少々ダイジェスト気味になっています。

 私はアッシュからの伝言を受け取り急ぎ流民街に向かいます。死んだと聞かされていた当家の聖女が存命で、尚且つ辺境伯の手の者に捕らわれているのなら一大事です。父上と兄上からの手紙で聖女と言う爆弾を拾ったことを散々罵倒され、その聖女を失ったことを読むに堪えない罵詈雑言の嵐で叱責された身としては何としても彼女を生きたまま奪還します。必要ならこんな流民街なんて全部燃やしましょう。


 流民街に入ろうとした時に流民数名が私を止めようと動きますが、私の後ろに走る完全武装の騎士3個小隊を見て竦みます。オークとの戦争に参加すべくコームグラス家の精鋭部隊をグリフォンで輸送したのです。流民100人が束になっても1小隊の方が強いです。


「若、何処か分かりますか?」


 私をまだ「若」と呼ぶ壮年の騎士が問います。


「ミリス、分かりますか?」


「は、はい! え~と……」


 アッシュが遣わせたミリスと言う少女に聞きますが、余り期待出来そうにありません。


「あんた等がコームグラス家の人間か?」


「そうだとして、貴方は?」


 突然話しかけて来た男に騎士が臨戦態勢を取ります。


「ま、待て。俺はハーマンと言って、エリックにあんた等が来たら案内を頼まれただけだ。偉い腕の立つ嬢ちゃんが一緒だったんだが……」


「それはメアです。それにエリックさんなら私も会っています」


「ミリスが言うのなら信じてみましょう。案内してください」


「あ、ああ。こっちだ」


 流石にこれだけの戦力に睨まれては冷や汗を掻くのは仕方がありません。しばらく走ると怪我で呻く男たちが外に転がっている屋敷に着きます。


「痛ぇ……」


「エリックの野郎なんだって急に……」


 どうやらここがそうみたいです。本来なら有無を言わせず関係者全員をなで斬りしたいのですが、今は急ぎます。


「第3小隊はここを鎮圧しなさい。他は続きなさい!」


 私は矢継ぎ早に命令を出して屋敷に入ります。外が多少騒がしくなりますが、精鋭が手傷を負う事はありません。エリックが作ったと思われる血の道を進み地下に降ります。そこでパニックになっている男の声が聞こえます。そして私たちは聖女の囚われている場所に辿り着きます。


「こっちだぜぇ」


「あれがエリックさんです!」


 軽薄そうな男がエリックですか。鼻で笑おうと思ったら壮年の騎士から窘められます。エリックの横にいるミリスの腕が立つ友達より遥かに強い手練れだそうです。「あの程度の擬態を見抜けない様ではまだまだ」と壮年の騎士の顔に出ています。


「私はヘンリー・コームグラス。当家の女性を返して貰いましょう」


「それでも良いけどよぉ、こいつらぁ神聖な決闘の景品らしいぜぇ?」


「それが当家とどんな関係が?」


 「渡せない」と言うわけではないみたいです。


「私たちを景品と認めれば、黒幕である辺境伯家の貴族をその線で責める事が出来ます。ここで解放するだけではそこの流民と奴隷商を吊るして終わります」


「相変わらずルビーが何を言っているのか分からない」


 何らかの魔法の防御膜に近づいて赤髪の女性が話します。ミリスの発言から彼女がルビーだと知ります。そうなると部屋の奥でダークエルフの斬られた手をくっつけている女性が聖女のシーネですね。くっつけている? アッシュが出来ると言っていましたが、この目で見るとまた違います。ラディアンドにここまでの使い手は何人も居ないでしょう。


「奴隷?」


 シーネの素晴らしさを認識するとルビーの発言が気になります。私の後ろに居る騎士たちも雰囲気が剣呑になります。


「アッシュが負けたら解放する約束を反故にして奴隷に売るらしいぜぇ? まあ決闘の条件が『降伏を認めない』だからどっち道アッシュの奴が勝つだろうがよぉ」


「アッシュが勝った場合は?」


「ははっ、『抵抗したら殺す』って事で勝つ場合なんて想定しないんじゃないかなぁ」


「勝っても負けてもコームグラス家の女性を奴隷にすると。とても許せる行為ではありません」


「主犯の奴隷商はそこだぁ。親父が本当の主犯らしいがなぁ」


 私が何か言う前に私の騎士が奴隷商をタコ殴りにして縄を打ちます。帰ったら拷問です。


「そのハゲは?」


 エリックがずっと足蹴にしている男について聞きます。


「流民街の顔役の一人さぁ。そして俺を裏切った部下の一人なんだよねぇ」


「引き渡して貰っても?」


「女3人と奴隷商で満足してくれねぇか?」


 辺境伯がエリックに流民街を任せているとの事。今回の一件は部下が同僚貴族と結託してエリックの権力に喧嘩を売った形になります。エリックは家の誇りに誓ってこの部下と同僚貴族を厳しく処断する必要があります。本来なら辺境伯はエリックの肩を持つはずですが、貴族の家中事情が複雑なのは私自身が経験しています。なので殺してもお咎めなしのこの男だけでも処断する必要があります。この件で私が無理強いすれば拗れるのは明白。


「こちらに関する情報があれば提供を求めます」


「分かった」


 こっちが圧倒的に有利です。無理に渡せと言えば渡したと思います。ですがそうなると次に何か大事な交渉が発生したら力押し出来ません。兄上がここに居たら、と思ってしまうのは良くないですね。今は聖女を無事に回収する事を最優先に動きます。


「それで決闘はどうなっています。アッシュの事だからもう勝ちましたか?」


 安全になったと感じたルビーが部屋から出てきます。腕が動くのを確認しているダークエルフと聖女が続きます。


「バカ言っちゃいけねえ! 100人だぜ! あの白髪が勝てるわけ無え!!」


 先ほど喚いていた男が再度喚き出します。


「なら問います。敵にオークチャンピオンとサシで戦える者は居ますか?」


「居るわけねえだろ!? 嬢ちゃん、頭おかしいんじゃねえの?」


「アッシュは一人で戦って生き残りました。敵がその程度なら数が多くても心配いりません。いえ、アッシュの精神状態を心配すべきでしょうか? 無駄な流血を好まない人ですし」


「アッシュ様は勝ちます。神がそう言っています」


「主君が強いのは当然だが、神はそんな事を言わない」


「リルは信仰心が足りません」


「私が信仰するのは主君のみ」


「二人とも、ここは争う場所ではありません」


 ルビーが二人の争いを収めます。アッシュから聞いていた通りルビーが5人の精神的支柱でリーダーですね。


 屋敷の1階と地下1階を制圧して決闘の決着を待ちます。いざとなれば突破は簡単ですが、辺境伯家の責任を追及する形に持って行くべく待ちます。


「100対1で圧倒したと思ったら邪教徒が生贄の儀式を開始? 一体どうなっているんですか!?」


「分からねぇ」


 この屋敷に定期的に来る報告を聞いて絶句します。流石にルビーと聖女も顔色が悪くなります。と言うか観戦している殿下は大丈夫でしょうか? 今すぐ駆け付けても遅いです。カーツを連れて来ていればもうちょっと出来る事があったのですが、家中の政治案件なので外したのが響いています。ヤキモキしていると驚愕の情報が入ります。


「マチアス卿が悪魔に!?」


「ふざけんな! 閣下にどれだけ迷惑を掛ける気だ!」


 余りの事にエリックの仮面が外れます。今なら彼が凄い手練れなのが分かります。侮っていれば危なかったです。


「ぎゃあああ!!」


「今のは何です!?」


 突然屋敷の中らから悲鳴が聞こえます。


「若、気を付けて!」


 敵襲を警戒する騎士ですが、現れたのは私の想像を絶するモンスターです。


「『フレイムランス』!」


 ルビーが近づくアンデッドの足を打ち抜きます。ですが片足でホップしたり手で這いながら迫ってきます。幾ら精鋭とは言え、数百を超えるアンデッドには勝てません。


「何でアンデッドが居る! 言え!」


「知らねえ! 廃人を地下で預かっているだけだ!!」


 エリックがハゲを問い詰めますが、望む答えは帰ってきません。ここはアッシュが言っていたゴブリンミートを食べた人間の保管庫ですか。アッシュは点と点を繋げられる知恵があるみたいです。本当に孤児院で育ったのでしょうか? それを言うのならこのルビーも色々疑わしいです。真実を知るチャンスが無いのだけが悔やまれます。


「若、血路を開くので若と数名だけでも!」


「無駄。外の方が多い」


 ダークエルフが壮年の騎士の案に反対します。外の状況が分かるとは凄いです。万策尽きましたか。


「シーネ、そろそろ?」


「『エリアターンアンデッド』!!」


 聖女の周りから光が溢れ出して近くにいるアンデッド全てが蒸発します。これは間違いなく奇蹟! 私は奇蹟をこの目で見ています!


「おお、聖女様!」


「「聖女様!!」」


 壮年の騎士は涙を流し聖女様を拝んでいます。それどころか私が連れて来た騎士全員が似た状態です。


「シーナが魔力切れになるまえにチャチャっと片づけますよ?」


 何と不敬な!


「聖女様をお守りしろ! 不浄なものに指一本触れさせるな!!」


「「応!!」」


 壮年の騎士に率いられた当家の騎士が聖女様を守る陣を敷きます。私の事を忘れているのは私なら自衛出来ると信じられているために違いありません。


「『フレイムピラー』!」


「時が来たと言うのに……何故こんな女が……」


 道中襲って来たヴァンパイアをルビーが出待ちしていたかの様に一撃で灰にします。


「アッシュがレブナントの指揮個体が居ると言っていましたが、馬鹿正直に出て来るなんて」


「流石主君。しかし外のアンデッドが全部こっちに向かっている」


「好都合です。シーナに纏めて倒させます」


 ルビーとダークエルフが高度な話をしています。おかしいです。これは私の役目では?


 いざ出口に近づくと残していた1小隊が屋敷を使って持ちこたえています。聖女様が前進するだけで攻めていたアンデッドは浄化されます。


「若! 空を見て下さい!!」


「あれって闘技場の辺りじゃないか?」


「悪魔が飛んでいる?」


 壮年の騎士とメアの話を合わせるとアッシュはアレと一騎打ちをしているそうです。これは勝てないかもしれません。そう思っていたら私の(・)魔導鎧が空を飛んで悪魔を撃ち落とします。


「アッシュ……常識と言うものが無いのかしら?」


「アッシュ様なら飛べて当然です」


「主君なら出来る!」


 三人三様の感想が来ます。もはやアッシュが勝つとして、悪魔を倒したコームグラス家の紋章が付いている魔導鎧の処遇を考えるだけで頭が痛いです。今度は兄上が父上に続いて泡を吹いて倒れるかもしれません。


「若、今夜は徹夜ですな」


「一徹で終わるか?」


 そんな会話をしながら聖女様の光がアンデッドを浄化する様を見つめます。3時間後に帰りが遅いのを心配したカーツが1隊を率いて来たので撤収に移ります。はぐれアンデッドが残っていると思いますが、それは辺境伯の仕事です。一刻も早く私の背中で寝息を立ている聖女様を最高品質のベッドで休ませなくてはいけません!

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