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170 闘技場 ロトンビースト戦

今回は何処まで説明すべきかで迷い、更新が遅れました。

「うわぁぁぁ、なんだあの化け物は!」


「嫌ぁぁぁ、臭いぃぃぃ」


 観客が恐怖でパニックになる中、俺は魔導鎧の中で笑みを浮かべる。外の人が見たら「不謹慎な奴だ」と罵られるだろう。


 召喚された敵はロトンビースト。平たく言えば腐った3メートルほどの死体だ。こいつは十分勝てる相手だ。TRPGならGMがファンブルをして最弱のボスモンスターが選ばれたようなものだ。しかし、もし100体近くの死体が使用されていれば8メートルほどのロトンジャイアントになっていたと思われる。こいつにも勝つ自信はあるが、色々と不味い事になっていた。


 ロトン系は名前の通り腐っている。体中から強力な腐敗毒が流れ出し、疫病を空気感染させる。ロトンビーストのサイズでは闘技場より外にその効果が出るのにしばらく時間が掛かる。逃げ出す観客からの二次感染の方が心配だ。ロトンジャイアントのサイズになれば痰を飛ばすだけでラディアントの3割近くを病魔に侵せる。万が一ラディアントの中央を流れる川まで汚染されたらラディアントは機能不全に陥る。


 そうなると如何に難攻不落と言われるラディアントでもオークの大軍相手に持ちこたえられない。ラディアントが万全であっても持ちこたえられるか分からないのに、これ以上のハンデは困る。辺境伯が防衛を担当するんだから彼が守り切れると信じて俺はこの戦いに集中すべきだ。


 それに俺はロトン系が出た事には大して心配していない。余程初動を失敗しない限りシーナに『快癒』を連発させれば疫病なんてすぐに収まる。疫病を収めたシーナの聖女としての名声が天井知らずになる方が心配だ。良し、世界の平和のために全速力でロトンビーストを倒せねば!


「マチアス様ぁぁぁ……見事力を得ましたぁぁぁ」


 多少くぐもっている教祖の声がロトンビーストの口から聞こえる。


「言葉を話すだと!?」


 遊んだリプレイでロトンビーストが話した事は無いので驚く。話せない、とは設定に書かれていないので話せるのかもしれない。ただし人間の自我が残っている事だけはあり得ない。


「私がぁぁぁ真の神の世界へゲートをぉぉぉ」


「悪いがそれ以上は言わせない!」


 俺は勘違いをしているのに気付く。ロトンビーストは真の神がいる世界へのゲートを開けている。そしてそこからより大きな力を呼び出せる触媒があればロトンビーストなどとは比べ物にならない強いモンスターが這いずり出て来る。


「邪魔ぁぁぁするなぁぁぁ!!」


「魔法防御を貫通するか!」


 接近した所で毒に塗れた爪が俺を襲う。様子見のために回避を選ぶが、爪から飛び散る液体が魔導鎧を容赦なく焼く。直撃を受けたら一気に内部機構まで駄目にされる。かと言ってチマチマ遠距離攻撃で削っている余裕は無い。


 幸いなのか分からないが、マチアスは何の動きも見せていない。マチアスが何を考えているのか分からないが、力を得て腐った死体になりたくは無いだろう。見た目が格好良いモンスターだったら危なかった。


「このぉぉぉ力があればぁぁぁ世界をぉぉぉ救えますぅぅぅ。


 真の神たる創造神様は我が子を見捨てませぇぇぇん。


 マチアス様がぁぁぁ嚆矢となりぃぃぃ辺境伯様を導くのですぅぅぅ!!」


 好き勝手言ってくれる。


 だがクロードたちが邪神と呼ぶ神は創造神なのか。これは本当だとするとちょっと気になる。俺はルルブに記載されている神話と世界情勢は当てにならないと思っていた。ルルブの神々とこの世界の神々の構成はかなり違うし、俺の知る限り世界地図は別物だ。だがそれを見直す必要がありそうだ。


 ルルブが語る世界創造神話によると創造神は秩序神を始めとした次世代に最高神の座を追われたとある。創造神は復権を目指すにあたって魔界と言う世界と悪魔と言う手駒を創造したとされる。そして魔界に生息する弱いモンスターの代表格としてロトンビーストの名が出て来る。しかしルルブにおいて創造神と邪神は別の神だと明確に定義されている。これは一体どういう事だ。戦闘中で無ければ色々考察するのに!


「カッカノタメ(閣下のため)!」


 マチアスが人とは思えない声で叫ぶ。そしてゴクゴクと何を飲む音が聞こえる。


「そうだ! 感じるぞ! 良くぞ決断したマチアス!!」


 ロトンビーストが急に饒舌になり狂ったように笑い出す。余りにも痛快に笑うんで唾が観客席にまで届き、最前列から動けなかった観客が激痛で悲鳴を上げる。


「しまった!」


 なんてことだ。あのモンスターは教祖の声色を真似していたんだ! 悪魔は狡猾なのはルルブで知っていたが、俺とマチアスをこうも簡単に騙すとは恐れ入る。


 手遅れかもしれないが、こうなると一刻も早くロトンビーストを倒さないといけない。マチアスが何になるか分からないが、2対1は流石に不利だ。


 俺は心の中でまたヘンリーに謝る。ロトンビーストを潰せば大量の返り血が魔導鎧に掛かる。そして確実に清掃と整備に完全分解される。即ち数日後に始まるオーク戦には絶対に間に合わない。ロトンビーストとマチアスをここで倒さないと今日中にラディアントが消滅するから許してくれるはずだ!


「行くぜ!!」


「無駄だ、生贄よ! 剣では斬れぬ、槍では貫けぬ!」


 だろうな。ロトンビーストの姿は人型だが頭も心臓も意味を成さない。叩き潰して一定のダメージを与えないと倒せない。


 デカいハンマーが『アイテムボックス』に入っていれば良かったが、生憎と入っていない。


「心配するな! とっておきの武器があるんだ!」


 そう宣言して俺は『アイテムボックス』からスティン・ヒートホッフェンの魔導鎧の足を掴み、思いっきりロトンビーストにぶつける。


「グハァ!?」


「どうだ! 貴様を潰すには十分な質量だろう!!」


 後は流れ作業だ。ロトンビーストの爪も牙も唾も全部スティンの魔導鎧で防ぐ。腕がもげようと前面装甲が溶けようとお構いなしだ。


「神よ! この者に呪……」


「黙って死ねぇぇぇ!」


 やっと死んだか。最後まで形を残していた部分も完全に液状化して、ロトンビーストが居た場所は毒の沼と化す。スティンの魔導鎧は俺が持っていた左脛と左足を残して全部溶けている。毒沼の上にプカプカ浮いている魔導炉だけ回収しておく。毒で魔導炉が破損してラディアンドの一区画を吹き飛ばしたらちょっと面倒だ。


「痛ゲェゲェゲェ……助ゲヘヘ」


 マチアスの魔導鎧はまるで中から膨張する様にボコボコ膨れ上がる。悪魔の甘言に耳を貸し、悪魔の力をその身に宿した哀れな男の末路に相応しい。俺がその後片付けをしないといけないのは面倒極まりない。


「グオォォォォ!!」


 4メートル近くになったマチアスの魔導鎧の背中から悪魔の翼が生え、尻からは尻尾が生える。両腕からはロトンビーストの様な爪が突き出す。その姿を見て観客は完全にパニックになり我先にと逃げだす。審判は腰を抜かし後退りし、証人の一人は泡を吹いて気絶している。貴賓席では慌ただしい動きがあるが、どうやら決闘は続行みたいだ。


「はは、こいつはヤバいな」


 感じる力は北の砦で戦った下級悪魔以上。余り知能が無さそうなのが唯一の救いだが今の俺に勝ち目はない。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] 邪教徒が判明してるのに誰も動かんのはなぜ? 辺境伯が関係してる?にしても関係ない人も当然いるだろうし 多対一の状況が放置されて、更に邪教徒戦まで横槍なしだと 辺境伯含めて周りが無能すぎ…
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