017 廃寺院 決着
俺の突きをゴブリンガードは盾で受けず流した。そしてそのまま前のめりになる俺をゴブリンガードは持っていた短槍で刺そうとする。
「おっと!」
右足に力を入れ、無理やり踏み止まる。そして短槍を避けるようにバックステップで距離を取る。危なかった。まさかゴブリンがここまで高度な技術を持っているとは思っていなかった。
「ゴブブ!」
ゴブリンガードが怒るも、俺に無理な追撃はしなかった。ゴブリンとしての本能よりも守ると言う行為が優先されているんだ。だがそうなるとこちらにもやり様がある。ガードからのカウンターが主な戦い方ならそのガードを無理やり突破するのみ! スキルレベル差と言う絶対的な力の差がそれを可能にする。槍術レベル3では正攻法で突破するのに時間が掛かり過ぎた。少なくてもマックスはそれまで持たない。だがレベル5ともなれば、小細工は必要ない。正面から打ち破る!
「くらえ!」
俺は左手で錆びたナイフを左のゴブリンガードに投げた。ゴブリンガードはスキル頼りにその一投を弾いた。そうする事により致命的な一瞬の硬直が出来たとすら理解できないのだろう。そして俺はまだ動ける右のゴブリンガードに前回とほぼ同じ突きを放った。ゴブリンガードが流すモーションに入った所で俺は槍を止めた。いつまでも来ない衝撃にゴブリンガードが戸惑っているのが手に取るようにわかる。素早く槍を引いて、盾の上スレスレからゴブリンガードの喉を突いた。
「スキルの特性くらいは把握しておけ」
この世界の達人ならスキルレベルなど関係無く強いのかもしれない。クロードの記憶にはそんな強い奴は居なかった。俺はそこまで武術に拘る気は無い。が、それでもスキルが発動した時に何が起こるか程度はしっかり考えている。ルルブにはフェイントを放つ際のルールや大ぶりをミスった時のペナルティなんかはちゃんと載っていた。
今回の一撃はフェイントの突きからゴブリンガードのガードファンブルを狙っての行動だ。ここまで綺麗にハマると俺は強いと錯覚してしまいそうだ。背後で聞こえるマックスとゴブリンブルートの戦いの音を聞いて、そんな考えは瞬時に霧散した。
「とにかく死ね!」
一匹になったゴブリンガードは敵では無い。彼を無視してゴブリンヒーラーを狙ったら自分から当たりに来てくれた。護衛対象を機械的に護衛しようとして自滅するとはゴブリンらしい。残ったゴブリンヒーラーも何か奇声を発したが、俺には関係が無い。助けを呼ぼうとしたのか、命乞いか、それともただ単に恐怖で叫んでいたのか。
「ヒーラー討ち取ったぁぁぁ!」
俺は槍を天に翳し、大声で叫んだ。今回はちゃんと攻撃されないか周りを確認してからだ。一つの戦場で二回も同じミスを繰り返すようなら俺の知能はゴブリン以下だ。
ゴブリンヒーラーの死体をアイテムボックスに入れようかと思ったが、やめておいた。珍しいゴブリンの死体は外の人間の興味を招く。ヒーラーの死体が無く、俺が持って行ったと噂されれば、俺が狙われるかもしれない。良い迷惑だ。
散発的に仕掛けて来るゴブリンを貫きながら俺はマックスとゴブリンブルートの戦いを見守った。俺が加勢すればすぐ終わりそうだが、ゴブリンがそうはさせないと俺とマックスが合流できるルート上に多く陣取り出した。それに無理攻めせずともマックスなら勝つ。
「どうした? 動きが遅くなっているぞ?」
「ゴブーー!!」
俺の見守る中、マックスは有効打を重ねる。元々ゴブリンヒーラーが居なければマックスが勝っていた。ならこの状況は予想されたものでしかない。マックスの体力切れが懸念だったが、ここまで押しているのなら気力でカバー出来るはずだ。俺が投石と矢の遠距離攻撃にさえ注意して、必要ならマックスに声を掛ければこのまま勝てる。
短期決戦以外無いと思ったゴブリンブルートの攻撃が更に大ぶりになる。そしてその攻撃を華麗に躱してカウンターを放つマックス。ゴブリンブルートは自分から脱出できない悪循環に陥った。本来ならここでナンバー2辺りが一手差し込んで状況をリセットするんだが、ゴブリンにはそんな高度な事を出来てもやろうとする気概がある奴はいない。ゴブリンブルートが死んだら、次は自分がここのボスに成り上がると考えている奴らばかりだ。その証拠に残っていた遠距離攻撃が出来るゴブリンは皆サボっている。
「マックス! とっととケリをつけろ!」
俺がヤジる。本当は黙って見守るのを続けたかった。しかし余裕が出来たのか明らかに口を動かす頻度が上がった。最初は口で息をしているのかと思ったが、それにしては不自然過ぎた。そこで気付いた。格好をつけてシャニングセイバーでゴブリンブルートを斬るつもりだと。ゴブリンブルートを倒してそれで終わりなら俺は我慢した。しかしゴブリンブルートを倒した後にまだ数百匹のゴブリンが残っている。無駄なMPを消費している余裕は無い。詠唱が比較的短いフラッシュの魔法を連発した方がまだ生きて逃げられる可能性が高い。
「アッシュの頼みとあれば仕方が無い!」
何が「仕方が無い」のだろうか。だがせっかくやる気になったんだ。水を差すのはやめておく。
「はぁっ!」
ゴブリンブルートの大ぶりの右を躱していつものカウンターを叩きこまず、マックスは相手の硬直した右腕を足場に一気に首を狙いに行った。それに気づいたゴブリンブルートは左腕を犠牲にその斬撃を止めようとするが、武器の質が良過ぎた。剣線上にあった左手首を切り落とし、そのまま首を斬り飛ばした!
轟音を立てて崩れ落ちるゴブリンブルートの上に立つマックス。
「ゴブリンブルート、宣言通りに討ち取ったり!」
絵になる姿だ。
さて、残ったゴブリン包囲網をどうするか。
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