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169 闘技場 邪教徒戦 下

「『魔眼』か?」


 俺の意志に関係なく『魔眼』が発動している。一度発動すると右目の周りから壊死し出す凶悪なアンデッドスキルのため『魔眼』は余程の事が無い限り使用を控えている。当然勝手に発動する様な危険極まりないスキルではない。


「……クロード……なのか?」


 俺はこの身体にクロードの魂は残っていないと思っていた。だがこの目は俺の目では無い。それに今の様に心の奥底から湧き上がる正体不明の怒り。俺がスキルポイントを振っていないのになぜかレベル5になっている『ダンピール』クラス。これらがクロードの手によるものなら色々スッキリする。もし本当にクロードが残っているのならいずれこの身体をクロードに返せる時が来るかもしれない。だが今は先にやるべきことがある。


 教祖をぶっ殺してキスケの魂を開放する! これがTRPGならこんな胸糞なシーンを用意したGMをぶん殴って幕引きに出来るのに。ルルブの知識がこの世界に余りにも良く対応していたからこの凄惨すぎる戦いは全部ロールプレイだと思い込みたかった。だがルビーを人質に取られた怒り、キスケに酷い事をされた怒り、クロードの人生を無茶苦茶にされた怒り、そして俺に無理やり現実を直視させた怒り。これらの怒りはまごう事無き現実だ。


「終わらせるぞ、クロード!」


 俺の叫びに呼応するかのように『魔眼』が更に輝きを増す。『マナ呼吸』と『魔眼』の同時発動でアンデッドに限りなく近づいたため、教祖の『拘束バインド魔法』の掛かりが弱くなる。かつて戦ったゾンビが『マナ呼吸』に切り替えた俺を認識できなかったように、教祖の拘束バインドは生きている人間相手にその力を発揮する。


「このまま拘束して窒息死するがよいぃぃぃ!!」


 そんな意味のない台詞を無視して俺の魔導鎧はガシーンと音を立てて一歩前に進む。


「な、何故じゃあぁぁぁ!? 拘束バインド拘束バインド拘束バインドぅぅぅ!!」


 詠唱も恩寵も無しで魔法は発動しないのを忘れているのか?


「無駄だ! 俺達の怒りを拘束バインドする事は出来ない!」


「こぉぉぉんな事は許されぬぅぅぅ!! 斬れぃぃぃ!!」


 残った奴が俺に近づくと思うか? そう高を括っていたら邪教徒は予想外過ぎる行動に出る。


「ぎゃあああ、何を……」


「私たちは同……」


 ホルガーと衛兵が味方の魔法使いを殺す。


「やってやったぜ」


「ご苦労」


 グサッ!


「てめぇ……」


 魔法使いを殺し終えた所で衛兵がホルガーを突き殺す。


「良くやったぞ!」


「では、一足先に」


 そうして衛兵は自分の喉を短剣で引き裂く。


 何が邪教徒をそこまで駆り立てるのか分からない。だが新しい生贄が捧げられた事で教祖は更なる魔法を使えるようになった。


「何が来ようとも正面から打ち倒す!」


 教祖の頭を魔導鎧の手で握りつぶせるまで後2歩の所まで進む。教祖は俺が接近するのをずっと待っている。拘束バインドから俺を物理的に刺す算段か? それとも違う魔法を放つのか?


「この距離ならばぁぁぁ『トルーワードオブデス』!」


 俺が教祖の頭を掴むとほぼ同時に魔導鎧の前面装甲に叩きつけられるキスケの頭から凶悪な即死魔法が放たれる。『闇魔法』レベル8相当の呪文を食らえば助かる見込みは無い。魔法防御が高ければレジスト出来るが、キスケのせいで俺の魔法防御は実質0だ。至近距離で邪神謹製の即死呪文の直撃を食らった俺は……。


「効かないな」


「にゅわにぃ……」


 俺は教祖が言い終わる前に彼の頭蓋骨を握りつぶす。


 アンデッドに即死呪文は効かない。当然の事だ。


「大丈夫……だよな?」


 余りにも強力な『闇魔法』を食らったので『ダンピール』レベルが上昇するかもと心配する。幸いスキルポイントは0だ。それに『プロトブレイバー』のおかげでスキルポイントは手動で振れる。他の人間ならスキルポイント超過状態に陥ってでもアンデッド化していた可能性が高い。ふぅ、スキルの仕様に救われた。


 これで残すはマチアスただ一人。何を考えているのか分からないから不気味だ。邪教徒と共闘すれば勝つ可能性があったのに、それを棒に振っても勝てる切り札があるのか?


 教祖と他の邪教徒の死体からアジトの位置が分かるかもしれない。嫌々『アイテムボックス』に入れようとすると、死体が粘っこい黒い液体に変わって大地に落ちる。


「ちぃ、最後っ屁か!?」


 その液体に沈みそうだったキスケのスカルワンドを無理やり引き摺り出し、『跳躍』でバックステップをして距離を取る。キスケのスカルワンドには魂が宿っているため『アイテムボックス』に入れることが出来ない。入れられた方が嬉しかったが、現実は何処までも俺に優しくない。ワンドを破壊するだけでキスケを解放できるのなら今すぐやるが、それでは駄目だ。幸いマックスかシーナに頼めばキスケの魂を成仏させられるからそれまでの辛抱だ。それに今のキスケは武器判定だから決闘の条件にある「降伏を認めない」に抵触しない。


 俺は危険を承知で前面装甲を開けてキスケのスカルワンドをパイロット席に入れ、『アイテムボックス』から麻袋を取り出し素早くキスケの頭に被せる。ルルブによるとこれで休止状態になるらしい。休止状態じゃないと所構わずバステをばら撒く呪いのワンドでしかない。そう考えると教祖は最初から魔法使いまでも殺す予定だったのかもしれない。そして最終的に俺の目の前で起こっている事態が本命か。


 教祖の死体だった液体は沸騰している。そして他の死体も液状化して教祖に集まっている。距離の関係で回収出来なかった軽騎兵の死体までそっちに合流している。どうやら一定範囲内の死体を強制的に徴収する召喚魔法だ。そしてこの手の召喚魔法は死体の質と数が重要になってくる。重騎兵を含めた100人近くが召喚の素材として消費されていればどんな化け物が出て来たか想像もしたくない。発動そのものを阻害したいが、不安定な魔法に物理攻撃で干渉するのは余りにも危険だ。


 俺も観客も固唾を呑まず召喚陣を注視する。これまで動きらしい動きを見せなかったマチアスですら召喚陣に興味を示す。そしてそれは現れる。

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