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168 闘技場 邪教徒戦 上

邪教徒戦が5000文字近くになったので泣く泣く分割です。

 俺が動けないとはいえ、邪教徒達は接近する素振りを見せない。魔導鎧のコクピットハッチを力尽くでこじ開けて俺を刺したら邪教徒の勝ちになるのに。こんな臆病者に良い様にやられる自分が情けない。


「放て!」


「「『ファイアボール』『ウィンドスピア』」」


 魔法を使える邪教徒が攻撃を開始する。中には俺を殺処分にした判事が混じっている。あの判事は結構身分が高いのだから潜伏をし続ければ邪教徒だとはバレないはずなのに、なぜ顔を出してまで参戦するのか。参戦しないと未来が無いほど追いつめられているのか?


 カン、カン! と魔導鎧の魔法防御が攻撃魔法を弾く。スキルレベル3で放てる魔法攻撃なら何回食らっても俺の防御を抜くことは出来ない。ルビーが敵だったら一撃で防御を貫通して魔導鎧を半壊させている。つくづくルビーが敵じゃなくて良かった。


「効きません!」


 魔法使いが泣き言を言う。


「情けないぃぃぃ! しばらくすれば窒息して気絶する。そうしたら魔法防御は切れるぅぅぅ!」


「なら窒息死を待ちましょう」


「愚か者ぉぉぉ! 我らが神がそんな苦しまないで死んだ贄を望むかぁぁぁ!!」


 教義上最適解を選択出来ないとは哀れな。俺が拘束バインドされたのなら魔法供給は止まるはずなのに魔導鎧は問題無く稼働している。拘束バインド前に流した魔力で持っているにしては時間が経ち過ぎている。


 ああそうか、簡単な事じゃないか。呼吸出来ないから『マナ呼吸』に自動で切り替わっている。これなら肺が動かなくても自動的に周りのマナを吸収して魔導鎧の活動を継続してくれる。アンデッド系のスキルは揃いも揃って規格外だが普通に生活をしている限りまず恩恵を受けない。でもこういう死地に身を置くとその有難味が良く分かる。人間を辞めてヴァンパイアやリッチになりたい人間が後を絶たない分けだ。


 立ち尽くす魔導鎧に容赦なく魔法攻撃が放たれるが、一発たりとも魔法防御を突破出来ない。このままだと邪教徒の魔力の方が先に尽きる。俺に取っては有利だが、そんな無様な姿を晒す事をあの老人が許すか?


「こうなればぁぁぁ、贄を殺せぇぇぇ!」


 魔導鎧に籠っている俺を殺すために今まで攻撃していたんじゃないのか?


「うりゃあああ!」


 邪教徒の男が同僚の首を斬り落とす。何をやっているんだ?


「ホルガー、もっと苦しむように斬れ!」


「うっす!」


 あれはホルガーなのか? ダイアベアから助けたのは失敗だったか? それにホルガーに指示を出しているのはクロードを殺した衛兵じゃないか。それに殺されている人間を見ると奴隷の首輪を嵌めている。生贄として殺害するために奴隷商で購入したのか。なんて卑劣な!


「感じるぅぅぅ! 神の恩寵を感じるぅぅぅ!! 最上の生贄たるルビーとシーナをマチアス様の計画のために用意出来なかったが、これでも貴様を殺すには十分だぁぁぁ!!」


 ルビーとシーナだと? あの二人が奴隷として参戦していれば俺は二人を殺さないといけなかった。マチアスが二人を人質として闘技場の外に置いた結果、二人が首の皮一枚で助かるとは皮肉なものだ。


「……(ゆる)さない」


 こみあげて来る怒りが拘束バインドを力尽くで緩める。魔導鎧も俺に答える様に小刻みに震え出す。完全に影響化から抜けたわけでは無いが、先ほどよりはマシな状況だ。


「爺さん、動き出したぞ!」


 ホルガーの声が恐怖で震える。俺はダイアベアより凶暴だぞ? 確実にぶっ殺してやる。


「あぁぁりえぬぅぅぅ!! ならぁぁぁ再度拘束バインドするまでぇぇぇ!」


「お待ちを! 恩寵を使えば攻撃魔法の威力が足りません!」


「こうなればぁぁぁ拘束バインドで圧殺してくれりゅぅぅぅ!!」


 どうやらあの老人の邪教徒歴は長くても強者との戦闘経験は無いみたいだ。必殺の拘束バインドが少し緩んだだけでパニクる様では底が見える。実際、敵の魔法使いが言う通り、俺がまだ自由に動けない内に恩寵で強化した魔法攻撃を連続で打ち込むのが上策だ。少なくても魔導鎧にかなりの被害が出て、俺はマチアス相手に生身で戦う事を強制されていた可能性が高い。


「こぉぉぉれを見ろぉぉぉ!!」


 老人は麻袋の中からワンドを取り出す。


「まさか……キスケ!?」


 そのワンドの先端にはキスケの頭だと辛うじて認識出来るものが刺さっている。余りの事に一瞬放心する。


拘束バインドをぉぉぉ!!」


「ぐぅぅぅ……」


 前回よりきつく拘束される。魔導鎧も拘束の強さに軋み出す。


 キスケの成れの果てを見たショックと吐き気を精神力でねじ伏せ、唯一動く頭を全力で動かす。


 ルルブの知識からあのワンドはスカルワンドに違いない。殺した人間の頭をワンドにする事で魂の成仏を妨げ、永遠に責め苦を負わせる邪教徒の必須装備だ。キスケの首無し死体が見つかったのだからその可能性に思い当たるべきだった! 許さないと言う怒りの気持ちを無理やり抑え込み、何故キスケの頭を使っているのか考える。俺の情報を抜いた後はキスケに価値は無いはず。


「言葉すらでまい! このハーフエルフには散々同志を殺されたわ! だが、罠に嵌めて捕えたらこちらのものぉぉぉ! 一緒に捕えた男どもはすぐに事切れて大した情報を持っていなかったが、このハーフエルフは実に良い情報提供者だったぞぉぉぉ! 情報を得るために犯して拷問して生きたまま解体した手間のおつりが帰って来るほどになぁぁぁ!!」


 それを聞いて俺の中で何かが切れた。


「不思議じゃろう! 何故ハーフエルフが貴様の魔法防御を突破出来るかぁぁぁ!! な!? な!? それはこやつは貴様の近縁だからだぁぁぁ!! 我らの神は貴様が生贄として今度こそ捧げられるようにこやつを遣わしたのだぁぁぁ!!」


 我をここまで怒らせるとは。やはり人類を滅ぼすまで止まれぬ。


 ルルブによると魔法は対象の新鮮な血を使えば魔法防御を突破しやすい。それが駄目なら近縁者の血で代用できる。そして邪教徒はそういう血縁魔法に長けている。近縁となるとキスケは初代風の聖戦士の年の離れた異母妹になるのか? 二人の父親が古いエルフなら数千年生きていても不思議ではない。


 しかしこれはヤバい。どうやってこの戒めを解く?


 ポタ。


 勝ち誇ったように喚く老人の声は既に聞く価値も無いが、話し続けてくれるのなら時間を稼げる。


 ポタ。


「五月蠅いな」


 ポタポタと音がするのが気になる。頭を動かして出所を探すと俺の右大腿に血が数滴落ちていた。どうやらいつの間にか右目から出血しているみたいだ。


「ん?」


 俺の体が動いている。一体どうして?

応援よろしくお願いします!

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