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162 ルビー視点 早く助けに来なさい 下

明日からラストバトルです!

「これはどういう事だ! 親父を何処にやった!?」


「知らねぇ、本当だ!」


 突然現れた男の余りの剣幕にボスが気圧されるとは情けない限りです。


「今朝こいつを店に連れて来る手筈だったはずだ!」


 私を指さしてヒステリックに怒鳴る様は滑稽です。


「マチアス様がご入用との事だ。先方に直談判しろ。俺を巻き込むな」


「親父がそんな木っ端貴族に遠慮すると思うか!?」


 奴隷商? でも私の知っている奴隷商とは違います。シーナも以前来た奴隷商とは別人だと私に耳打ちします。


「それはそうだが……」


「ならこの二人は今すぐ貰い受ける。うちの商品だ!」


「連れて行けるなら、連れて行け」


 この男は駄目ですね。ボスの悪辣さを理解していません。


「良し、貴様ら! 命令だ! ついて来い! おい、どうした! 何故笑っている? 俺をバカにしているのか?」


「「はい」」


 それ以外に何と答えたら良いのでしょう?


「生まれて来た事を後悔させてやる! いつまでも首輪の力に抗えると……」


 首輪をしていない事に気付いて先程の威勢が急に無くなります。


「貴方の台詞を一字一句違わずコームグラス家に報告してあげましょう」


 私が宰相家に伝えたら愉快な事になりそうです。


「覚えるの面倒」


「私が覚えておくから」


 シーナに覚えてと頼むのは酷みたい。


「なんで首輪をしていない! クライアントに引き渡さないといけないんだぞ!」


「知らねぇよ。首輪が不良品だったんじゃないか?」


 やっと私を買おうとしている人に近づけます。リルが調べた限りラディアンド在住ではない事までしか分かりません。誰であろうと焼き殺しますけどね? 散々迷惑を掛けてくれたその人にはしっかりあの世で償ってもらいます。


「貴方、ここまで言って生きて帰れると思っていないでしょうね?」


 私は若い奴隷商を睨み、『火魔法』を発動させます。


「わ、私を殺すつもりか! そんな事をしたらどうなるか分かっているのか!」


「私よりも貴方の横に立っている男の方が近いです」


 それを聞いて奴隷商は目を大きく開けてボスを見ます。


「この女の言う通りだ。てめえの親父ならまだしも青二才如きが良く吠えてくれたな!」


 ボスは強くないと誰も従いません。こんな声だけでかい奴隷商に負けたと知られたら求心力を急速に失います。私も少し前に経験しているから良く分かります。アッシュが無遠慮にメアとシーナを強化したため、私の言う事を聞かなくなってどんなに苦労したか。特に狂っているシーナは思っている事を口に出せば斬り殺されても文句は言えないほど危険な状態でした。


「二級市民である私に手を出せば……」


「ここは流民街だぜ? 死体なんて流民の餌にしたら誰も分からねえよ」


 本当なら残飯にはゴブリンの肉以外にも色々な肉が混じっているみたいです。


「私を誰だと思っているんだ! 私は……。私は……」


 奴隷商はそのまま壁にもたれ掛かり、そのままズルズル尻持ちを付きます。自分の信じていた小さな世界が音を立てて崩れたのでは仕方が無いかもしれません。


 私もボスも殺す気が無いと気付けないほどの無能には相応しい結末です。


「おいおい、そこまでにしておけよぉ? 俺の前で二級市民を殺しちゃ駄目だろぉ?」


 突然新しい声が聞こえてきます。上が騒がないのなら彼はここに出入り出来る男になります。口ぶりからするとボスより上みたいですが、顔が見えません。


「エリックの旦那! これは新人教育の一環だ」


「まあ良いけどぉ? それはそうと貴族の所有物に手を出すのは不味いぜぇ」


 ボスがチラッと私たちを見ます。そしてそんなボスの頭を片手で押し戻して軽妙そうな男が顔を見せます。


 強い。それが正直な感想です。彼が敵なら『サンクチュアリ』を突破される可能性を考慮して動かないといけません。


「ルビー! シーナ! リル! 迎えに来たよ!」


「え?」


 なんでメアがエリックと一緒に居るの?


「旦那! これはどういう……」


「怖い怖いコームグラス伯爵家が動いてさぁ。こう見えても流民街が血の海に沈まない様に頑張ってだねぇ」


「話が違う! それにマチアス様は……」


 ガン!と音がしたと思ったらボスが頭から血を流して倒れています。見えませんでした。これは警戒を更に上げる必要があります。


「どうしてあいつの名前が出る? 閣下に流民街を任されているのは私だ。何故私の知らない事態が発生している」


 エリックは鉄底のブーツで容赦なくボスの頭を踏みながら話します。ボスが奴隷商を脅したフリとは違います。


「マチアス様は金払いが良いんだ! それに後ろにはもっとデカい奴が!! 痛え、頼む、やめてくれ」


「嬢ちゃんたちを攫ったのはマチアスの命令か?」


「それはそこの奴隷商の親父だ! 俺はそれ以上は知らねえ!」


「わ、私はクライアントに依頼されて……。父以外は詳しい事を知らない特別な商談なんだ!」


 ボスと余りの殺気に失禁している奴隷商が必死に言い訳を述べます。出来ればそのクライアントの名前を知りたいですが、この様子だと奴隷商は知らないでしょう。


「さて、どうしたものかねぇ」


 エリックは面倒そうに私を含めた全員を見回します。


「私たちを解放するだけでは済まない事になっていると?」


 勇気をもって話します。


「アッシュがマチアスと決闘する事になった。二人は人質らしい。おい、どうなんだ?」


「へへ。いつもの手口でさぁ。負けたら解放するって約束して……へへ」


 解放はしない。そして殺すか奴隷商に売るですね。アッシュは私のために負けを選ぶ事はありません。エリックを送り込んだのはこのためですか。


「今回の決闘はお互いが死ぬまでだ。マチアスの強い要望で降参は認められない」


「それって……」


「貴様らに後金を払う男はいない」


 エリックが決闘の条件を伝え、この台詞で締めます。マチアスは決闘に勝ってからボスに後金を払うのですね。ですがマチアスが死ねば……。


「マチアス様が負けるはずは……」


「アッシュは生身で魔導鎧を纏った騎士を殺せる男だぞ? マチアスは死ぬ」


 エリックがシンプルに断言します。


「ボスーー!! 緊急事態だ! 大変だ!」


 今日は突然の来客が多いみたいですね。


「コームグラス家が来たかぁ? それにはちょっと早くねぇか?」


 エリックが呟くも、息を切らした男は首を横に振ります。


「闘技場で一方的! 一方的な虐殺が!!」


 男は焦りながら叫びます。決闘で虐殺とは如何に? 私のみならず、全員が首をかしげます。


応援よろしくお願いします!

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