161 ルビー視点 早く助けに来なさい 中
今回でルビー視点が終わるはずだったのに、もう一話必要になってしまいました。
それと40万文字達成です!
「てめぇら、このドアを開けやがれ! これは命令だ!」
籠城を決め込んだのを知って、ここのボスらしい男が扉の外で喚いています。
「聞く必要があって?」
「首輪はどうしたぁ!? 誰が外しやがった!?」
「最初から首輪なんてありませんよ?」
嘘です。ですが奴隷の首輪をしていた事を認めると、万が一裁判になった時に不利になります。こういう時は何も考えずに私に追随してくれるシーナは助かります。
「なら扉をぶち壊してやらぁ! 誰かハンマーを持って来い!」
「無駄ですよ?」
ドアと壁の間に何かを挟んだと考えているみたいですが、それは間違いです。シーナの『光魔法』の一つを使いである『サンクチュアリ』で不可侵の安全地帯を展開しているだけです。シーナを中心に球形に展開しており、余程の実力差が無い限り突破は不可能です。アッシュでは実力不足でオークチャンピオンですら数回全力で殴る必要があります。ただシーナのMP燃費の悪さには閉口します。それでもドアを私の魔法で壁に溶接するよりは選択肢が増えそうです。
一時間ほど掛けてドアを無理やりぶち破るも、実際はドアの下の方がサンクチュアリの外縁にぶつかっていたために開かないと知ってボス以下一同が脱力します。あれだけ全力でハンマー類を振ったのにご愁傷様です。
「ぜはぁ……ふざけやがって!」
「ふざける? 貴族の所有物を誘拐監禁して言う事ですか?」
自分をアッシュの所有物と認めるのは気に入りませんが、ここを切り抜けるためです。
「そっちがその気なら! おい、あの女を連れて来い!」
誰か他に囚われていた? 私はシーナを見ますが、彼女は知らないと言います。
しばらく待つと奴隷の首輪を嵌められたリルが引き摺られて来ます。足が折れているのはオークチャンピオン戦から分かっています。しかし右の手首から下が無いのと、身体中の痣はどうやって付いたのでしょう。もしこいつらがやったのなら、灰になるまで燃やしても気は晴れません。
「そんなに睨んでも怖くねぇぜ! それともそこから出て来るか?」
リルを助けるのなら籠城を解除する必要があります。私とシーナの真ん前で拷問でもすれば私たちが折れると考えているのかもしれません。メアとミリスが居たら有効な手でしたが、不利になると分かって動くほど私は軽い女ではありません。
「リルに非道な事をしたのは貴方ですか?」
「へへ、手を切ってお仲間の下に送ってやったぜ。優しいだろう?」
反吐が出ますが、彼の失策は正しく評価しないといけません。私たちが生きている物証を渡すなんてなんと迂闊な。シーナの生存が確定したらアッシュのみならずコームグラス家が動くのを分かっていないのでしょうか? 私たちを奴隷として売りたいのなら何が何でも生存を隠す必要があるのに。となると力関係ではマチアスの方が奴隷商より上と言う事になりそうです。奴隷商は奴隷商でかなりのコネがあるのでマチアスに押し負けるとは思えませんが、マチアスには何か切り札があったのでしょう。
「……ごめ」
「黙っていろ!」
リルが謝りますが、男の命令で強制的に黙らせられます。私とシーナが嵌めていた奴隷の首輪よりグレードが高い首輪みたいです。そう言えば孤児の首輪もダークエルフには効果が薄かったのを思い出します。通常の首輪ではリルを抑えられないのでしょう。
「リル、飛び込んで!」
シーナが突然声を上げます。そしてそれに導かれたようにリルが結界の中に入ります。リルを捕まえようとした男の手は予想通り弾かれます。
困りました。
「かかったな! あの二人を昏倒させろ!」
「え?」
でしょうね。リルを中に入れて命令で私たち二人を倒す。シーナは何故驚くのか。まさか考えなしにリルを入れたのですか? ああ、そうです。それがシーナです。
「来なさい!」
私がシーナとリルの間に立ちふさがります。リルが持っていた木製の短剣で私の首筋を容赦なく狙います。命令通り最適解を選択した事に安堵します。私は右手で短剣を受けます。ボキッと骨が折れる音がしますが、リルの味わっている苦しみに比べれば大した事ありません。
「許しは請いません」
左手でリルの首輪を掴み、『火魔法』で奴隷の首輪をリルの首の半分ごと吹き飛ばします。
「シーナ!」
「『ヒーリング』!」
本来なら数秒後に死ぬ致命傷でもシーナが致命傷を負うのと同時に回復魔法を掛ければ助かります。首の骨まで焼かなかった私の実力の賜物です。ついでにリルの痣と片足、そして私の右腕も治療して貰います。リルの右手は無いのでそのままです。気絶しているリルが目を覚ますのはもう少し先になりそうです。目覚めたらシーナのために『アイテムボックス』からMP回復ポーションを出して貰わないといけません。
「仲間を返してくれてありがとう」
私は嫌味たっぷりに男を睨みつけます。
「頭おかしいんじゃねぇ!?」
安心しました。彼は私たちの実力を把握していません。男は前衛としては強そうですが、これなら十分勝ち目があります。世間一般では手足を切り落とされたら死刑宣告です。ですが私たちはシーナが生きている限り手足は斬り落とされても良い消耗品です。
「誉め言葉です」
ニコリと笑う私に男とその取り巻きは恐怖し一歩下がります。裏稼業としてはそこそこの規模みたいですが、本物と雌雄を決する経験は乏しいみたいです。流民街でお山の大将をやっていれば仕方が無いのかもしれません。
もう『火魔法』で彼らを吹き飛ばそうかと考えていたら突然上の方が騒がしくなります。何事かと事態を注視していると程よく上品な衣服を着た男がボスに詰め寄ります。ボスを直接怒鳴りつけられる身分なら一定の力がある平民で間違いないでしょう。こんな所に直接乗り込むとは余程の理由があるのでしょう。
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