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016 廃寺院 混戦

 ゴブリンが全部同じに見える。装備している武器である程度当たりを付けられるが、これだけ多いと誤差の範囲だ。流石に全匹殺すのは現実的ではないし、確実に次の突撃で近くまで行かなくてはいけない。『吸血』が露見するのを諦めるのならまだまだ余裕だ。しかしマックスとの関係を考えると多用は避けたい。


 俺は卓上の事を思い浮かべる。GMがヒーラーを配置するなら何処に配置する? 一番良い場所は俺が魔法ゴブリンを刺殺した場所だ。ここには居なかったし、ゴブリンブルートが蹴りを放った事が説明できなくなる。となると焚火を中心とした三角形の最後の点が怪しい。俺たちの居た檻から遠く、散発的な投石と矢がまだ降り注いでいる。GMがガチに殺しに来ていたらもう数か所候補があるが、確認に行くだけで一苦労だ。


 まずは散発的な遠距離攻撃をしてきている奴らだ。マックスの実力では撃ち落とせない。流れ矢でゴブリンブルートに敗北したなんて格好悪いからな!


「真っ直ぐ向かうより中央の焚火に寄って行こう」


 焚火はここのゴブリン達の中心だ。俺がストックしていないスキルを持つゴブリンや財宝類が転がっている可能性がある。イベントボスをマックスに押し付けて財宝強奪なんて、俺はいつからローグになったんだ。それでもやるけど。


「邪魔だ! どけ!」


 俺が焚火に向かって走り出したのをゴブリン達が気付いた。そして焚火に近づくに連れゴブリンの圧が増した。石と矢なんて9割は俺の方に飛んできている。マックスに掛かる圧が弱くなるので良いこと尽くめだ。間違いない。焚火には何かある。骨だけになった豚が大事で俺の邪魔をしていない事を祈るのみだ。


「うわぁぁぁ!」


「マックス!」


 遂にマックスの体力が限界に近づいた。吹き飛ばされてもすぐに立ち上がれたのは良かった。ゴブリンブルートの追撃をあっさり躱す所を見ると、あの一撃で距離を取って建て直しを計ったのではと考えた。それでも完全回避からダメージを食らってでも戦い続ける姿勢に切り替えたのは確かだ。


 ゴブリンヒーラーを無視してダメージレースで勝てるか? 無理だ。俺は初志貫徹するしかない。


 それに焚火の傍で良い物を見つけた。


「こいつは業物だ」


 俺は動物の骨と死体、そして様々なゴミの中に転がっていた一振りの剣を手に取る。削られた家紋がよく見たら王家の物だと分かる程度に処理されている。乱戦ではバレないが、多少教育を受けた貴族なら間違いはしない。他には似た感じで使い込まれている鎧とか小さな革袋があったが、今はそれに手を出す余裕は無い。それ以外はありがたくアイテムボックスに投げ込み、俺はマックスの剣を構えてゴブリンブルートを後ろから斬りかかった。狙うは足だ。アキレス腱に相当する物を斬れたら最高だが、俺の腕ではとても狙えない。錆びた槍では狙えても皮膚を貫通出来ない。


「マックス、しばし引き受ける!」


「……分かった!」


 一瞬抗議しようとしたマックスは俺の手にある剣を見て引き下がった。マックスは上着のボタンを乱雑に外し、アイテムポケットからポーションを取り出した。俺が稼げる数秒で回復を優先した。取れる手がそれだけ少なかったが、ここまで以心伝心で戦えるとは予想していなかった。


「ゴブゴブ!」


「共通語くらい話せよ、デカブツ!」


 やはり攻撃力だけ肥大して肝心の知能の方は普通のゴブリンと大差ない。何せゴブリンキングならばエルフの古典を諳んじる程度の知能があるのだから。それでも戦闘に関するセンスは中々のものだ。俺は最初の一撃で剣を使う事を諦め槍に切り替えた。俺の剣術レベルでは防御する事すら敵わない。


「アッシュ、スイッチ!」


「応! 受け取れ!」


 マックスがゴブリンの使っていた錆びた剣を持って近づいてきた。やはり光の剣はMP切れで維持出来なくなっていたか。俺の投げた剣は明後日の方向に飛んだが、そこはマックスが動くことで空中でキャッチした。どんな状況でも絵になる男だ。


「ゴブリンよ、ここで終わらせると誓おう!」


「ゴブ?」


 ゴブリンブルートがアッシュの古典的な戦場の言い回しを理解出来るわけないだろう。格好をつける暇があるのなら一撃をお見舞いしろ。


 あれ? もしかして俺へのメッセージ?


「ご武運を!」


 一対一でケリを付けるから邪魔をするなって意味を含む言い回しだったはず。クロードの知識なんでいまいち解釈を間違えた気がしないでもない。でも「加勢しろ」では無いのは間違いないから俺は俺の戦いをする事にした。


 ゴブリンブルートに与えた極小のダメージがヒールされているのを見て、俺はゴブリンヒーラーの位置を割り出していた。俺は一目散にそこへ目掛けて駆けだした。


「私を無視するか!」


「ゴブ!」


 俺のやろうとしている事を本能で理解したゴブリンブルートが俺を攻撃しようとする。しかしそうするとマックス相手に致命的な隙を見せる事になる。マックスはその隙を見逃さず、ゴブリンヒーラーが居なければ決着と言っても良い一撃を入れた。ゴブリンブルートのヘイトを見事稼いでくれた事で、俺はあいつの攻撃対象から確実に離れた。


 こうなってくると俺が如何に早くゴブリンヒーラーのヒールを止められるかに掛かっている。殺すのが最善だが、せめて詠唱を中断だけでもさせられたらマックスなら押し切れる。そう思って進路上に居るゴブリンを倒しながら進むと盾を持った2匹のゴブリンに守られたゴブリンヒーラーを見つけた。


「護衛付きとは中々」


 俺は笑みを浮かべて走る速度を上げた。あの盾は飾りではあるまい。俺の持っていないスキルを寄こせ!

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