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152 撤退戦 途中経過

 2メートル弱あるオークの前衛が俺たちの防御陣地に突っ込む。大盾を構えていた冒険者が衝撃を支えきれず尻持ちを付く。そこにオークがナタを振り下ろし、冒険者は断末魔の悲鳴を上げて果てる。そして次の獲物を狙うオークの首を俺が跳ね飛ばす。


「怯むな!」


 先の攻撃で3人目のオークを殺した俺が大声で怒鳴る。もはや誰も聞いていない気がする。そもそも、俺は誰に対して叫んでいるのかも分からない。考える間もなく次のオークが襲い掛かって来るので、その攻撃を躱しながら槍を相手の腹にねじ込む。ガングフォール謹製の槍で無ければいつ折れるか分からないほど酷使している。身の丈に合う武器なんて使っていたらこの10分間で3回は死んでいる。


 オークを流れ作業で殺しながら数歩ずつ後退する。俺の横には斧を振り回す冒険者が豪快にオークを破壊している。俺が2人殺す間に3人殺している。問題は他の冒険者だ。オークを殺し間に誘導するためには後退しながら防衛ラインを維持するのは絶対だ。しかし彼らは一方的にオークに蹴散らされている。前の冒険者が殺されたらすぐ後ろの冒険者が出る事になっているが、殺されるために出て来ている様なものだ。平均的な強さを持つ冒険者とオークの弱卒ではオークに軍配が上がる。


 前世でTRPGをやっていた時にGMが「人類は一握りの英雄によって戦線が支えられています」と言っていたが、この世界も同じみたいだ。実際この防衛ラインは俺と斧戦士の二人で支えているようなものだ。オークが俺たちの横を通り過ぎない様に他の冒険者は少しでも持ってくれと思わずにはいられない。


 そんな絶望的な戦線だが、オークの巨体の隙間から戦場全体を見通す。左右に広がろうとしているオークに両騎士が苛烈な攻撃を仕掛けている。簡易防壁越しに槍で突くと言うシンプルだが効果的な方法でオークを俺たちの方に誘導している。誘導では無く撃破までやって欲しいが、一般兵士の実力ではオークを殺せるほど深く槍を刺せない。


 攻めているオークのすぐ後方で詠唱をしているオークドルイドの脳天に矢が刺さる。どうやら弓を使う冒険者が頑張ってマジックユーザーを狙ってくれているみたいだ。矢羽からして俺が模擬戦で唯一勝てた冒険者みたいだが、弓の名手に接近戦で勝てても自慢にすらならない。幾ら健闘しても全敗では他の冒険者に睨みを利かせられないとして忖度されたのだろう。


 そして矢が届かない遥か後方ではオークシャーマンがまた何か魔法を発動させようとする。そしてそのシャーマンの首を後ろから忍び寄ったリルが掻き切る。盛大に血を吹きながら倒れるシャーマンを心配するオークはいない。シャーマンが一人死のうとも次のシャーマンが産まれて勝手に成長する。それでも今の戦いに限定するのなら大きい一撃だ。


 俺が他の冒険者の反対を押し切って弓使いを後方で遊撃に徹しさせ、リル達斥候系に迂回させてオーク本陣を直接叩く作戦にして良かった。


 ジリジリ後退している所に、俺の左にどこかで見た冒険者が立つ。


「メア!?」


「やっとあたしの番だぜ!」


「もっと後方に配置しただろうが!」


「残念だけど、あたしが最終ライン!」


「何だと!?」


 戦いに集中してここまで下がったとは気付かなかった。となるとこれ以上は下がれない。


「やああ!」


 メアがオークのナタを弾き飛ばし、オークの腹に剣を差し込もうとするも、剣は途中で止まる。


「俺が蹴る!」


 このままでは危ないので、俺がメアの剣の取っ手を蹴り、オークの腹の奥深くまで突き刺す。俺の声を聞いて咄嗟に武器を手放してくれたメアのおかげだ。崩れ落ちるオークを無視して、俺は『アイテムボックス』から残り少なくなっているモーリックの剣を取り出してメアに渡す。


「すまない!」


「気にするな! 刺すより斬れ!」


 メアの『剣術』スキルなら十分オークを圧倒できる。しかし位階レベル不足のため、オークを殺し切れるステータスが無い。戦線を維持すると言う一点では使えるが、メアが手傷を負わせたオークを誰からが殺さないといけない。そしてメアとの関係と距離からして俺しか候補がいない。もう少し最終ラインから離れていれば矢で射殺せるのだが、この距離では矢は嫌がらせ程度にしかならない。


「そろそろのはずだ!」


 ここまで下がったのなら両騎士はオークの横腹を突けるはず。だがそれでも機を待っているのか両翼は動かない。


 オークの横腹を突く最高のタイミングを待っているのか、冒険者が全滅するのを待っているのか。冒険者の死傷率だけを見たら後者だが、今の俺では全体を俯瞰して状況を見る余裕が無い。もう一つ待っているものがある可能性は否定したい。考えたくないが両翼は俺が死ぬのを待っているのかもしれない。


「くそ! もう後がねえぞ!?」


 斧戦士が叫ぶ。先ほどまで矢を射っていた冒険者まで防衛ラインを支えるために出て来ている。もう3人ほど死ねばオークは一気に簡易陣地になだれ込み、ルビーとシーナに刃が届く。


 ガンガンガァーン!!


「突撃ぃぃぃ!!」


 鏜鑼を鳴らし、やっと両翼が動く。これで予定通り3方からオークを圧殺出来る。俺達は数を減らし過ぎて余り活躍出来ないだろうが、もはや生き残れたらそれで良い。これで勝てると思い自然と笑みがこぼれる。他の冒険者にも楽観ムードが漂う。実際に俺達が受けていた圧が大幅に減じ、ポーションを飲んだりけが人をシーナの下まで送れる余裕が出来る。


 このまま行けば、と全員が思ったその時異変が左翼で起こる。とあるオークが俺たちの切り札たる騎士の魔導鎧の前面装甲を素手で貫く!

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