015 廃寺院 強敵
「アッシューーー!!」
飛び散る肉片と血を見たマックスの驚く声が聞こえた。この一撃をマックスが食らっていれば無事では済まなかった。
俺は爆発が当たる直前にアイテムボックスからゴブリン2匹の死体を取り出し、槍先に刺して前方に掲げていた。謂わばダブルゴブリンシールドだ! このおかげで爆発の直撃は2匹の死体が肩代わりしてくれた。錆びた槍2本もポッキリと折れてしまった。アイテムボックスをレベル2にして予備をたくさん拾っていなければピンチだった。
爆発の粉塵が完全に消える前に俺は動き出した。魔法ゴブリンは俺を殺せたと確信して油断している。今なら確実に殺せる。
「貰ったぁぁぁ!」
マックスに集中して完全に俺の事を忘れていた魔法ゴブリンの胸を槍で貫く。魔法ゴブリンは何が起こったのか分からないのか、口を数回パクパクして息絶えた。スキルのおかげでゴブリンみたいなモンスターでも魔法を放てる。しかしそれを十全に使いこなすだけの知恵が無い。そんなのがあれば、人類はゴブリンに滅ぼされても不思議じゃないからこの方が都合が良い。
振り返ってマックスに無事を伝えようとしたその時……。
「危ない!」
マックスの声を聞いて瞬時にゴブリンの死体を数体前方にばら撒いた。そして気付けば俺は少し遠い壁の中にめり込んでいた。
「痛……一体何が」
俺は軋む体に体に逆らわず、そのまま地面に落ちた。その時間を使って俺は何が起こったのか必死に思い出そうとした。
「蹴られたのか」
俺が魔法ゴブリンを倒して油断したその一瞬で中央に居た大きいゴブリンが俺に必殺の蹴りを放っていた。おそらくあいつだけは爆発に巻き込まれた俺の生存に気付いていた。だから魔法ゴブリンを囮に使い俺を確実に葬る行動に出た。何というお笑い草だ! 魔法ゴブリンの油断を笑った俺が一番油断していた!!
蹴られた体の前方はゴブリンの死体がクッションになり、後方は生きていて巻き込まれたゴブリンがクッションになったおかげで俺は全身打撲程度で済んだ。俺は致命傷を負って死に損なったゴブリンに『吸血』を発動して無理やりHPを回復させる。裂傷は血が止まるまでどうにもならないが、スリップダメージを『吸血』で相殺すれば死ぬ事は無い。それに俺がここで戦線離脱すれば二人とも死ぬ。地を這ってでも暴れ回るぞ!
「俺は大丈夫だ!」
大げさに槍を頭上で振ってマックスに無事を伝える。「後一人殺せば終わり」と楽観していたゴブリンどもに冷や水を浴びせる。大きいゴブリンは明らかに不機嫌そうに鼻を鳴らす。俺を殺せなかったのが不満なのか、貴重な魔法ゴブリンを失った事が不満なのか分からない。どっちでも良い。群れのボスである大きいゴブリンは俺とマックスを明確に敵だと認識した。ここからが本番だ。
「こいつは私に任せて休んでいてくれ!」
マックスは光の剣を振りかざして大きいゴブリンを斬り付けた。大きいゴブリンは腕で攻撃を受けた。
痛くないのか? そもそもあのゴブリンは何だろう。クロードの記憶にはこんなゴブリンの知識は無い。ルルブのモンスターマニュアルを参考にするならゴブリンブルートか? ゴブリン種で『力』だけ異常に発達した個体で、レベルが上がれば攻撃力だけならゴブリンキングすら凌駕する。卓上なら駆け出し冒険者相手の中ボス的なポジションで出そうだ。一つだけ突出したステータスでこれまでステータス差でごり押ししていた冒険者が苦戦する相手には持って来いだ。前衛が回避する事を意識して後衛が魔法で倒せば簡単に落ちる。
俺とマックスは前衛だ。そして後衛がいない。ちょっと難易度バランスが間違っている。卓上ならGMに文句を言う所だが、現実だからそれは不可能だ。不利なビルドと不利な状況で何とか勝ちを拾わないといけない。マックスに逃げる気があるのならもうちょっと生き残れる目があるのだが、もうマックスの目にはゴブリンブルートしか映っていない。
俺は迫りくるゴブリンを軽く虐殺しながら辺りを見回す。檻に居た時には見えなかった景色だ。上に行けるルートは4つ。その内一つは廃寺院外の穴に通じている。それがどのルートかある程度当たりを付けて現場を注視する。このままマックスが勝てば良し、負ける様なら本当にどうしようか? 前世の俺なら間違いなく見捨ていた。今の俺も積極的に体を張る気は湧いてこない。しかし見捨てるのは寝覚めが悪い気分になっている。
「はぁぁぁ!」
「ガァァァ!!」
俺の目でギリギリ追える一騎打ちを演じているマックスとゴブリンブルート。バカなゴブリンが加勢に動くが二人の戦いの余波で細切れになる。今の俺があの二人の戦いに介入したら同じ運命だ。マックスが軽いが確かな連撃をゴブリンブルートに撃ち込む。ゴブリンブルートは大ぶりでマックスを狙うが、マックスは華麗に躱す。マックスが息切れしなければこのまま勝ちそうだ。
「持つか?」
俺は疑問を口にする。マックスは肩で息をしている。明らかに体力の限界が近い。それに光の剣が揺れている。維持し続ける魔力が心元ない。それに比べゴブリンブルートは大ぶりが目立つが疲れている様には見えない。体の傷も目立たない。
「ん?」
『自己再生』でも持っているのか? それは変だ。あのゴブリンブルートの想定レベルとキャラビルドから『自己再生』を積むだけの余裕は無い。何かおかしい。何か見落としている。俺は自分がゴブリンブルートならどうやって傷を癒すか考える。スキルでは無い。ポーションみたいな道具でも無い。全体に影響を及ぼすエリアエフェクトもどきか? それなら他のゴブリンにも影響が出るはず。となると、最後の可能性、ゴブリンヒーラーか。クロードの記憶だと伝説上の存在、ルルブではレア中のレアだったぞ。
まさかこんな所に居るのか? まるで俺に『光魔法』を献上するために存在している様な敵が何処かに居るのか。もし本当に居るのなら万難を排してでも殺す!
応援よろしくお願いします!