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145 撤退戦 野戦陣地

「アッシュ卿、私は君が試練を無事に達成すると信じていた!」


 ルビー達と合流してまずは共に逃げて来た兵士たちを休ませる。その段取りとこれからの行動を協議するために仮設された本陣に入ると同時に宰相家の使者が試練達成を称える。彼の左右には見た事ない貴族が渋い顔で手を叩く。辺境伯が付けた戦力かんしなのは簡単に分かる。もう少し取り繕って欲しい気がするも、現場で戦う騎士が政治家ムーブをしても困るだけだと思い直す。


「出迎えご苦労。早速退……ああどうしたい?」


 「退こう」と言いそうになり言葉を飲み込む。仮設本陣なんてある事から軽々しく退く気が無いのは分かったが、辺境伯の騎士まで戦う気なのは想定外だ。敵の敵は味方理論で辺境伯の騎士を味方につけて使者を簀巻きにしてラディアンドに逃げる完璧な作戦が開始する前に破棄される。


「ユーグリンの力をあのホブゴブリンどもに見せつけるのです!」


 帝国滅亡寸前からの逆撃の後、オークは一時期姿を消した。実際は北方で数を増やしていただけだろうが、少なくても人間の前には姿を現さなかった。いつしかオークは伝説上の怪物になり、数百何前に再接触した時にオークはオークと認識されなかった。人型なのに会話に応じない事から巨大化したゴブリンの亜種だと勘違いされ、ホブゴブリンと呼ばれた。その侮りの代償はラディアンド王国の滅亡で支払われた。ラディアンド王国征服を虎視眈々と狙っていたユーグリン王国が滅亡と同時にラディアンドになだれ込み、この地で100年に及ぶ三つ巴の泥沼戦争に突入した。最終的にラディアンド残党とユーグリン王国が手を組み、オークを北方に追い返した。


 ラディアンド王国時代から続く旧家はオークの事をまだホブゴブリンと呼ぶ習慣が残っている。使者が「ホブゴブリン」と言ったのはラディアンドのそう言う歴史を鑑みた結果だ。そこまで配慮する必要があるのかは疑問だが、言葉遣いで暗に「自分は辺境伯の味方」をアピールしているのかもしれない。


「然り」


「斥候の話では300にも満たないとか」


 左右の騎士が使者に同調する。


「さ、300? その大丈夫か?」


 数を聞いて使者の顔が蒼白になる。俺が連れて来た兵士を含めてもオークの数は2倍以上。簡単な戦力比較なら6倍以上の戦力差になる。


「問題ありません」


「この防衛陣地で迎え撃てば勝てます」


 騎士の頭に蛆でも湧いてるのか?


「そうか! ならホブゴブリンを迎撃しラディアンドに凱旋する!」


 湧いているのは使者の方だったか。


「アッシュ卿も当然戦われるのでしょう?」


「武勇は(・)期待出来ます」


 帰りたい。でもここで離脱すれば敵前逃亡とか有らぬ疑いをでっち上げられる。こいつらはそう言う考えも無しに素でやっているから余計に質が悪い。


「オークなど我が槍で全て串刺しにしてくれる!」


 泣きたい。だがここで主導権を握れずとも発言権を握らないと良い様に使い潰される。ブラック企業時代にイエスマンの末路は散々見ている。


「「おお、流石アッシュ卿!」」


 三人がハモる。


「それで戦力と布陣はどうなっている?」


 冒険者に関しては道中でリルから聞いている。ルビーの人物評付きなのはどう動くかある程度想定できる。だがそれ以外の付いて来た冒険者と辺境伯の戦力については情報が足りない。


「私たちは辺境伯より賜った魔導鎧で左右を固めます」


「アッシュ卿と冒険者に中央を任せます」


 冒険者が差し込まれる事を前提に、オーク軍の横腹を突く作戦か。冒険者とはそう言う風に使い潰されるものだから仕方が無いが、俺までそこに配置するとは中々愉快な連中だ。裸一貫でオークに単騎突撃しろと言われないだけまだ有情なのかもしれない。


「私は聖女様と一緒にこの本陣から全体を俯瞰しましょう」


 使者は後方軍師面か。そう言えばブラック企業時代の上司の上司がこんな感じだったな。商談が纏まりかけた時に要らぬ事を言って破談からの平社員糾弾がセットのヤバい奴だった。俺の一年下の後輩に刺されて呆気なく退場したが、彼が銀行とのパイプ役だったため、俺の勤めていたブラック企業は更に資金繰りが悪化した。宰相家とのパイプを含め、使者からは同じ匂いがする。


「それは構わないが、前線は前線の指揮官に任せろ」


 無駄と思うが、釘は刺しておく。


「ご心配なく。こう見えても兵棋演習の成績は良かったのです」


 云わば、TRPGのベテランだからファンタジー世界で無双できると言っているのと同じだ。俺も最初はそんな事を思っていた時期があるが、ゴブリンに殺されかけてそんな幻想は捨てた。


「流石は宰相府の使者殿!」


「この程度の敵に使者殿を煩わせる事はありません」


 現場組は流石に危機感を覚えたか。


「なら各自は戦いの準備をする、で良いか?」


「「おう!」」


 これ以上話し合っても時間の無駄だ。シーナを聖女と呼ぶ使者を問い詰めるのと、マチアスの敵前逃亡を糾弾するのは後回しだ。両方とも後回しにすると致命傷になりそうだが、オーク戦の準備を後回しにしたら確実に死ぬからそっちを優先するしかない。


 まずはルビーと合流して「本当の状況」を聞く。それとルビーが本調子ではないとリルが言っていたので、そっちも気に掛けないといけない。女性関係の機微はブラック企業では経験していないから困る。

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