014 廃寺院 脱出
マックスの正体については後回しだ。本人が遊歴中の騎士だと言い張るのならそのままにしておく。着慣れていない服とアイテムポケットで上位貴族に連なる男だとは思っていたが、王子だったとは驚いた。王子をゴブリンに誘拐された従騎士のヘンリーとやらは大丈夫だろうか。責任問題をすっとばして族滅の危機じゃないか?
「はあああ!」
マックスが光の剣を振るう度にゴブリンが数匹死ぬ。彼の攻撃は圧倒的だ。俺は武器を持っていないので大人しく彼の後ろに居た。逸って突撃したら俺の死亡フラグだし、マックスにも迷惑を掛ける。マックスが槍ゴブリンを倒すまでここは我慢だ。
この時間で俺は『ブレイブシステム』を使用した。このスキルを使うには大きな懸念がある。あの激痛はこのスキルで槍術スキルのレベルを上げたから発生した可能性が高い。だが条件が分からない。回数が問題なのか、それとも連続レベルアップが問題なのか。何も弄らないのが安全に思えるが、手に入ったストックスキルを確認する。
***
名前 アッシュ
種族 人間(15)
職業 ダンピール1、プロトブレイバー1
位階 3/14
HP 47/47
MP 30/30
SP 2/13
体 16 (12/20)
技 10 ( 9/20)
心 8 ( 4/18)
魂 12 ( 6/18)
複合スキル
試作勇者
└01/10 限界LVアップ、取得SPアップ
└01/05 スキル操作
ダンピール
└01/10 剣術
└01/05 吸血
└01/03 マナ呼吸、暗視
個別スキル
生活系
└03/05 共通語
戦闘系
└05/10 槍術
特殊系
└01/10 アイテムボックス
***
ストックスキル
ブレイブシステム 0/1
吸血 0/1
アイテムボックス 2/3
最大LVアップ 2/3
取得SPアップ 2/3
盗掘 5/5
マナ呼吸 2/5
HPブースト 5/5
暗視 2/10
剣術 9/10
短剣術 10/10
槍術 9/10
斧術 10/10
弓術 10/10
投石 10/10
共通語 9/10
ゴブリン語 10/10
***
『盗掘』は俺が使わないのなら面白そうだが、やはり雑魚ゴブリンのスキルは期待出来ない。あれだけ斬ったのにこの程度なのは悲しい。スキル狙いでゴブリン狩りは割に合わない。
ここは『アイテムボックス』に1SPを使おう。温存しようかと思ったが、これから多くの武具を拾うのなら今のアイテムボックスでは手狭だ。ポイントを振る事で40センチ四方のアイテムボックスが80センチ四方になった。容量だけでも8倍だ。それに時間の流れを半分にまで遅らせる事が出来る様になった。これでモンスターの死体を入れても腐り出すまで少し時間がある。
残り1ポイントは温存だ。槍術にはやはり振れなかった。なので状況次第で『ダンピール』か『プロトブレイバー』に振る。そうやって考えていたらマックスがやっと槍ゴブリンを一匹仕留めた。
「ここからは俺も参戦するぜ!」
ゴブリンの死骸が持っていた槍を拾い上げ、マックスに負けない様にゴブリンを刺し貫く。
「その歳で見事な腕だ!」
「足を引っ張らない程度は戦える。あの大きいゴブリンは任せる」
褒めるマックスに軽口を返しながらマックスを誘導する。腕は確かだが戦い慣れていない。今のペース配分だと途中で息切れする。マックスに俺の『吸血』みたいな切り札があるのなら別だが、王家で天属性魔法の使い手と言う事で凡そ分かったマックスのスキル構成ではそんな余裕は無い。剣術を含むクラスレベル4,天属性を含むクラスレベル4、共通語レベル3は最低持っている。となるとスキルに1~2レベル分の余裕しかない。マックスは余裕ある立ち振る舞いとは逆で既に100%全力で戦っている。
流石にこれだけ暴れてはゴブリン達も異常事態に気付いた。最初は純粋に気付かなかったのか、何かの余興と思っていたのだろう。迫りくるゴブリンは俺とマックスの敵じゃない。錆びた槍が折れるたびに新しい錆びた槍を拾って戦うだけだ。そして俺が恐れていた三つの攻撃の一つが飛んできた。
「マックス、しゃがめ!」
俺は大声を上げながら俺とマックスに目掛けて放たれた石と矢を槍で叩き落とす。マックスは咄嗟に屈んだため、致命傷になりかねない直撃を回避出来た。やはりマックスはレベル5の戦闘スキルを持っていない。反応出来たと言う事はレベル4で間違いなさそうだ。
「助かる!」
マックスは素早く体勢を立て直しゴブリンの殲滅を再開した。だがこれではじり貧だ。そろそろ俺が恐れている次の攻撃、火魔法ゴブリンの一撃が来るはずだ。当たれば俺は一発で致命傷だし、マックスも二発耐えられるかどうかだ。リスクを取るしかない!
「マックス、目くらましだ! その隙に俺が後衛をやる!」
「わ、分かった。だが詠唱に少し時間が掛かる」
天魔法レベル1で使えるフラッシュなら戦いながらでも詠唱できるはずだ。あれさえ次の投石の前に間に合えばマックスが投石でやられる可能性は大幅に減る。
「俺が突っ込んでゴブリンの注意を引く!」
錆びた槍の二刀流で多少の傷を気にせずゴブリンの中を力尽くでかき分ける。この派手な立ち回りでゴブリンは俺の方を脅威と認識してくれたみたいだ。しかし後衛ゴブリンは冷静にマックスに照準を合わせている。敵のヘイトを俺に向けるスキルがあれば! ないものねだりをしては駄目だ。今ある手札で戦う。そして負けたら負けた時だ。ブラック企業で負ける事は慣れている。ゴブリンよ、三日寝ないで戦えるか!?
「エナドリを寄こしやがれ!」
日常デスマーチの記憶がフラッシュバックした俺は無意識に常飲していたエナドリを求めた。
「ないなら仕方が無い! ある所から貰うぜ!」
ゴブリンに噛みつき『吸血』を発動する。冷静になって考えるとマックスに見られると不味い。だが彼は剣を振りながら魔法を詠唱する事に苦労している。俺の攻撃の本質までは見抜けまい!
「行くぞ、フラッシュ!」
「ゴブーー!!」
光苔という薄暗い地下に一瞬だけ太陽の光が差し込んだ。後衛ゴブリン達はたまらず攻撃を放ったが、全て外れた。前衛ゴブリン達は目を抑えうずくまっている。このチャンスを逃せば勝ち目が消える!
「うおおおお!!」
俺は奇声を上げながら魔法ゴブリンに突っ込んだ。多くのゴブリンを踏みつけながらの不細工な走法だったがもはや誰も俺を止められない。魔法ゴブリンは魔法耐性が他のゴブリンより高いのかフラッシュの効果が限定的だった。彼の狙いをマックスから俺に移すためにも俺は更に声を張り上げた。
俺、マックス、俺、マックスと頭を激しく動かして狙いを定めようとする魔法ゴブリン。そして近くに居る俺の方が危険と判断して、俺にファイアボールを撃ってきた。この距離で回避は不可能だ。そしてファイアボールの直撃が俺に当たり周りを巻き込んで大爆発した。
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