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138 威力偵察 北の砦

ジェスは名前被りだったのでジェス→フリゾフに変更しました。

 三時間ほど北上すると北の砦が視界に入る。昼前の到着には数を減らす事で機敏になれたのが大きいと錯覚する。俺のペースに二人が追随出来るのがおかしい。フリゾフは俺の横で息も絶え絶えで四つん這いになっている。アドリアン・キルケガルドの仇を討つ一心で肉体の限界を凌駕している。ラッセはろくに汗もかかず、まだ余裕がありそうだ。ラッセほどの実力者ならアドリアンの代理で決闘を受けたり、俺が止めを刺す瞬間に割り込めた。となると実力では俺に迫るラッセは主君たるアドリアンの死を容認した。少なくても表向きの命令や仇討ちのために今回参加したのでない。


「包囲されている。だが少し薄いか?」


 軍事に詳しくは無いが、包囲を成功させるのなら圧倒的多数が必要な事くらいは分かる。


「その様だ。これなら突破して合流も可能かもしれない」


 フリゾフが嬉しくない事を言う。


「敵の意図が見えない限り無茶は出来ない」


 身の奥底から湧き上がる「砦に向かえ」と言う衝動を無理やり抑え込む。ゲッシュの効果と思うが、ここまでの自己主張を感じたのは初めてだ。砦を目の前にしたからか、他からの干渉があったか。


「あれは先発部隊だ。ひひ、俺は知っているぞ。本隊が来るまで若手を鍛えているんだ」


 今まで黙っていたラッセが急に饒舌になる。


「知っているのか?」


「12年前に小規模な進攻があった。俺は、ひひ、あの砦に、ひひ」


 ラッセが壊れてきている?


「落ち着けラッセ。貴様は生き残ったのだ」


 何か知っていそうなフリゾフがラッセを宥める。


「となると本隊が来る前に進むしかないか」


「ひひ、そう、ひひ」


「早速突撃しますか?」


「まだだ。敵と味方はどう動く?」


 せめて情報収集くらいさせろ!


「ラッセが正しいのなら小規模な攻勢で守備兵を釣り出すかと」


「籠城から出て来るか?」


 下策じゃないか?


「包囲を解くのにオークを撤退に追い込む必要がある」


 援軍は来ないから時間を掛けたら死ぬか殺される未来が確定する。それなら犠牲を出そうとも攻めている部隊の数を減らして解囲を狙うしかない。


「となるとゴブリンが持っていた装備は?」


「ひひ、砦に帰れなかったのさ、ひひ」


 オークは人間を殺さずとも、砦から遠ざけるだけで砦の防衛戦力を減らせる。生き残って逃げた人間の兵は俺が殺した様なオーク分隊に狩らせる。ラッセが言った様に、丁度良い強さと数を持つ人間相手に教育している。ここで経験を積んだオークはこれから発生する多くの攻城戦で活躍出来るだろう。


「出る方より入る方が面倒になるとは思わなかった」


 俺の正直な感想だ。


「ここまで来て退けません」


「進め、進め、ひひ」


 人選は最悪。無理やり良い所探しをするのならルビーとリルから引き離せた事だけは良かった。


「挟み撃ちをする。ラッセ、敵はいつ動く?」


「ひひ……」


 正気を失っているような目でオークを睨むラッセ。しばらくして、俺を見る。


「一時間後に動きがありそうだ。ひひ、そう仲間を踏み潰した蹄の音が……」


 蹄? ワーグはオークが乗るには小さすぎるし蹄を持っていない。ルルブから選ぶのならバイコーンかスレイプニルか。どっちもオークなら扱えるが人間では扱え切れない軍馬だ。人間の持つ優秀な雌馬と掛け合わせると良い軍馬が産まれるので種馬としては人気が高い一面がある。


 ラッセの発言を信じて待つ事一時間。俄かにオーク軍の方から銅鑼と太鼓の音が聞こえだす。


「騎兵5、歩兵10か」


 騎兵の方は歩兵が追随出来る速さで砦をぐるりと回っている。走りながら騎兵が罵声を、歩兵が糞尿と思しき物を砦に投げこんでいる。


「ひひ、3周」


 オークが3周した辺りに守備兵が打って出るらしい。


「門が開く素振りが見えたら突っ込む! 遅れたら逃げろ!」


 この期に及んで甘い命令だと自覚はある。だが俺の『ゲッシュ』に付き合わせて二人を死地に連れて行く事を俺は良しとしない。


「心配無用。アッシュ様が死ぬ所を見届けるまでは死ねません!」


 フリゾフの発言は全然嬉しくない。だが俺にこう言える程度に関係は改善したか?


「ひひ、死、死、死なない、ひひ」


 ここまでの狂人だと自然と警戒するから特段何かする必要もない。


「わー! わー!」


「やー! やー!」


 砦から出て来た守備兵とオーク騎兵がぶつかる。


 口に出さないが、人間側が遊ばれている。


「行くぞ!」


 相手の油断は俺の好機。有効活用させて貰う!


「ウへへへへ!!」


 ラッセが大声で叫びながら突撃する。


「バレるだろうが!」


 オークが気付いていないところを奇襲して砦に入る計画が台無しだ。狂人の動きに注意は出来ても予測は出来ないと言う事か。


 予想外の南から3人が現れたのでオーク軍は一瞬混乱する。しかしすぐに立て直し、俺達の行く手を阻むように兵を展開しようとする。


「お、遅い、はぁはぁ……」


 フリゾフが死にそうな声で言う。オークが砦の人間を釣り出すために距離を開けて布陣していたことが幸いした。このペースなら間に合う。


「もう一息だ! 走れ!!」


 俺は挑発行為をしていたオーク歩兵を貫きながら叫ぶ。


 ラッセはオークも人間も巧妙に躱して砦に一番乗りを果たす。それを横目で確認しながらバイコーンに乗ったオークが振り下ろすハルバードを左の義手で掴む。そのまま一気にオークをバイコーンから引き摺り落とし止めを刺す。


「次は誰だ!?」


 俺の気迫にオークはビビるも退きはしない。ここで死ねばオーク社会で居場所が無くなる。


「うわぁ!」


「フリゾフ!」


 後方からの悲鳴を目をやると、左太ももに矢を受けたフリゾフが倒れていた。


 俺はこのままオークを牽制して砦に入るだけで助かる。フリゾフは救えない。


「くそ!」


 オークの放つ第二射が降り注ぐのを良い事に、俺はフリゾフの傍に駆け寄る。後が無い挑発部隊も屋の雨の中まで俺を追う勇気は無いみたいだ。


「何故来た?」


「気まぐれだ!」


 俺はフリゾフを左腕に抱え、砦の空いている門を目指す。


「捨てて行け!」


「黙っていろ、舌を噛む」


 出来ればオークには『跳躍』を見せたくなかったが、このまま出し惜しみをしては『ヴァンピール』由来のスキルを使わされる。


 閉じられる門を見て、オークの挑発部隊と迫りくるオークの別動隊は笑みを浮かべる。砦の人間は俺を見捨てたと判断したのだろう。その考えは恐らく正しい。


 ただ一つの間違いを除いて。砦の壁程度なら飛び越える事が出来る。


「この様な形で貴様の死を見たくなかった」


「俺は死なない! それにアドリアンの奴がこの程度で諦めるか?」


「貴様がアドリアン様を語るな! ……だがあの御方なら最後まで戦う」


「心配するな。俺は勝つ。こいつら全員よりアドリアンの方が強い」


 そう言いながら手始めにオークの歩兵の首を2つほど落とし、近くにいるバイコーンの膝関節を踏んで『跳躍』を発動してバイコーンの足をへし折る。暴れる落ちたバイコーンを他所に、『跳躍』で近づいた騎兵の頭を槍で貫く。騎兵を叩き落とし、無理やりバイコーンの手綱を握る。


「なんと!?」


 驚くフリゾフはもう何が起こっているのか分からないだろう。


「暴れろ!」


 俺は俺達を振り下ろそうとするバイコーンを自由に暴れさせる。その中で壁に近づくように多少誘導する事には成功する。そして十分に近づいたと判断して連続『跳躍』でバイコーンの背中から壁、そして壁からさらに上の壁に飛び移る。合流したオークの別動隊をあざ笑うかのように俺は壁の反対側に消える。


 砦の人間はこの展開に驚いている。


「チャンス!」


 俺は砦の司令官が何処に居るか知らない。衣服から候補を二人ほど発見するが無視する。


 俺には優先すべきことがある。フリゾフを抱えて一目散にとある場所に走る。


 そしてこれ以上の邪魔が入る前に井戸に銀貨を投げこむ。


「それは?」


 もはや前後不覚一歩手前のフリゾフが最後の力で問う。


「『ゲッシュ』関係は早めに処理するに限るだろう?」


 心の重荷が消えた感じがする。そして俺のストックスキルに『闇魔法』が追加される。同時刻に辺境伯の城では『闇魔法』の使い手がこの世のものとは思えない断末魔を上げて、黒い粘っこい液体を残して消滅したと後日知る事になる。


 幸い水場が近いからフリゾフに刺さっている矢を抜いて、傷口を水で洗う。


 そうしている内に砦の司令官と思える男が兵士を連れて近づく。


「誰の許可を得て水を使っているかぁ!」


 予想通りの発言ありがとう。これは『ゲッシュ』が残っていたら積んでいたかもしれない。


 さて、この無能をどう料理しようか?

これからもよろしくお願いします!

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