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136 威力偵察 オーク分隊

「うおおおおお!!」


 オーク分隊との戦いは俺の雄叫びで始まる。大声を張り上げないと恐怖で竦みそうだ。


 この世界の人間はオークをモンスターと認識している。南進と言う言葉を使っているが、ちょっと強くて数が多いゴブリンのスタンピード扱いだ。実際はけた違いに強く、数もゴブリンとは桁が二つほど違う。そしてモンスターなら殺す事に良心の呵責は無い。だが俺だけは知っている。ルルブの解説ではオークは人間、ドワーフ、そしてエルフと同じ人類種だ。オークのプレイヤーを作れるのに、そのオークがモンスターではTRPGのゲームバランスが保てない。


 ブラック企業で大変な日々を過ごした俺でも人を大量に殺すなんて事は経験していない。それどころかこの世界では人間同士の戦争で人が大量に死ぬ事は余り多くない。徴兵された兵士は士気が低いしすぐに壊乱する。戦う意志がある騎士と貴族は殺すより捕虜にした方が身代金を取れてお得だ。相手の命を奪う事を優先する殲滅戦争なんて20年に一回起こるかどうかの珍事だ。


 戦いは部下に任せて後ろで指揮に専念したい。しかしそれは無理だ。オークと部下の実力差は大きい。オーク一人に部下五人で当たれば互角に戦える。リルとルビーは未だレベル10未満なのでオーク相手には足手纏いだ。リルはレベル15くらいになれば一対一でオークに勝てる。ルビーも同じレベルなれば固定砲台として期待できる。オークは8人とワーグと呼ばれる巨大な狼が4頭。即ち、俺が10体殺さないと俺の部隊が全滅する。もはや恐怖で竦んでいる余裕すら無い!


「ニンゲン!」


「死ねぇ!」


 オークの見張りが叫ぶのと同時に槍を彼の喉に突き刺す。彼が叫ぶ前に殺せたが、俺の雄叫びと併せて俺に集中させたかった。ワーグ4頭が一目散に俺目掛けて走り出す。残りオークの大半は戦闘準備をしながら状況を見守る。小規模な遭遇戦とはいえ、戦力の逐次投入が悪手だと知っている。二人位考えなしに近寄ってくれたら楽だったのにと思いながら2頭目のワーグの首を斬り落とす。3頭目は首筋を義手で掴み「ボキッ」と首の骨を折る。モンスターと違って生物だから首の骨を折るのは意外と有効だ。


「ギャオ!」


 最後の一頭が俺の首目掛けて跳躍して来る。俺は半身をずらして右ひざを大地につける。狙いを失ったワーグにルビーのファイアボールがさく裂し、火達磨にながら後方に吹き飛ばされる。


「良くやった!」


「アッシュが3頭倒したおかげです」


「範囲魔法を頼む!」


 それだけルビーに伝えて俺はオークの密集地帯に走る。オークは魔法使いと言う切り札を切ったと考える。それと同時に魔法使いは脅威なので率先して排除する。オークがルビーを排除する際の直線上に俺がいる。


「キル セージ!」


「魔法使い狙いなのは分かっているんだ!」


 オーク5人が各々の武器を構えて走る。タックルで俺を弾き飛ばそうとするが、最初の一人にカウンターで槍を刺したら他の4人は慎重になる。ジェスが俺の左後ろに来た頃にはもう1人を倒し、3対1になっている。


「ジェス、一体任せる!」


「はっ!」


 ルビーの後ろに縮こまっている部下も参戦してくれたら一気に押し切れるのに惜しい。


「アッシュ、4番!」


 ルビーの詠唱が完了するまで敢えて時間稼ぎをする。そしてルビーの宣言を聞いて先ほどまで互角の戦いを演じていたオーク二人を倒す。ジェス達は何とか踏ん張っているが、勝てるかは分からない。だが作戦は次の段階に進んでいる。


 ルビーは固定砲台だ。そのために何処にどんな魔法を打ち込むのか前線に知らせないと連携が取れない。なので俺とルビーは10パターンほど予め取り決めている。「二人だけの暗号はずるい」とかリルが言っていたが、どういう意味か聞きそびれている。4番は残っているオークの後方に範囲魔法を放つパターンだ。一瞬距離を見誤ったと敵に錯覚させられるし、ジェス達を魔法で焼かないで済む。


 ドゴーンと爆音がし、高みの見物をしていたオーク二人が数歩前に押し出される。弱そうな方を『跳躍』が乗った槍で貫く。威力が高すぎたのかその衝撃で上半身と下半身が分かれる。オークの内臓と血が燃えている炎に飛び散り、部分的に火の勢いが増す。


「ユー ストロング」


「そこそこだ」


 お互い言葉が通じているか不明だが、雰囲気で何となく分かる。


 装備と強さから分隊長と思われるオークと数合打ち合う。強さはエリックと互角くらいのため、順当に俺の槍がオークの首を叩き落とす。ラディアンドなら準一級の戦力であるエリックが掃いて捨てるほど居る分隊長と互角なのは頭が痛い問題だ。その不利をひっくり返すための魔導鎧だが、オークが機動戦を選択したら魔導鎧の足では置物化する。戦争の素人考えで恐縮だが戦闘の範囲なら間違っていないと思う。辺境伯は単独でオークに勝つ何かを用意しているはずだ。だがオークと実際に戦った感想としてはとてもまともな方法で勝てるとは思えない。


「11番!」


 一瞬物思いに耽るも、ルビーの声で彼女の方に駆け出す。11番は「とにかく助けて」と言うシンプルなパターンだ。俺の解釈が多大に入るのでパターンとしては下の下だ。ルビーが指さしている先を見ると、最後のオークと遊んでいたジェス達のうち数人が大地に倒れている。今まさしくオークの斧が部下の一人の頭に振り下ろされそうだ。


「ノー!」


「世話が焼ける」


 俺がこんなに早く分隊長をやるとは考えられないオークの背中はがら空きだ。投げ槍で後ろから心臓を一突きで終わらせる。断末魔を上げて倒れるオークに近づき槍を引き抜く。


「なんで……」


「手が減る」


 俺が助けたことに困惑する部下にオークの死体を見る様にジェスチャーする。死体から首を回収し、可能なら追加情報も探す。こればかりは人海戦術が頼りだ。


「主君、もう一分隊がこちらに」


 戦いが終わるのを見計らってリルが姿を現す。


「他には?」


「確認出来ず」


 ルビーの4番の爆発音を聞ける範囲に居たのは一分隊だけか。少ない事を喜ぶべきか。


「俺は迫っている分隊をやる。ジェスに回収は任せる。リルは案内だ」


 部下数人の抗議を無視し俺は次の分隊に狙いを定める。防衛に回ったら俺とリル以外は確実に死ぬ。


 果たして夕飯に間に合うか。それと今晩の献立の肉シチューを食えるか。そっちの方が大きな問題だ。

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