133 ドワーフ街 続ヘンリーと密会 下
今回で一区切りです。
密会のネタが尽きず、更に数万文字ほど書けそうです。
会話劇だけだと動きが無いので重要案件のみで〆ます。
ドン、と机の上にA級ダンジョンコアを置く。『アイテムボックス』から取り出すと同時に濃厚な魔力がコアから溢れ出す。いつの間にか砕けた部分が修復されている。自己修復能力があるのは知っていたが『アイテムボックス』の中でもそれが可能なのは驚く。
「これはまさしくA級ダンジョンコアじゃ! 一体いつの間に手に入れたのじゃ?」
A級ダンジョンコアから作られる魔導炉の整備経験があるガングフォールが一発でその正体に気付く。ガングフォール以外に見せたら気付かれない可能性が高かったと思う。
エルフとドワーフを含めた人類が有史以来手に入れたA級ダンジョンコアの数は10個と言われている。500年前に勇者が世界を救う結界のために手に入れた8つが最後だ。その入手方法については諸説あるが、A級ダンジョンを8つ攻略した可能性は低い。勇者が俺みたいにスキルを付与出来て、尚且つ俺と違って回数無限なら可能かもしれない。ただし勇者召喚から邪神との最終決戦までの期間を考えると、世界を滅ぼせる神話級モンスターが跋扈する地下100階のダンジョンを半月に1つ攻略しないとギリギリ間に合わない。
「俺が目覚めた時に頭の横にあった」
「それは、その、どうなんでしょう?」
ベルファが何とも言えない表情で左頬をかく。D級ダンジョンコアですら入手には困難が伴うので、俺の入手方法には有難味が足りない。
「クロードの限界位階は8だったから手っ取り早くテコ入れされたと考えている」
「確かにそれは低すぎます。理由としては納得できます」
ヘンリーが頷く。
位階15が過去の聖戦士の限界位階の下限だ。クロードの継母が率いる邪教徒達がクロードの孤児院行きを強硬手段で止めなかったのはこの限界位階が関係している。クロードが気付けばブチ切れ不可避だが、聖戦士候補にすらなれないからと盛大に舐めプレイをされたのだ。成人するまで生かしたのは万が一聖戦士になる可能性を心配しての事だろう。成人式で風の大精霊由来のスキルを得なかったから生贄に捧げても大丈夫と判断された。
「ダンジョンコアを砕くのに拘ったのはそのためか!」
カーツが膝を叩いて全てに合点がいった様に言う。単純に計算すれば8+5+2で位階15に到達する。実際は『限界LVアップ』のおかげで位階23まで上がるが、そこまで正直に話す必要は無い。
「流石アッシュ。聖戦士になるために試練に挑んでいたのか。資格を得た一戦で一緒に戦えたのは私の人生で語り継ぐべき功績だ」
マックスが勝手に美談に仕立てて涙ぐむ。違うからな? だが勝手に良い方に誤解しているのに口を挟む気は無い。
「で、そいつを献上なりすれば貴族共は黙るのか?」
カーツがダンジョンコアで盛り上がっていた皆に水を差す。
「コームグラスの名に誓って私の父が何とかします」
「親父頼りかよ!?」
「物が物だけに。私なんて本来はそれを拝む事すら許されません」
「そんだけのものか? しょせんは魔導鎧の動力だぞ?」
ヘンリーがカーツの物言いに言葉を失う。ヘンリーには分かっていない人に分かる様に上手く説明するなり誤魔化すなりするスキルが必要みたいだ。俺を安心させるためだったのかもしれないが、父親である王国宰相まで持ち出したので事態が余計混乱している。
「こいつがあれば失われた4つの核の一つを再建できるかもしれない。最近凶暴性が増しているモンスターが多少大人しくなり、邪教徒の活動も下火になるだろう」
「マジかよ!?」
こう言えばカーツでもこれの価値を一発で理解できる。
「魔導鎧を失った伯爵家の血筋は続いているはずだ。男爵家の方はどうなっていたか知らない」
俺はそこでマックスに話題を振る。
「王国では伯爵家の再契約に向けて動きがある。だがA級ダンジョンコアがどうにもならず暗礁に乗り上げていた」
なら俺のダンジョンコアはその分付加価値がありそうだ。
「はっ! そう言う政治の話は後でやれ。これでアッシュを殺さなくて良いのなら、仲間を殺した辺境伯に集中できる!」
「待ってください! デグラスで兵を募ってもラディアンドは落とせませんよ?」
「傭兵は舐められたら終わりだ! 死ぬなら前のめりだ!!」
カーツは「邪教徒に負けた傭兵団」と言う風聞が広まるのを恐れている。そのためなら勝ち目が薄い辺境伯軍と殺し合う事すら苦ではない。
「儂もカーツと同じ気持ちじゃが……」
ドワーフはモーリックの件があるからカーツなら彼らを乗せやすい。
「俺たちは辺境伯に大なり小なり煮え湯を飲まされている。だが、今辺境伯を排除する事は出来ない!」
「何でだよ! キスケは命の恩人だろうが!」
「オークが南進している」
「「……」」
その発言に全員が黙る。
「流民街で拷問されて廃人となったハーフオークの密偵と遭遇した。そいつと接触したら辺境伯の兵に包囲された」
クロードとハーフオークの指の折れ方が同じだったために興味が湧いた事から説明する。
「密偵だけだと証拠には弱えぞ」
「確かにほぼ無価値だ。だが大事なのは『王家への報告義務』の方だ」
俺はカーツに同意する。王家が気にするのは情報が上がった有無のみ。オークが南進するのなら援軍をラディアンド地方に派遣する必要がある。準備だけで数か月。現地集合としてもそれから一月は掛かる。即ち、今から全速力で動いても援軍の大半は間に合わない。
辺境伯は単独でオークに勝つ算段がある。そしてそれが本当に有効なら、それを持って王国に剣を向ける事が可能になる。辺境伯家の過去を考えればほぼ確実に独立を宣言する。そうなったら王国はデグラス救援のために大規模な内戦に突入する。それを望む勢力は一定数存在するだろうが、俺しか知らない世界滅亡を回避するために人間同士の内輪もめは回避したい。
「報告は来ていません。それどころかデグラスの城爵にも来ていません」
ヘンリーがサラッと流したが、城爵の権限は宰相府が剥奪済みで、コームグラス家から派遣された代官が実務を仕切っている。宰相府の権限を逸脱しているが、城爵を空位になった子爵家の領地に封権する条件で手打ちに追い込んだ。中央貴族の道を閉ざされた城爵は不満だろうが、殿下への度重なる失態で陞爵の前に首が飛ぶ可能性が高いので、宰相府の提案は渡りに船だった。
「黒に見えたら黒じゃ。もう良いじゃろう」
ガングフォールが吐き捨てる。
「オーク南進の可能性があるだけで辺境伯の更迭は不可能か」
「それどころかそれを指摘する事で辺境伯の叛意が固まる可能性すらあります」
「ここまで後手に回るとは腹立たしい」
「はい。しかしアッシュの情報には値千金の価値があります」
マックスとヘンリーが今後の策を話し合う。王家に取っては「必殺の更迭宣言からカウンターのオーク南進報告」を食らうのが最悪だ。王家の即死を回避しても、ラディアンド地方の情勢は辺境伯に圧倒的有利のままだ。これ以上は俺が考える事ではない。
そしてこの日の密会はお開きとなった。
次の日、俺がラディアンドに戻るために『アイテムボックス』に食糧を詰め込む作業をしている最中にベルファが駆け寄る。
「アッシュさん、大変です!」
「どうした?」
それはまさしく凶報。
ラディアンド辺境伯からユーグリン王国第4王子マクシミリアン宛にオーク南進を知らせる手紙が今朝届けられた。
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