表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
132/416

132 ドワーフ街 続ヘンリーと密会 中

明日の投下でこの章が終わるはずです。

「聖戦士としてアッシュさんが本来の家督を継承して事態は好転すると言う事ですか?」


「そうだ。これであの男を遠ざける事が出来る」


 ベルファの問いにマックスが答える。最後の方は俺の腹違いの弟の事だろう。


「悪いがそれほど簡単にはいかない」


「だろうなぁ。最初会った時に話していればダンジョン攻略なんざやる事無かったぜ」


 勝手に決定事項になっては困る。カーツが指摘した通り、話がこれで済むのならマックスと会ったその日に言えば良かった。


「問題は継母にある」


「聖戦士ならまだしも男爵家の当主代理の物言いなんて無視するだけです」


 ヘンリーが宮廷力学の観点から説明する。マックスも黙って頷く。


 聖戦士は王に準ずる扱いを受けるため、宰相が率いる王政府の頭を飛び越えて行動できる。ただしその特権は何処まで行っても個人単位なので出来る事はたかが知れている。王が出席しない式典で一番良い席に座れる程度だ。それでも聖戦士と領地が結びつくと厄介になる。だから初代国王が聖戦士の5/8を男爵規模の領地に封じた。残り3人は1人が王家で2人が伯爵家になっている。伯爵家の1つは正室の姉の息子が初代伯爵となっているので王家とは血が濃い関係にある。


 欠けた結界の3/4は男爵家だ。クロードの実家も実質ロストと考えるのなら4/5は消滅した。結界の維持と人間国家のかじ取りのバランスは初代国王が思ったより難しいものだったのかもしれない。唯一の例外は100年ほど前に伯爵だった聖戦士が南方戦線で帝国の永遠帝と死闘を繰り広げた結果として魔導炉を砕かれた。不破壊属性を持つA級魔導炉をどうやって砕いたのかは分からないが、その時の爆発は北海道に匹敵する面積を死の大地に変えた。双方合計で軍人が4万人、近隣に住んでいた非軍人60万人が文字通り各種装備と建物ごと蒸発した。爆心地に居た永遠帝だけは無傷だったらしいが、彼も単騎で戦争を継続する気が失せたのか、破られる事に定評がある和平条約が結ばれた。


「まどろっこしいぞ! ドワーフならスパッと言わんか!」


 痺れを切らしたガングフォールが問題の本質を言えと迫る。


「ふぅ、分かった。良く聞いてくれ。クロードの継母は邪教徒だ」


 部屋がシンと信じまる。ガングフォールですら酒を飲む手が止まる。


「し、証拠は?」


「クロードの記憶のみだ。だが邪教徒の狙いが風の魔導炉なら、ゲイルリーフに大規模な儀式用魔法陣があるだろう。宰相府で調査とかしていないのか?」


 この事態が政治的にどれだけ不味いか理解しているヘンリーが最初に口を開く。それに合わせて俺は探りを入れる。マックスの反応から俺の腹違いの弟を嫌っているのは間違いない。追い落とすために領地に密偵を放っているはず。何も出ないのならクロードの記憶が間違……うっ、急に激しい頭痛が!


「それは……」


「あそこの調査結果は綺麗だ。不自然なほどに綺麗だ。どうやらその理由の一端がやっと判明したみたいだ」


 言い淀むヘンリーを無視してマックスが話す。どうやら調査結果にかなりお冠だったらしい。ブラック企業時代に大枚を叩いたマーケットリサーチと現実の結果が合わず部署の人間全員で頭を抱えたのを思い出す。


「温いな。男爵領が綺麗なわけ無いだろう!?」


 カーツが吐き捨てる様に言う。


「クロードの父は魔導鎧を維持する金が無くてかなり無茶な金策をやっていた。継母の出所不明の結納金は財政の救世主だったのは覚えている」


「常套手段だな。俺の村に寄生した邪教徒も同じ手口を使いやがった」


「それでどうなった?」


「規定通りに邪教徒と3族までの人間は全員火炙りさ。大人になったら一緒に傭兵として一山当てようと約束した従兄が眼前で焼かれた光景がまだ目にこびり付いているぜ」


 そう言いながらカーツは大ジョッキ一杯の酒を一気に飲み干す。


 邪教徒は3族まで例外なく殺害するのは王国のみならず帝国、エルフ、そしてドワーフでも共通だ。そして継母を基点とするのなら1親等であるクロードも当然処される。


「ど、どうしましょう?」


 何をどうしたらよいのか分からないベルファが呟く。


「問題無い」


 マックスが自信満々に宣言する。俺を含めた全員が胡乱気にマックスを見る。


「重ねて言う、問題無い。だからヘンリー、何とかしろ!」


「「はぁ!?」」


 ブラック企業時代に締め切りが一か月前の案件を上司の無茶ぶりで処理させられた時に匹敵する無茶ぶりだ! ヘンリーがこの問題を軟着陸出来れば来世以降にブラック企業に就職してもやっていけそうだ。


「流石に無茶ぶりが過ぎます。まあ私なら余裕ですけど」


「「えっ!?」」


 おい! なんでマックスが一番驚いているんだ!?


「そ、そうか。流石はヘンリー」


「幼少の頃から慣れていますから」


「ええい! 二人の世界に入るな。説明せんか!」


 子供時代のあれやこれや話し出した二人を無理やり主題に戻すガングフォール。


「アッシュはクロードの祖母の養子になる手続きが取られています。王政府はそれを認めました」


「ああ、どうなるんだ?」


 ついていけないカーツが白旗を上げる。


「族滅対象を決める際、その継母の息子では無く義弟として処理されます」


「義弟は賊滅対象に含めるかは微妙な所じゃな。安全のために殺す事が多いがな」


 ガングフォールが安心できるのかできないのか微妙な解説をする。


「最悪な事に気付いた。俺の子供はセーフか?」


「はい。ここまでの説明通りに事が進めば次代の風の聖戦士は綺麗です」


 ヘンリーが断言する。


 俺は子供を作ったら大精霊に用済みとして処理されるのを恐れていたが、どうやら人間の手で処理される段取りが既にできているみたいだ。


「子供が出来るまで処分が保留って奴だな! 王国中の綺麗どころ相手に腰を振れるぞ!」


 カーツが笑いながら言う。俺はベルファを見ない様に努力する。


「これはあくまで王国と聖戦士双方が妥協できる最低ラインです。それにクロードの祖母は邪教徒の事を知っていました。助からないのなら自分の養子にする理由がありません。彼女は確実に勝算あって行動しました」


 そうなのか!?


「それにこれは同時にマックス様の願いを叶える事になります」


「素晴らしい!」


 マックスが手放しで喜ぶ。


「邪教徒として処刑すべきはクロードの腹違いの弟です」


 継母が処刑されるのなら継母が邪教徒かあえて調べないのか。と言うかマックスはどれだけ俺の腹違いの弟を殺したいんだ?


「見事じゃ! 少なくてもドワーフは叔父を族滅には含まん!」


「凄いです! ありがとうございます、ヘンリー様!」


 ガングフォールとベルファが喜び、マックスとカーツも首を縦に振っている。


「とは言いましたが、ここら辺は派閥力学で色々と変わります。陛下が即決即断出来る理由があれば私の絵図通りに行きます」


「私がち……陛下に頼もう」


「儂も出来の良い剣を添えて一筆書くぞ!」


「二人とも、ありがとう」


 二人の行動に思わず涙ぐむ。


「だが足りなくね? アッシュの功績がねえ」


「それが一番の問題です。こう何かありませんか?」


 マックスがヘンリーに無茶ぶりし、ヘンリーが俺に無茶ぶりする。


「あの『アイテムボックス』はどうでしょう?」


 ベルファが控えめに言うが、ヘンリーは首を横に振る。『アイテムボックス』は有用だが献上出来ない。他の貴族が見るだけで納得するパフォーマンスが求められている。


「ベルファ、ナイスだ! ベルファのおかげで『アイテムボックス』にあれが入っているのを思い出した」


 そう、あれがあるじゃないか!


 そして俺はそれを取り出す。それが事態を更なる混迷に陥れるとは俺にも予想できなかった。



応援よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ