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130 ドワーフ街 ヘンリーと密会 下

ここで今章が終わるはずでしたが、終了までにもう数話必要になりました!

「クロードを殺した衛兵は邪教徒だ。そしてクロードは腹を裂かれ大穴に落とされた」


「衛兵に邪教徒が紛れ込んでいるなんて!」


「衛兵程度で驚くなヘンリー。邪教徒は辺境伯家に深く食い込んでいる」


 衛兵の仕事は治安維持であり、邪教徒の積極的な討伐は職掌に含まれている。


「女の方も驚いていねえな?」


「私を殺すために派遣された追っ手の騎士が邪教徒の件を否定しませんでしたので」


 流石にカーツは良く周りを見ている。


 一騎打ちの件は話題がそれるので後で話す事になり、俺の話を続ける。


「大穴の深さはデグラスの城壁から地面くらいの長さがある。クロードが健康でも即死だろう」


「ドワーフでもちときつそうじゃ」


「大穴の底に落ちたクロードは死んだ」


「そこまでなら私とカーツの調査で凡そ分かりました」


「だがクロードは殺されたんじゃない。邪神に捧げられたんだ」


 自然死ならそのまま死体が転がるだけで済む。捧げられた事により、死んだモーリックがレブナント化したのと似た事態が発生した。


「ではクロードさんの魂は!?」


 ベルファが両眼を見開いて言う。


「恐らく邪神に食われた。そして残された抜け殻は凶悪なモンスターになった。いや、なりかけた」


「てことは、アッシュの体はモンスターなのか!?」


「そんな事はありません! ちゃんと息をしています!」


 ベルファがカーツの指摘に声を荒げる。


「落ち着けカーツ。キスケが聖水を飲ましても大丈夫だったし、人間として治療して治ったんだ」


 マックスが捕捉する。前回は大丈夫だったが、今の『ダンピール』レベルで聖水を飲んだらどうなるか少し心配だ。俺の体は回復薬と回復魔法の効果を受けるから聖水も大丈夫と思いたい。


「とにかく、クロードの死体はヴァンパイア化する過程で完全に修復された」


「モンスター化にそんな効果があったんですね。それより、人は本当にモンスター化するんですか?」


 ヘンリーが無自覚にベルファの地雷を踏みぬく。


「辺境伯は人為的にそれを引き起こしている。そこのベルファの兄モーリックはその実験の犠牲者だ」


「許せん暴挙じゃ」


 鎮まり帰る部屋にガングフォールの怒りの言葉が木霊する。


「証拠をその目で見たいか? 辛いならベルファは別室で……」


 この雰囲気では脱線止む無し。それにマックスがここに居るのがちょうど良い。


「いえ、お兄の最後の姿は良く見られなかったので見ます」


 全員が見ると言うので、ベルファがテーブルの物を退けている間にモーリック救出から流民街脱出までの流れをかいつまんで話す。


「放火で死体偽装とかやるじゃねえか! やっぱ俺の傭兵団に来いよ」


「何を言っているのです。死体があったから追撃の手がその程度で済んだのです。その行動はリスクが大きすぎます」


 カーツとヘンリーの評価が完全に分かれる。


「これがモーリックだったレブナントだ」


 適当に聞き流し、モーリックだったものをテーブルに出す。


「お兄!」


「おおモーリック! そんな姿になってまでも儂は分かるぞ! さぞ無念であったろう」


 ガングフォールとベルファはドワーフの神に祈る。カーツとヘンリーは無遠慮に死骸を漁る。


「マックス頼めるか?」


「いつでもいける」


 モンスター化したモーリックの死骸は弔えない。モンスター処分用の業火で焼くか外に捨てるか。だがガングフォールとベルファの心情的にはそれはやりたくない。だがマックスの『天魔法』にはモンスターを砂に変える『ホーリーライト』と言う魔法がある。その魔法なら綺麗に処分出来る。それに俺に影響を及ぼすのなら聖水も危険だと分かる。


「祈りと調査は良いか? 良いのならマックスの『ホーリーライト』でモーリックを地に返す」


「そんな事が!? お願いしますマックス様」


「そうか! その手があったか。儂からも頼む」


「私はこのような悪事を見過ごせません。私の魔法が痛む心を少しでも和らげることが出来るのなら」


 マックスの魔法の光がモーリックを覆い包み、その体はみるみるうちに崩れ去る。その光景に心の底から感謝するベルファを横に、ヘンリーはサンプル回収に勤しむ。テーブルに積み上げられている砂は俺とモーリックでつい先ほどからになった酒樽に移す。


 部屋の掃除とベルファが落ち着くのを待ち、俺は話を再開する。


「クロードの肉体が修復されたまでは言ったな。そしてヴァンパイアが目覚める前に新しい人間の魂を入れる事で俺は誕生した」


「そんな事を出来る存在は神では?」


 ヘンリーが心配そうにいう。


「俺の発動した秩序の神由来の『ディヴァイン・ウィッシュ』の願いを神が汲んでくれた結果だとは思うが、ちょっとやり口が秩序の神らしくない」


「つうか、なんでそんなの持ってんだよ? それに普通は金とか頼むだろうが!」


「はは、俺もそのつもりだった。だがちょっとした事故に巻き込まれて『死にたくない』と願ったらこの身体で目覚めた」


 流石に異世界から来たとか、近い将来に世界が滅びるとかは話せない。勇者の件は話せるかもしれないが、王族のマックスすら知らない秘匿情報だろうから扱いが難しい。


「なるほど。神のお力でアッシュの体は人間のままなのか。分かる」


 マックスは一人で納得する。彼だけは俺が話さずとも知っている。


「マックス様がそう言うのなら。しかしアッシュ、君は一体どんな状態になっているんです?」


「聞いて驚けよ? 種族人間で職業『ダンピール』持ちだ。『ダンピール』のレベルが上がるとモーリックと同じようにモンスター化する」


 モーリックは一線を越えた。俺はその同じ一線の上に立っている。


「そんな! 嘘だと言ってください」


 ベルファが涙ぐんで俺の胸に飛び込んでくる。


「大丈夫だ。まだ結構余裕がある」


 嘘だが、本来は手動でスキルポイントを振らない限り俺の『ダンピール』レベルは上がらない。あの時勝手に上がったのは神の領域に居たのが大きいと思う。


「ベルファ君、大丈夫だ。アッシュはモンスターになる事はない」


「どうしてそんな事が言えるんです!」


 珍しくベルファがマックスに噛みつく。


「分かるさ。その事も話してくれるんだろう?」


 そんな期待に満ちた目で見られたら話さない訳にはいかない。


「ちょっと重い話だからぼかそうかと思ったんだがな?」


「何女々しい事を言ってやがる! ゲロっちまえよ?」


「そうですよ。もはや覚悟は出来ています」


「わかったよ。良く聞け。俺が人間の内に子供を作らなければ……世界は滅びる」


「おぃぃぃ! ここで冗談とは良い度胸だな!」


「少し失望しました」


 カーツとヘンリーは好き勝手言ってくれる。俺だって他人が言ったら信じない自信がある。だから俺はマックスを見る。


「アッシュの発言は本当だ。私がアッシュに巡り合ったのは世界の滅亡を回避したい大精霊の導きだ」


「「はぁ!?」」


 ハモるカーツとヘンリー。


「以前アッシュから受けた相談の事を考えると、強ち嘘とも言えんのう」


「「ええ~!?」」


 ガングフォールの追い打ちに今度は二人にベルファまで加わって驚く。


 大精霊の導きとは考えもしなかったが、前世の俺と比べて良縁に恵まれている。彼らに仔細を話す事に抵抗は無い。ただクロードの過去が暗い影を落とす。仔細を話せばこの5人は俺を殺さなくてはいけない。今回の密会でどうにかなる事は無いだろうが、俺の生存がこの5人への死刑宣告となる。


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