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013 廃寺院 地下4階

「後一時間ほどしたら動こう」


 今にも飛び出したい俺をマックスが制止する。


「何故?」


「昨日からあいつらの行動を監視しているが、もうしばらくしたらあの大きいゴブリンは横になる。それに合わせてゴブリンの見張りが後退する。狙うならそこだ」


「分かった」


 マックスの言う事が本当か分からないし、昨日と同じになるかも賭けだ。ブラック企業で飛び入り営業した時に数時間待たされた上で就業時間と言う事で誰にも会えずに追い返された日々に比べたら一時間待つ事は大した苦痛ではない。


「それはそうと、そろそろ名前を教えてくれても良いんじゃないか?」


「短い付き合いなのにか? まあ良い。俺はアッシュだ」


「へぇ、そうなんだ。でさ、その首輪は何なんだい? ラディアンドだと偶に君のような少年少女がしているのを見たんだ」


 マックスはやはりラディアンド近隣の人間では無いか。


「これは孤児の識別用の首輪だ。奴隷がしている奴はこうクルクル回らないだろう?」


「孤児に首輪ねぇ」


 マックスは狭い檻の中で首を器用に捻りながら質問を投げた。


「取り外せないの?」


「破壊しないと無理だ」


「……」


 押し黙るマックスを見て、彼が初めて不愉快な顔をしているのが見て取れた。


「無断で壊すと、壊した奴が重罪になる」


「なんだって!?」


 驚きの声を上げるマックス。ゴブリンどもが何匹かこっちを見たが、すぐに興味を失ったのか元の作業に戻った。


「大声を出すな。ゴブリンどもが反応する」


「済まない。だがそんな事は許されるのか?」


 ゴブリンなど眼中に無く、首輪の話を続けるマックス。


「領主権の範疇じゃないか……」


 クロードの記憶から言葉を引っ張り出す。だがマックスに指摘されて初めて違和感を感じた。


「奴隷か罪人でも無いのに取り外せない枷を嵌めるのは王国司法の理念に反する」


 マックスが断言する。


「だとしても、何か出来るわけじゃないだろう?」


 ああ、そうか。なんとなく分かった。クロードは事態を好転させられないから首輪の事を諦めていた。成人して取り外せば問題無いと自分に言い聞かせていた。


「私が……」


 何かを言いかけて、今度はマックスが黙り込んだ。


「済まない、アッシュの言う通りだ。私の出来るのは君の首輪を外すくらいだ」


「まぁ、無理はするな」


 善意からの発言なのだろうが、俺の首輪を外してマックスが罪に問われるのは忍びない。だが流民となって司法の外に捨てられた俺の首輪を外すと罪に問われるのだろうか? 駄目だ、クロードの記憶には流民についての情報がほとんどないから俺では分からない。


「しかし孤児がなんでここに? お使いの途中で攫われたのか?」


 さて、言うべきか? そもそも信じるだろうか。……だがマックスの性根を知るにはお互い檻に囚われた今が最善だ。外で出会えば口すらきいてくれないはずだ。


「俺は処刑と言うか処分されたんだ」


「なっ!?」


「先週成人式があったのは知っているよな? 成人して冒険者になろうと思っていたんだが、孤児院の院長を殺害したとして流民落ちの上でこの廃寺院にあるごみ捨ての大穴に捨てられたんだ。地下10階はあるから、普通に考えたら即死するだろうな」


「アッシュは殺したのか?」


「さてな? 俺が殺していないと言っても証拠は何も無い。流民となれば発言権すらない」


「私が聞いているのは君がやったか、だ。世間などどうでも良い」


 マックスが俺をまっすぐ見る。


「やっていない」


 ついつい彼に気押されて答えてしまった。これも俺の『心』のステータスが低いからか?


「そうか! なら信じよう」


「簡単に信じるな! 詐欺師に騙されるぞ」


「そんな気遣いが出来るのならアッシュは殺していない。私には分かる」


「お人よしが。だが俺の件には首を突っ込むな。俺が院長の死体を発見したとほぼ同時に衛兵が部屋に踏み込んできた。俺か院長、または両方をどうしても殺したい理由がある奴が裏に居た。藪をつついて蛇を出したくはない」


 マックスに釘を刺しておく。ここまで言って勝手に首を突っ込めば自業自得だ。


 俺を殺したいのは邪教徒だ。ただそのために院長を殺すかと言うと疑問だ。院長は様々な所から恨みを買っていた。誰が殺しても不思議じゃない。あの部屋に隠れていたリルですら怪しい。俺の勘だが少なくてもリルは犯行を目撃している。リルに話を聞ければもう少し真相が分かるかもしれない。


「院長は分かるけど、アッシュもか。ますます興味が湧いたよ」


 どうやらバカに付ける薬は無いみたいだ。だが侮れない。普通なら院長狙いだと納得するが、俺の言葉尻から俺狙いの可能性を本気で見出したか。


「しかし変だな」


 アッシュが俺の首輪を凝視しながら言う。


「何か気になる事があるのか?」


「アッシュは流民で処分されたんだ。なら何故首輪を取らなかった? 取り外すのがそんなに難しいのか?」


「鍛冶屋でなくても簡単に壊せるらしいぞ。首輪にそんな価値が無いから気にしなかったんじゃないか?」


「それは無いと思う。その首輪は孤児の身分を保障する物だ。こう言っては悪いけど、君の命以上に価値がある」


 確かにマックスの言う事にも一理あるか? ただ現場を知らない理想論にも聞こえる。貴族が自分の身元を保障する時に使うシグネット・リングならまだしも、首輪が数個行方不明になった所で誰が気にするものか。


「そう言う事は脱出してから考えよう」


 そろそろマックスが言っていた時間だ。話し込んで脱出チャンスを失うわけにはいかない。


「そうだな。ならここは予定通り私が檻を破壊するが、アッシュの縄は取れそうか?」


 マックスの縄は簡単に落ちた。アイテムポケットから物を取り出していたほどだ。見た目だけ縄を打たれた形でチャンスを待っていたみたいだ。


「当然」


 俺はマックスとの会話中、ゴブリンから回収してアイテムボックスに入れていた錆びたナイフで縄を切っていた。名乗る直前に切れていたが、マックスの作戦に合わすためにあえて囚われているフリを継続していた。


「良し、ならここからは私に任せてくれ」


 マックスが詠唱を開始した。魔法は常に詠唱を伴う。それゆえに物理職に比べるとどうしても見劣りする。しかし詠唱がある分、その威力は10レベルは上の物理職に見劣りしない。予想外だった魔法使いならあの大きいゴブリンを必殺の魔法で倒す事も出来るはず。俺は密かにマックスの魔法に期待した。そしてそれは斜め上の方向で裏切られた。


「……今こそ顕現せよ、シャイニングセイヴァー!!」


 マックスの叫びと共に光の剣が彼の右腕の中にあった。よりによって勇者と王族しかつかえない天属性の魔法でマックスは檻を切り裂いた。

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