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129 ドワーフ街 ヘンリーと密会 中

「教えてください。私がマックス様の代わりに地獄を見ます」


 ヘンリーはマックスのために命を投げ出す事を選ぶ男だ。ならば彼の決意に答えなければ駄目だ。


「儂も覚悟はとうに出来ておる! アッシュは一族じゃからな!」


 俺をミスリルヴェルドの一員として扱うから氏族長として聞くのは当然と言うスタンスだ。


「分かった、話そう」


 腹を括り二人に事の真相を語り出す。


 コンコン。


「氏族長、マックス様と言う方が正門前に」


 しかし俺の言葉はベルファによって遮られる。


「マックス様が!? 一体どうして」


「ここに来られない様に予定を入れたはずじゃ」


 余りの想定外に驚くヘンリーとガングフォール。俺も驚いているが、マックスが来るのは予定調和だと納得している自分がいる。TRPGのセッションでは何故か最重要NPCが唐突に現れる事がある。俺の話がユーグリン王国の未来に大きな影響を与えるのだから、その王国の未来に大きく関わるマックスが選ばれるのは理解出来る。無論、マックスが突発的に来たのでは無く、神か大精霊の介入があったはずだ。


「俺たちの善意は逆効果か」


 神は人の心を理解できない。


 ヘンリーが多少抵抗したが、マックスを参加させる事がなし崩し的に決まる。マックスに内緒で密会している、とバレた時点でヘンリーにこれ以外の選択肢は無い。


 しばらく待っているとベルファがマックスとカーツを部屋に連れて来る。


「やあアッシュ。腕以外は元気そうだね」


「ボチボチだ。ちょっと森の熊さんに齧られた程度だから気にするな」


「私の方で『光魔法』の癒し手を手配できるが?」


「大丈夫だ。来月にはくっ付く手筈を整えて来た」


 マックスは俺がここに居るのを最初から知っていた体で話し出す。俺が居る事で驚いているカーツの方が普通だ。


「驚いたぜ! デグラスに来たのなら声くらい掛けやがれ!」


「本当はそこのベルファをこっちに送り返してすぐにラディアンドに行く予定だった。それが叶わない面倒事が山積みになってな」


「てめえはいつも面倒事が山積みだろうが」


「否定できないのが悲しい」


 この世界の主人公と言える男が居るのなら、それは5年後に召喚される勇者だ。なんでそんな勇者並みに面倒事が積み上がるのだろう。やはり、マックスの命を助けた事で何か長編キャンペーンのフラグが立ったと考えるべきだろうか?


「マックス様、大事な社交の仕事があったはずです」


 ヘンリーがマックスを厳しく問い詰める。マックスがここに居るのは仕方が無いが、社交の仕事に穴を開けたのならそれは問題だ。


「『天の大精霊』から天啓があった。『アッシュの真実が王国の未来を変える』と」


 全員が俺を見る。


 王国において天の大精霊が語り掛けるのは王族のみと決まっている。そしてその天啓は他の仕事を全て捨ててでも優先しないといけない。マックスはダンジョン攻略前から天啓を得られたはず。それなのに今天啓を得たと言う事は、天の大精霊が俺を今まで認識していなかったのだろう。冬至祭で祈った事は失敗だったか?


「だからと言ってここに来るか?」


 天啓は場所まで指定していない。それなのに一見天啓とは最も遠いドワーフ氏族長の家に突撃してきた。


「ヘンリーがガングフォールに呼ばれたのは知っていたからな。マックスのただならぬ様子からここだと俺が当たりを付けたのさ」


「私もここに来るまで魔導鎧絡みの話だと思ってカーツには行き先を伝えていました」


 密会が露見しない様に取った措置が悉く足を引っ張る。


「仕方が無い。だが俺が語る事を知れば不幸になるぞ。覚悟はあるか?」


「当然」


「不幸ほど金になるものは無い! 聞くに決まっているだろう?」


「勿論です」


 二人の後にベルファまで聞くと言い出す。


「ベルファは別に……」


「ドワーフの女はしぶといぞ? ベルファが先祖に誓って公言しないのなら儂は反対できん」


 ガングフォールまで敵に回っては白旗を上げるしかない。


「さて何処から話すか。マックスは俺の事をどれほどヘンリーから聞いている?」


「何も聞いていないが? ヘンリー」


 マックスがヘンリーを睨む。


「裏で調査を少し」


 蛇に睨まれた蛙の様に縮こまって答えるヘンリー。


「私に報告が来ていないが?」


「調査中でしたので」


「俺の傭兵団からキスケとダニクを出したんだ。二人が帰って来たら言うつもりだったのさ」


 カーツが助け船を出すが、二人の名を聞いてヘンリーの顔が青ざめる。相変わらずヘンリーは感情が顔に良く出る。


「その事ですが……」


「三人の特徴に合致する首無し死体が川に浮かんでいた」


 しどろもどろになって話が進まないのを見かねて俺が伝える。


「なんだと!? 信じねえぞ! あいつらを殺せる奴なんて……」


 机をダンっと叩いてカーツが否定する。


「すまん」


 俺が知っている事を伝えていればあるいは3人が死ぬ事は無かった。


「てめえがあいつらの死で謝る様な事があるのかよ!」


 怒るカーツを見てオロオロするベルファに我関せずを貫くガングフォール。


「ヘンリーにも同じように詰られた。なので真実を聞くかと聞いたまでだ」


「仲間の仇討ちとなれば本気で聞くしかねぇ!」


 そしてその仇討ちを成就させてやるわけにはいかない。カーツが必要な真実にたどり着いて自滅する前に話せるのは良かったと思おう。


「ならヘンリー、俺について何処まで知っているか語ってくれないか? マックスとガングフォールは知らないのだろう?」


「分かりました。ただ調査中の内容なので、そこはご了承ください。


 マックス様があの日に出会ったアッシュと言う名の孤児は存在しません。


 同日に孤児院の院長殺害の咎で処刑されたクロードと言う孤児がいます。


 ですがアッシュとクロードの身体的特徴が一致しません」


 マックス達が興味深そうにヘンリーの話を真剣に聞く。


「俺がクロードだとして、それだけでは無いだろう?」


 普通ならばこれで終わりだが、俺はラルフの件からカマを掛ける。


「そうですね。


 貴方がクロードと仮定するのなら、貴方の家名はゲイルリーフである可能性があります。


 ただ貴方の身柄については王政府の書類処理が何故か滞っているので確定は出来ていません」


「処理が滞っている? それは俺も知らなかった」


 クロードの祖母の置き土産か?


「八年以上未処理の重要案件があり、これだけ放置されたので王政府はその権限で強行出来る案件ではあります」


「……養子の話か?」


「ご存じでしたか」


「クロードの祖母が死ぬ前に決まらず流れたと思ったが?」


「申請は生前です。王家も生前に仮認可を出しています。寄親の伯爵の返事が無い状況です」


「仲悪かったからなぁ」


 俺は目を閉じ、クロードの記憶から祖母の怒りを思い出す。


「ですが貴方はクロードではありません。


その事をどうやって知ったんですか?」


「待て! どうしてアッシュがクロードじゃないと言える? 私の感覚ではアッシュはゲイルリーフの血筋だ!」


 マックスが堪らず声を上げる。


「それは……その……」


 マックスの迫力に気押されるヘンリー。あのカーツですら冷や汗をかいている。


「クロードは左足を砕かれまともに歩けない。


 クロードは両手の指が捻じ曲げられスプーンすら握れない。


 クロードは右目を潰されて、片目は何も見えない。


 そんな所か?」


「ええ! そうです!」


 俺の発言にヘンリーが勢いよく同意する。


「あの、ヒーラーとかは?」


「冒険者になって治療費を稼ぐつもりだったが、登録すらできずに処刑さ」


 ベルファが常識的な質問をするが、人間の日常は彼女が考えているほど善良では無い。


 沈黙が部屋を支配する。


「ではそろそろ語ろうか。邪神の生贄に捧げられたクロードがアッシュになってマックスに会ったその日の事を」


「「生贄!?」」


 全員がハモる。


 俺のトークスキルは余り高くない。でも折角だからおひねりの一つでも貰える程度に上手く話せるか試してみるか。

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