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127 ドワーフ街 屋敷の日々

 ガングフォールの屋敷に頓留して5日が経つ。最初の2日は死んだように寝ていた。ブラック企業時代に珍しく土日が休めたらそんな感じで爆睡していた。もしかして俺は前世みたいにオーバーワークしているのか? 転生したらそんな生活は絶対にしないと誓ったはず。今はそうしないと死ぬからセーフだと自分に言い聞かせる。3日目は鍛冶の腕が認められて一日中飲み明かし俺の部屋に間違って倒れ込んだ酔っ払いベルファの看病で潰れた。4日目には俺が手を出さなかった事をベルファになじられた。何故?


 事態が動いたのは4日目の夜だ。ラディアンドからガングフォールの槍が届けられた。俺の新しい義手が完成しヘンリーの魔導鎧の修理が終わったのも4日目だ。そして状況を一度整理するためにガングフォールがヘンリーを屋敷に呼ぶ事にした。その日のマックスはどうしても外せない仕事があるらしく出席は出来ない。なんで知っているかと言うと、ガングフォールが権力を使ってマックスが出席しないといけない用事をでっち上げたからだ。槍が間に合ったのは偶然で、魔導鎧の修理が終わる日から逆算した行動だ。


「凄いな。生卵を持ち上げられるほど精密な動作が出来るとは!」


 俺はヘンリーが来る前にガングフォールから義手の説明を受けている。モーリックの義手はロボットの腕と言う感じだったが、ガングフォールの義手はアンドロイドの腕みたいだ。パワーが少し上がり、精密動作の面では天と地ほどの差がある。更に人間用の装備を付けることが出来る。包帯を巻いて籠手と手袋をはめたら義手だとはパッと見て分からない。そして触ったら分かるし、耳をすませば駆動音が聞こえる。それでも腕の治療の宛が無ければこれで十分と思えるほどの性能をしている。


「そうじゃろう!」


「魔導炉も小さくなっているのか?」


「燃費の事を考えてD級魔導炉に変更しておいた。C級は魔導鎧一つを動かすものだ。腕一本ならD級にしても以前の腕より大幅に出力が上がっておる」


 見た目以上に内部で最適化をしたらしい。義手タイプの魔導鎧はコロンブスの卵なのに数日で特性を掴んで上位互換を作り出すとは、ガングフォール恐るべし。


「値段の面でもこっちの方が助かる」


 俺が以前使っていた魔導炉はC級ダンジョンを攻略して手に入るダンジョンコアを改造したものだ。金本位制のこの世界では天文学的な金額になるし、金満な貴族ですら一年に数騎購入できれば良い方だ。マックスを守るためと言う言い訳を使えたとはいえ、ヘンリーに魔導鎧を買い与えるヘンリーの父の財力は相当なものだ。そう言う常識的な財力を吹き飛ばして魔導鎧を量産しているのがラディアンドの辺境伯だ。


「D級のは安くて色々と実験に使うのに最適じゃからな! だがその義手の技術が広まるとD級に人気が出そうじゃな」


 そう言う問題が出て来るか。千切れた腕をくっつける『光魔法』の使い手は大都市で一人か二人だ。勿論治療には法外な値段を取る。俺の『プロトブレイバー』で簡単に3人までそのレベルに出来るので自覚が無かった。カーツの情報では欠損を治せるのは王国で二人だけだ。シーナが位階レベル10になれば三人目が誕生する。


「今から余分に買うべきか?」


「アッシュのためには在庫を取り置くから気にするな」


「それは助かる」


 義手の話をしているとヘンリーが到着したと知らせが来る。ガングフォールはヘンリーに修理した魔導鎧を見せると言って中座する。魔導鎧を見たヘンリーの驚く顔をみたいが、魔導鎧工房に行くと俺の存在が露見する可能性が上がる。大人しく待つとしよう。


「アッシュさん、軽く摘まめる物を用意しました」


「ありがとうベルファ。ここはどうしても酒精が強い物が多いからな」


 一人でどうやって時間を潰すか迷っていたらベルファが差し入れを持って来てくれる。俺は過度に飲酒しないから何でもアルコール漬けのドワーフ料理は少しきつい。それを知っているベルファが率先して俺の料理を作ってくれる。ガングフォールの屋敷に泊っているのに干し肉だけ齧る生活を回避出来て大助かりだ。


「では置いて行きますね」


「ああ」


 それだけ言って一度は発とうとしたベルファが立ち止まる。


「この話し合いが終わったらやはり出て行くのですか?」


「もう数日は調整で居るかもしれないが、俺の戦いはラディアンドにある」


「私が引き留めても?」


 ベルファの顔が俺の顔の真ん前に来る。


 ベルファがそう言うのなら言葉に甘えそうになる。ここで世界が終わるまで楽しく生きるのは決して悪くない。


「俺がラディアンドに行くのはベルファの未来のためでもある」


「えっ?」


「この身体が俺だけのものなら、ベルファの申し出は悪くない。だがここで逃げたとしても俺の宿命は追ってくる」


 俺だけを巻き込むなら良いが、ベルファとドワーフ氏族全てを巻き込みかねない。


「帰ってきますよね?」


「ガングフォールには特注の魔導鎧を造って貰う約束だ。だから必ずデグラスに帰って来る」


「……信じて待っていますね」


 ベルファが何かを決意した感じで言う。何か良い雰囲気になって言葉が続かない。こういう場合はどうすれば良いんだ?


「アッシューーーー!! デグラスに来ているのならなんで最初に家に来ない!!」


 そしてヘンリーがドアを吹き飛ばさんばかりの勢いで開けて部屋に乱入する。

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