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120 ドワーフ兄妹 燃やし尽くす

「ベルファ、や……」


 やめろと言おうとするが、言葉が出ない。せめてモーリックに少しでも抵抗の意志があれば……。それがあったとしても、前世みたいに神の介入が無ければ間に合わなかった。ベルファに任せた時点で俺は間違えていたのか?


「アッシュさん、これで良かったのです。これでやっと割れた石が一つになりました」


「……」


「もっと前にやっていればお兄もこんなに苦しまず……」


「それは違う! モーリックはずっとベルファの幸せを願っていた!」


「そうなのでしょうか。いえ、アッシュさんがそう言うのなら本当なのでしょう」


 人間とドワーフの価値観の違いが如実に出る。せめてモーリックの人生は決して苦しいだけでは無かったと伝えたい。だが俺の言葉ではベルファに届かない。


「これからどうする?」


 やっと出せた言葉は今後の予定に関してだった。


「お兄の遺体を連れ帰りたいですが、それは叶わないのは分かっています。ならせめてお兄の鍛冶屋で火葬します。ここならドワーフの炉に迷惑が掛かりません」


 死んだドワーフの弔い方は色々ある。その一つが生前働いた鍛冶屋の炉で灰になるまで焼かれる方法だ。ドワーフの魂が炉に宿り、子々孫々見守ると信じられている。ベルファは『アイテムボックス』の事を知っている。モーリックの遺体をデグラスまで持って行ける。それを拒否するのは双子だった事が理由だ。ベルファはドワーフとして埋葬されるが、モーリックは無銘の集団墓地に捨てられる運命が待っている。


「手伝おう……危ない!」


「えっ、きゃあああ!!」


 大地に横たわっていたモーリックの遺体が一瞬痙攣したと思ったら、寝た状態から一気にベルファの首筋目掛けて飛び掛かる。人間では決して真似できない動きだ。


 俺は『跳躍』しながら左腕をベルファの首とモーリックの牙の間に滑り込ませる。ガリガリガリと義手が削られる音がする。幾らドワーフの顎が強靭でも魔導鎧に歯形なんか付けられない。


「お兄!!」


 ベルファは手に持っているダガーでモーリックを刺すべきか迷う。


「ここからは俺の仕事だ! 下がっていろ」


 この閉鎖空間で素人を庇って戦えるほどモーリックは弱くない。モーリックが爪で俺を抉ろうとするのを察知して力任せに腹を蹴り飛ばす。


 多少距離が空いたが、モーリックは一切痛みを感じていない。痛み以前に息をしていない。


「レブナントか。もうちょっと死体が熟成してからなるものなんだがな」


 ルルブの知識からアンデッドの一種と当たりをつける。深い恨みを持って死んだ人間が死後10日ほどでアンデッドとして動き出す事がある。そうならない様に死体には聖水を撒いたり火葬に処す。死んで数分でアンデッドになるなど高レベルのネクロマンサーが描いた魔法陣の中で死んだ場合くらいのものだ。


「なんでお兄が……。やはり私を……」


「残飯だ。あれには食べた者の魂を変質させ『魔物化』させる効果がある」


 残飯の事は黙っておきたかったが、モーリックが眼前でレブナントになったのでは言わないわけにはいかない。それと同時に、モーリックのアンデッド化を見たベルファは確実に辺境伯の粛清対象リストの最上位に入る。


「私も……お兄みたいに……」


「大丈夫だ! 摂取量が少なければモンスター化する事は無い」


 レブナント化したモーリックと戦いながらベルファの説得をする。モーリックの一撃を食らう以上にベルファがとち狂って自害しないか心配だ。


 これ以上時間を掛けるのは不味い。


「止まれ!」


 俺は右目の『魔眼』を発動させてモーリックに命令する。ヴァンパイアはアンデッドを支配して尖兵として使う。ダンピールではそこまで出来ないが、単体の動きを止めるくらいは造作もない。硬直したモーリックが動き出す前に首を一撃で落とす。『アイテムボックス』からシーナ製の聖水を取り出してモーリックの頭と体にぶっ掛ける。頭の方は少しの間俺に噛みつこうとしていたが、聖水の効果で活動を停止する。


「終わったのですか? ああ、どうすれば……」


 流石のベルファもどうすれば良いのか迷う。


「モーリックだったレブナントの残骸は証拠として持って行く。代わりの死体を焼く」


 ベルファが何か言う前にモーリックを『アイテムボックス』に入れ、ルビーを狙った流民の死体を取り出す。前世の科学調査が進んでいる世界なら替え玉の死体なんてすぐに露見する。しかしこの世界では流民の焼死体なんて見向きもされない。エリックは「死体が出た」と聞けば十分仕事をしたと納得する。ここで死体が出ないと、死体が何処に行ったのか大騒ぎになる。俺が『アイテムボックス』持ちだと露見するのは何が何でも回避しないといけない。


「分かりました。この死体は動き出しませんよね?」


「大丈夫だ。こいつは偽衛兵とつるんでいた」


「お兄をこんな体にした下種なら手加減無用ですね!」


 そう笑顔で言うベルファはモーリックのハンマーをおもむろに持ち上げ、一気に相手の頭を叩き潰す。血と肉がそこら中に飛び散る。


「そこまでするか?」


「骨の形でバレます。骨まで砕いてしっかり焼けばバレません」


「そうか」


 それでベルファの気がまぎれるのなら好きにさせておく。


「死体を高温で焼き、そのまま鍛冶屋全体が燃える様にします。宜しいでしょうか?」


「周りに燃え移らない様にしてくれ」


「全部燃えたら良いのに……」


「数か月後にオークが南下してここは戦場になる。流民街は生きた巻き餌として残さないといけない」


 オークの事を話さない事を考えたが、デグラスに着いたらガングフォールに相談するんだ。俺が万が一追っ手の手に掛かってベルファが無事に逃げおおせたらガングフォールにこの事を伝えて貰わないといけない。


「オークがですか? でも何も聞いて……」


「援軍を募るのなら遅すぎる。単独で潰す気みたいだ」


 レブナントはその一環なのかもしれない。オークに殺された流民がレブナント化すれば不意打ちでオークを一人殺せる。レブナントが上手く戦えば破壊される前にオークを二人ほど殺せる。レブナント候補が千人居れば、オークをニ千人殺せる。オークの軍勢が2~3万とするのなら、十分な戦果だ。辺境伯の軍勢は籠城戦ならギリギリ五千行くかどうか。挑まないはずの野戦を選択したらその数は二千を割る。それに何をしているのか詳しく分からない邪教徒の暗躍と養殖している大規模なゴブリン集団。全部合わせれば単独でオークに勝つ夢を見る事は不可能ではない。人間の誇りと貴族の矜持を全部ドブに捨ててでも勝利を掴み取ろうとするか。


「アッシュさんの考えは分かりましたので、今回は我慢します」


 オークが来なかったらベルファが単独で放火しに帰ってきそうな雰囲気だ。


「ならさっそく火を掛けてくれ。他に持って行く物はあるか?」


 モーリックの鍛冶道具を追加で『アイテムボックス』に入れて俺とベルファは鍛冶屋を出る。外から見れば煙突から煙が激しく出ているだけだ。しかし実際は鍛冶屋の中全体に火が回っている真っ最中だ。


「出口とは違う方向では?」


 俺が人気の内壁に向かって進んでいるのを疑問に思うベルファが問う。


「あそこは俺達二人を逃がさない様に偽衛兵が全力で守っている。だから壁を飛び越える」


 出入り口が一つならそれを見張れば済む。この木製の壁を単独で越えられる人間は少数だが存在している。だがベルファを抱えて飛び越えられる人間なんて想像できない。出来る自信がある俺ですら暗闇に紛れて数回練習したほどだ。


 カーンカーンカーンと後ろの方で音がする。どうやら鍛冶屋の天井にまで火の手が回って流民の誰かが気付いた。俺は所々緑色に燃える鍛冶屋の煙を見る。急報あらば色粉を燃やして伝えるとルビーには伝えてある。そしてリルなら確実にこの煙を見る。緑は「無事に離脱、しばらく留守」の意味だ。俺が居ない間にルビー達が上手く立ち回る事に期待だ。


「それと火ですか?」


 俺と同じ煙を見ているベルファが呟く。


「正解だ」


 出入り口を固めた上で鍛冶屋が燃え出せばどうなるか? 俺とベルファが流民街に放火したと誤解する。そこまで頭が回らなくても火を止めるために動く。そうすれば壁を超える人間なんて誰も気付かない。


「きゃ」


「配慮している余裕は無い。一気に飛び越える!」


 俺はベルファをお姫様抱っこして壁を蹴りながら連続『跳躍』で飛び越える。


 エリックが手配する辺境伯の追っ手が動き出す前に何処まで逃げられるか。デグラスまで三分の一の距離辺りで追いつかれる想定だが、追っ手が空ぶるのが理想だ。

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