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012 廃寺院 虜囚

本来マックスの出番は廃寺院の後でしたが、ここで会った方が面白いと思いここ数話は当初のプロットを変更して書いています。



「ゴブゴブ!」


「ゴブー!」


「俺はどうなった……」


 肉の焼ける匂いで目が覚めた。朝から肉とは院長の奴が奮発したか? それとも裏路地で死んでいた馬を見つけてがめて来たか?


 ゴブゴブ騒ぐ孤児院の奴らを無視して二度寝しようと思った矢先……


「仕事に遅刻する!」


 ガンッ!


 飛び上がった俺は低すぎる天井に頭をぶつけ悶絶した。


「ゴブ!」


「ゲゲラ、ゴブ」


 ゴブリンの笑い声がした。


 そうだ。思い出した。俺はゴブリンとの戦いで気を失ったんだ。


 両手足を動かそうにも縄で結ばれていて動かせない。それに出来が悪いとはいえ、ゴブリン製の檻に閉じ込められているみたいだ。俺の背丈でも膝立ちが精いっぱいの小さな檻だ。流石に少し不味いかもしれない。


 幸い両目は問題無く周りを見ることが出来た。光苔に覆われた三階ほどぶち抜いた大きなホールの隅に俺は囚われていた。眼前には数百匹のゴブリン。そしてホールの中央には3メートルはありそうな巨大なゴブリンが俺に背を向けて何かを食っていた。巨大ゴブリンが何かの食べかすを投げた。それに群がる他のゴブリン達の間で乱闘が発生した。これだけの喧騒の中なら俺が少し動いても誰も気にしない。


「あれは、あの豚か」


 あの食べかすは豚の足に見えた。俺を連行した際に衛兵見習いが壁沿いに放置した豚で間違いない。少なくてもここから外に通じる道がある。悪い状況の中で手に入った明るい情報だ。もう少し時間を掛ければ逃走ルートの一つか二つは発見できそうだ。だが、そんな悠長にしている時間は無いかもしれない。


「少年、目が覚めたか」


 突然右の方から声がした。


 20歳前後の男が俺と同じ感じで囚われていた。痛みが激しく、所々に血がこびりついている服はかなり上等だ。ただ、この品質の服を着慣れていない感じもした。靴はまだ履いていたが、武器と防具は取り上げれたみたいだ。


「俺はどれくらい寝ていた?」


「そこに入れられてから結構早かった」


「そうか」


 ピットに落とされてからまだ一日と経っていないとすると時間的には夜か。


「私の事は聞かないのかい?」


「……」


「……」


「はぁ。分かった。どうしてこんな所に居るんだ?」


「良く聞いてくれた! 私の名前はマックス。遊歴中の騎士さ。おっと、家名は勘弁してくれ。私の最期が『ゴブリンに食われた』と知れば家名に傷が付くから!」


 余程不安だったのか、それとも話し相手が「ゴブゴブ」しか返さないからか、マックスと名乗った男の爆弾トークは中々止まらなかった。


「私は頼れる従騎士ヘンリーと共にラディアンドからデグラスに向かっていた! そう、その時、ゴブリンの部隊に包囲されたんだ!」


 デグラスはラディアンドから南西にある城塞都市だ。かつてデグラスの西にはドワーフが山をくり抜いて建造した城塞都市が複数あった。それら城塞都市は一つを残して全て陥落している。陥落の理由は諸説あるが、どれも強力なモンスターの重圧を受けていたのは間違いない。モンスターにやられたのか、内紛で自滅したのか、知っていると思われるドワーフは何も話さない。今のデグラスはドワーフの難民都市であると同時に西の山脈を越えて来るモンスターに対する防衛ラインとし機能している。そのためか都市はラディアンド辺境伯家では無く、王家が任命する城伯が支配している。


「私は勇敢に戦った! ゴブリンなど幾ら数が多くても烏合の衆だからだ」


 マックスからは強者の雰囲気を感じる。ルルブ通りならマックスはレベル10を超えている。しかしレベル20には達していないし、レベル15になっているかも半々だ。そんな男がゴブリンに囚われるなど、家名を名乗れない恥なのは間違いない。マックスのスキルレベル次第だが、今の俺で勝てるだろうか? ダイス運に恵まれたら勝率3割と言った所だろうか。


「不利を悟ったゴブリンは逃げ出した。当然追撃したさ。生かしておけば迷惑になる」


 そこは本当だ。特に人間を一度襲ったゴブリンはそれ以降人間を積極的に襲う。人間を襲わないゴブリンは居るのか、と言う学術的な問いに俺は答えを持っていない。シンプルに「ゴブリンを見たら殺せ」で日々を過ごせば問題無い。


「だがあいつらは小賢しくも俺をヘンリーから引き離したんだ」


 周りが見えずゴブリン如きの罠に嵌ったと。


「ゴブリンの罠如き大した事ないさ!」


「だろうな。それでどうやって囚われの身に?」


「石を投げられた」


「ああ、なるほど」


 俺に数発良いのを当てた投石ゴブリンか。彼なのかは分からないが、似たスキル構成を持つゴブリンが居ても不思議じゃない。だがこの会話だけで色々見えてくる。マックスが攻撃に使う物理スキルのレベルは5未満だ。槍術5の俺は乱戦中に飛んできた投石と矢を撃ち落とせた。石の事を気付いていなければレベル3,気付いたが反応できなければレベル4と言った所だ。


「気付いたら武器と防具を取られてここってわけだ。今日あたり食われると心配していたらゴブリンどもは何処からか豚を手に入れたらしくそっちに掛かりっきりだ」


「豚の方が旨そうだしな」


「私たちにも一口くらい譲っても良いと思うんだがな」


 無事脱出出来れば二人で焼き豚を食べようとくだらない話に花を咲かせた。ゴブリンは火で料理が出来るのは知られている。だがマックスはゴブリンが保存技術を持たず、血抜きすらしない事を知らないようだ。マックスが後回しになったのはそれが真相だ。


「しかしマックスは囚われて数日経つんだろう? その割には元気だな」


「ああ、それは衣服の裏にアイテムポケットがあるから」


 アイテムポケットはアイテムボックスのスキルを再現した魔道具だ。アイテムバッグやアイテムポーチび方が一般的だ。アイテムポケットは背広の内ポケットみたいなもので、収容量が少な過ぎて実良性が無いとされる。ほぼ同じコストを掛けるのならアイテムバッグを作った方が遥かに価値がある。アイテムポケットみたいな無駄の極みを持つのは余程の道楽者か高位貴族だけだ。


「ポーション1本と1日分の食糧くらいか」


「そんな所だ。明日の朝は何を食べれば良いのか」


 マックスは落ち着いている。事態の深刻さが分かっていないのか、助けが来る確信があるのか。どっちであろうと俺には良い話ではない。


「脱出出来ると思うか?」


「私だけだとゴブゴブの数がちょっと多い。まあ100匹くらいは斬れる」


「奇遇だな。俺も槍があれば100匹は行けるぞ」


「ふ~ん、じゃあ脱出する?」


「あの中央に座っているゴブリンを殺るかどうか先に決めよう」


「殺すに決まっている」


 マックスはさも当然の様に言い放つ。脱出を優先するのならあの大きいゴブリンを無視するのが正解だ。


「それならあの火魔法を使うゴブリンは俺のだ」


 笑みを浮かべて同意する。攻めるのなら俺もストックスキルが増える戦いをしないと損だ。しかし火魔法を扱えるゴブリンをコック代わりに使うとは、なんて勿体ない事をしているんだ。


「良いけど、何か恨みがあるのかい?」


「嫌いな子が火魔法の使い手だ」


「その子に心から同情するよ」


 ルビーには悪いが、火魔法憎ければゴブリンまで憎いだ。俺の体のやる気が大幅に上がった気がする。


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