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110 パワーレベリング 非常識

 E級冒険者はどうやってレベルを上げるか。卓上なら大鼠から初めてゴブリン、狼と少しずつ強い敵と戦い経験値を貯める。狼と戦う辺りでダイアウルフかゴブリンライダーに遭遇して新しいキャラシートを用意するのも卓上の醍醐味だ。狼の次は何かとなるとゾンビかスケルトン辺りか? それらを倒せるようになるとダイアウルフ狩りだ。この世界でも概ね同じ流れで良いが、ゾンビとスケルトンはラディアンド近くにいない。そのため、狼の次がダイアウルフと言う無理ゲーになる。ダイアウルフ討伐がD級に上がれる冒険者になるか狼の餌になるかの分水量だ。


「ダイアウルフを6体も一日で倒すなんて非常識にもほどがあります」


 ルビーが呆れたように言う。


「レベル上げには最適だ」


 ルルブに書いてある初期モンスターの経験値テーブルは把握している。だから十分な安全マージンを取ってもっとも経験値の入りが良いダイアウルフを集中して狩る。俺がパワーレベリングさせているんだからゴブリンを数百体倒すより遥かに効率的だ。


「ゴブリンの耳すら冒険者ギルドに納品していないのに、ダイアウルフを持ち込めばどう思われます?」


「あぁ……変に目立つ?」


「不正を疑われます」


「ふむ、ダイアウルフをもう20体ほど倒さないと5人での討伐は難しいか」


「あくまでダイアウルフに拘りますね?」


「ゴブリンの耳なんて1銅貨にならないゴミだぞ? ダイアウルフの毛皮一枚ならあの安宿の半月分だ」


 ダイアウルフの毛皮を銅貨換算したら3万枚弱になる。


「その通りです。……根本的に話が通じていませんね?」


 そうなのか? 


「分かりました。一から説明しましょう」


 メア達がダイアウルフの毛皮を剥ぐ時間でルビーのご高説が始まる。


 E級冒険者は平均的にゴブリンの耳3個と薬草2束ほどを3日に1度納品する。そう言う仕事を半年ほど続けて昇級に臨む。


「破綻していないか?」


 一月でゴブリンの耳30個と薬草20束では生活が成り立たない。


「それが現実です」


 ギルドはE級冒険者用の安い食事を提供し、雑魚寝出来る部屋を格安で貸すそうだ。それでも赤字なのは変わらない。


 となると死んでいないE級冒険者はパトロンを得るか犯罪に手を染めるか。


「それならダイアウルフの毛皮は裏で捌いて冒険者ギルドが納得する物を納品するしかないんじゃないか?」


「はい。最初はそれで良いですが、噂が立つのは止められません」


 ルビーが目立つと面倒になる。メアとミリスが使っているモーリックの剣と槍なんて通常はリルの『アイテムボックス』に入れて、人目のない森の中で取り出す念の入用だ。モーリックの剣と槍に関しては出世払いと言う事にして俺が無理やり押し付けた。偶に「実力に見合った武器を」とか寝言をほざく人間がいるが、ド素人でも鉄の剣よりエクスカリバーを持った方が強い。エクスカリバーを持って実力以上のモンスターに特攻するのはただのバカだから気にしない。前世のブラック企業時代でも1万円のスーツより100万円のスーツを着込んだ方が取引先の対応が良くなった。お高いスーツは勤めていたブラック企業とズブズブのサラ金で無理やりローンを組まされて……。おっと、前世の記憶だけで軽く絶望しそうになる。


「分かった。噂をぶっ飛ばせるくらい強くしろって事だな」


「それは納得できる案です」


 ルビーが同意する。


「ちょっと待てや!」


「ルビー、正気に戻って」


「え~と『サニティー』で治るはずです」


 話を聞いていたメア、ミリス、そしてシーナが突っ込む。


「え? 何かおかしい事を言いましたか?」


「心配するな。全員強くするから」


「何てこと。同じ孤児とは思えない」


 ミリスが何故か結構ガチで戦慄している。


「この二人だけ変なのは昔からだ」


 メアがフォローにならないフォローをする。


「祈らなくては! 二人を祈りで救わなくては!」


 俺とルビーの会話でシーナがトリップする要素があったのか?


「主君、帰った。近くにダイアウルフはもういない」


 ちょうど偵察から帰ったリルのおかげで話の流れが変わる。出待ちしていたんじゃないかと思えるほどのナイスタイミングだ。


「ありがとうリル。有能なスカウトが居るとモンスター狩りが捗って楽しいな!」


「えへへ。それはそうと主君。何を焦っている?」


「ああ、それは私も気になっていました」


 リルの質問にルビーが同調する。残りの3人は頭上にはてなマークを浮かべている。


「一日も早く一定の強さまで上げたいと言う考えに噓偽りはない。その上で焦っている様に見えるのは俺の都合だ」


 メアとミリスが使っている武器を作った鍛冶師が寿命で長くないと伝える。そして彼の死後、妹をデグラスに送り届ける約束がある事も伝える。寿命以外の死因を口に出せばシーナが「癒さなくては」と変な正義感で動く。治療失敗だけなら良いが、残飯の件を神殿に報告すれば俺たち全員は口封じで殺される。


「私たちではデグラスまではいけませんね」


「それよりもうすぐ雪だぜ? こんな時に動けるのかよ!」


 メアが突っ込む。メアがそう言うのなら雪は近い。昔から天候を当てるのは得意だったから、今回も当たるだろう。


「問題無い。デグラスへのルートは二通り踏破済みだ」


「流石主君!」


「だからその関係で今月中に10日ほど不在になる。そうなる前に5人でゴブリン程度は瞬殺できるように強化したい」


「一見良い話に聞こえますが、私達だと同数のゴブリン相手に互角が普通です」


 常識に囚われたミリスらしい発言だ。


「アッシュの予定があるのなら私たちの予定を少し調整しましょう」


 ルビーがその場で新しい予定を組み上げる。俺が居る間は常識無視のパワーレベリングをやり、俺が不在の間はE級冒険者らしくゴブリン狩りをするプランが出来上がる。


「主君、偽装用にゴブリンを数体狩るべきかと」


「そうだな。帰り道で100体くらいやるか」


「待って! 10体でも多いから! リルは分かっているよね!?」


 ミリスが必死に懇願するが、リルは原則的に俺の言を優先する。


 結局ラディアンドの門が見える直前でルビー達と別れるまで40体以上のゴブリンを倒す事になる。初回だからこの程度の手加減は許容範囲だと自分自身に言い聞かせる。


 1日モンスターを狩って2日休むスケジュールを3回こなす。ルビー達のレベルがガンガン上がり、肉付きが目に見えて良くなる。そして迎えた四回目。


 メアが俺に一騎打ちを申し込んできた。

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