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011 廃寺院 地下8階再び

「しつこい奴らだ!」


 俺はゴブリンの大群を一目見て全速力で階段を下りた。背中を向けた俺目掛けて様々な物が投げられた。運悪く石を背中に食らったがそれ以外の攻撃は外れた。石を食らって前のめりになったおかげで矢が刺さるのを回避出来たのは幸運だった。そして少なくても『投石』と『弓術』のスキル持ちが居る可能性に内心喜んだ。遠距離スキルを一つでも持てればこれからの戦い方に幅を持たせられる。幸か不幸か魔法使いは居ないみたいだ。居たらスキル収集の面では幸運だったが、居ないがためにこの大群に守られた魔法使いと戦う不幸は回避出来た。


「ゴブ! ゴブ!」


 「逃がすな、追え!」と言っているのか「殺せ! 殺せ!」と言っているのか分からないが、俺を生かして帰す気が無いのだけは分かった。


 勝ちパターンは地下9階の闇に引きずり込む方法だが、ゴブリンに毛ほどの理性が残っていればそんな手には引っかからない。地下8階で何割かは倒さないと駄目だ。俺は階段への直通ルートを外れる形で右折した。そしてそこで立ち止まった。


「ゴブゥ!?」


 俺が先に行ったと思っていたゴブリンどもは待ち構えていた俺の突きをまともに食らった。先頭を走っていたゴブリンは後ろから来たゴブリンに押され自分から尖った骨に深く突っ込んだ。俺は素早くボーンソードだった骨片を引き抜き、二匹目に斬りかかった。


「1対1を50回やれば勝てる!」


 脳内アドレナリンが出まくって頭がおかしくなったんだろう。本当にそんな事を考えながら骨片を振り回した。三匹目を殺した辺りで通路の渋滞が酷い事になった。俺はそれを見て一目散にまた逃げ出した。俺が左の通路に曲がったすぐ後に俺がさっき居た壁に石が当たった。どうやら『投石』のスキル持ちはかなり前の方に居るみたいだ。


 俺はしばらくジグザグに進んで二匹目のドジョウを狙う事にした。ここでもう数匹倒して地下9階に逃げ込む。完璧な作戦だ!


 曲がった先で錆びたナイフを構えた所にゴブリンが突っ込んできた。ボーンソードが残っていればそれを使いたかったが、もう既に粉々に砕け散っていた。


「良し!」


 俺はこの時完璧に油断していた。『短剣術』を持っていないのに『剣術』と同じ補正が入る前提で動いた。そのためゴブリンは致命傷を負ったが、即死しなかった。そして最後の力で俺の腕に抱き着いた。


「放せ!」


 俺がそう叫ぶが早いか、槍が俺の右肩に当たり、肩の上の筋肉を切り裂いた! 俺の『体』ステータスがもう少し低ければこの一撃で右肩の骨を貫通されただろう。幸いにも上にズレたが、右腕は使い物にならない。


「ゴブ!」


 勝ち誇る槍ゴブリンを見て俺は冷静になった。冷静にならなければ死ぬ。


「舐めるな、ゴブリン如きが!」


 槍を有効に使うにはスペースがいる。そのため追撃していた他のゴブリン達はほんの少しだけ槍ゴブリンの後ろに居る。そして槍とは懐に入られたら弱い。俺が懐に入った所を他のゴブリンが攻撃する作戦なんだろうが、そう上手くやらせはしない!


 俺は動かない右腕に絡みついたゴブリンの死体ごと突進して、槍ゴブリンに頭突きを食らわせた。槍ゴブリンは槍を戻そうとした分だけ回避力が落ちていた。本来ならこの頭突きは無意味な行動で、次のゴブリンの攻撃で俺は絶命したはずだ。


「吸血!」


 頭突きから相手の首筋への噛みつき攻撃。ヴァンピールの力を見せてやる! 余談だが、クラスのレベルアップが自動処理の場合こんな戦い方をしていればヴァンピールのレベルがどんどん上がり、ひと月もしない内に人間を辞めた種族に変わるだろう。ありがとう『ブレイブシステム』。君が俺の最後の希望だ!


「ゴブー!? ゴブー!」


 騒ぐ槍ゴブリンが助けを呼ぶが、俺の体に絡まるゴブリン2匹が通行の邪魔になり後続が俺に有効打を与えられない。廃寺院を歩いている時に手に入れた尖った石をアイテムボックスから左手で取り出し、槍ゴブリンの背中に突き刺す! 槍ゴブリンが爪で俺を引っかこうと気にするものか。無理やり助けに来るゴブリンには槍ゴブリンを盾の様に振り回して近づけさせない。


 ガン!


 額に石が当たり、額から血が流れ落ちる。


「ちぃ、投石ゴブリンか!」


 血が左目に入って片目の視力を一時的に失った。だが、天は俺に味方した。槍ゴブリンの体から力が抜けた。


「行くぜ、『ブレイブシステム』、槍術にSPをありったけだ!!」


 ありったけと言ったのに俺の槍術は5/10で止まった。理由は分からない。位階レベルが低すぎると何らかの制限が入るのだろうか? クロードの記憶やルルブの知識でも確定情報は無い。それでも個別スキルはクラスレベルに関係無しにSPを振れるのが最大のメリットだ。ゴブリンと遊んでいるだけではどうあってもヴァンピールレベル5には到達できない。通常のキャンペーンなら大人しくクラスレベルを上げるべきだが、ソロスタートのヴァンピールではその定石は使えない。


 ゴブリンを殲滅するだけなら槍術3があれば十分だ。レベル3あれば一人前の槍使いだ。冒険者と騎士の8割は主兵装のスキルレベルが3のはずだ。すなわち普通の冒険者のクラスレベルは3まで上がった後は他のサブクラスに進むことが多い。本人の位階レベルがどんなに上がろうと複合スキルのレベルは3以降上がり辛い。槍術5まで行けば王国最強の主力騎兵団の入団条件にもなるほどの高レベル。人類の事実上の最高スキルレベルは7であり、5まであれば引く手あまただ。流民なので誰も声を掛けないだろうが、野生のシナリオボスが野に放たれたようなものだ。


「さて、反撃と行こうか」


 俺は槍ゴブリンが落とした槍をリフティングで浮かせ、肩が回復した右手で掴んだ。左目が見えないのはハンデだが、数年は片目で過ごしてきたクロードの体には些細な問題でしか無かった。


「もう負ける気はしない!」


 飛んでくる投石と矢を槍を回転しながら撃ち落とし、俺は一歩前に出た。そこからは一方的な蹂躙だった。位階レベルは足りずともスキルレベルは無双できるほど高く、最弱クラスのモンスターが幾ら束になっても俺にはかなわなかった。


「ははは、勝った。勝ったぞ!」


 足元に転がるゴブリンの死体を見て俺は笑った。辛すぎる戦いだったが、やっと少し休むことが出来る。


 そう思ったのがまずかった。


「い、痛い……体中が痛い」


 そのまま眼前が暗くなり幻痛みたいなものに悩まされた。いつ廊下に倒れたのかも分からなかった。


「逃げないと……」


 せめてゴブリンが簡単に踏み込めない地下9階で倒れたい。そう思うも、もはや体が動かなかった。筋肉痛とは違う異質の痛みに苦しんだ俺はそのまま気を失った。

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