109 パワーレベリング ダイアウルフ
ここから数話はアッシュ無双です。
俺はルビー達を伴い新人冒険者が入るには危険とされる地区へ向かう。今のルビー達だけなら確実に全滅する。
「あの、かなり奥地に入っていません?」
一番戦いに向かないヒーラーのシーナが言う。
「全然。ここだとまだダイアベアは出ない」
「基準がおかしい」
この中で一番普通のミリスが突っ込む。
「そう言うな。ゴブリンをチマチマ数か月倒すのは時間の無駄だ」
ルルブの冒険者はE級からA級の五等級に分かれていた。この世界ではその五等級の下にF級がある。F級は孤児と逃亡農奴専用となっている。F級は凡そ80日ほど町中で問題を起こさなければE級に上がれる。そのため、F級冒険者は元がどんな暴れん棒で借りて来た猫の様に大人しくなる。孤児院で暴虐の限りを尽くしたあのホルダーですら「模範的な孤児上がり」なんて噂が立ったほどだ。ホルガーはE急に上がると同時に問題を起こしてF級で稼いだ信頼を一瞬でドブに捨てたともリルに聞いた。今のルビー達はE急に上がったばかりの完全な新人冒険者だ。
冒険者は等級に合わせて社会的信用度が変わる。契約でD級冒険者に言及があるのもそのためだ。まずF級は発行した町の中だけで冒険者ギルドが身分を保障する。ミリスが語る所によると、外に出たF級の冒険者が再度町に入る事を拒否されることは年に数回はあるらしい。
E級は発行した町と付近の農村で冒険者ギルドが身分を保障する。一気に行動範囲が増えるが、隣町のデグラスでは紙切れ扱いだ。農村が活動範囲に入るのは収穫時の手伝いや収穫前の害獣駆除が町にとっての死活問題だからだ。モンスターに村が滅ぼされたら町に年貢が集められない。そうすると町の人が冬を越せなくなる。ただしクロードの記憶が確かなら農村の依頼には闇がある。収穫の肉体労働で疲れた女性冒険者をそのまま村の男が無理やり嫁取りする事が恒常化している。農家の妻の方がE級冒険者より身分が上なため、これは善行扱いと言う胸糞悪い現実がある。冒険者ギルドも収穫時の農村に行く女性冒険者の報酬を通常の3倍に設定しているため真っ黒だ。
D級まで上がればラディアンドを含む地域全体で冒険者ギルドが身分を保障する。昇給には位階5到達が最低条件だ。二級市民はこの等級から冒険者を人間扱いする。この等級になれば冒険者ギルドに紐づけされていない二級市民になる申請が通りやすくなる。この世界では二級市民権の発行権を都市だけでなく、各種ギルドも持っている。だがギルド発行の市民権はギルドの胸先三寸で没収できる。冒険者ギルドに人勢が左右されるのは危険だ。それにD級ともなると、ある程度信用があるそこそこ出来る冒険者と世間一般に認識される。冒険者ギルドはこの手の「使い潰しても余り痛くない」戦力を全力で使い潰す傾向にある。
D級がそんな感じなのでC級冒険者と言うのは珍獣の一種だ。昇給には位階10到達が最低条件だ。そもそも真っ当な冒険者ならC級冒険者に上がる実績を積んでも昇級しない。昇級するより転職を選ぶ。凡人のミリスは位階10になったら等級不足でも衛兵に転職すると宣言している。他には王国軍の兵士や騎士の従卒など真っ当な職が多い。魔法系の冒険者なら専門的な魔法教育を受けに学生になったり、神殿に入る者が多い。
B級とA級は等級として存在している。B級で男爵、A級で伯爵相当の身分を得るが冒険者稼業一本でやるのは余程の変わり者だ。ルビーはラディアンドの冒険者ギルドのマスターは元B級冒険者だと言っている。どうやら将来の冒険者ギルド幹部候補として俺が思っているよりB級冒険者は多いのかもしれない。A級冒険者は冒険者ギルド500年の歴史上3人しかいない。その一人が勇者でユーグリン王国の国父だ。
「主君、釣って来た!」
先行していたリルが森の奥から現れる。リルには『追跡』スキルを既に与えている。これで手頃なモンスターを『追跡』して俺の下まで釣って貰う。森の中を無目的に歩くなど時間の無駄だ。それにルビーとシーナの体力が持たない。
「敵は?」
ルビーは咄嗟に戦闘態勢に入り、魔法の詠唱を開始する。
「ダイアウルフ」
「良くやった、注文通りだ」
丁度良い。ダイアウルフの毛皮は売れる!
「グルル!」
メアとミリスが武器を構える頃にダイアウルフ二体を視認する。上位者不在で二体が一つの群れを率いるのはそこそこ珍しい。モンスター化する前はオスとメスだったのかもしれない。それと普通の狼が円陣を組んで俺たちの逃亡を阻止する。相変わらずのワンパターンだ。
「二体なんてもう駄目よぉ」
ミリスが泣き言を言う。
「まだ諦めんな!」
メアの戦意は旺盛だが、足が震えている。
「そこで武器を構えて突っ立っていろ。今日の目標は10体だ」
俺はダイアウルフの『跳躍』に合わせて『跳躍』し、ダイアウルフの下を通る。通過時にモーリックの剣でダイアウルフの喉元から股間を一気に切り裂く。着地したダイアウルフは次の一歩を踏み出す間もなく、内臓を全て地面にばら撒いて倒れる。
「止めを刺せ!」
それだけ言いながら俺は槍に持ち替えてもう一体のダイアウルフの首筋を突く。
「しまった?」
力加減を間違って頭と体が分離してしまった。止めを譲るつもりだったのに残念だ。俺達を囲んでいた狼は最初のダイアウルフが倒れた時点で方々に逃げ出していた。ルビー達がもう少し強くなれば俺がダイアウルフと遊んでいる間に狼狩りを任せられる。
「狼、逃げた」
「不味くても肉だから何匹かは狩りたい」
「一匹くらい倒す」
「もうちょっと位階が上がればやってみろ」
俺の横でリルが報告する。大事なたんぱく質だから逃すのは惜しい。
「はぁ、この二体の毛皮を売れば十分肉を買えるでしょう」
ルビーがため息を付きながら言う。
「ちょっと解体を手伝ってくださーい! 切れないんですけど?」
スキル無しでダイアウルフの解体は難しいか。それともシーナだからか?
「今行く! 折角の毛皮を台無しにされたら大変だ!」
この分だと『解体』スキルを手に入れないとモンスターの素材剝ぎまで俺の仕事になりそうだ。
今日のパワーレベリングはまだ始まったばかりだ。
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