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010 廃寺院 地下8階


「これってもしかしてボーナスステージか?」


 部屋を出た俺は一瞬だけそう思った。俺は暗闇の中でもゴブリンを視認出来る。ゴブリンは松明の灯りが無いと俺を視認できない。


 だが現実はそんなに甘くなかった。


「いないなぁ……」


 ゴブリンがいない。よく考えれば当然か。見えない闇の中で歩き回るほど愚かなモンスターでは無かった。となると大量のゴブリンが居る場所には何らかの光源がある可能性が高い。松明ならやり様はあるが、それ以外だと頭を使う事になりそうだ。最悪地下10階にトレインして、闇の中から討つってのも手だ。それでもゴブリンが不利な地形で追撃を諦めるほど賢ければお手上げだ。


 少し歩くと十字路に出た。前の道はゴブリンの通り道だ。床が荒れているし、色々なゴミが散乱している。左右の道はゴブリンが歩いた形跡が無い。いつ廃寺院になったのか分からないが、左右の道にはまだお宝が眠っているかもしれない。卓ゲーをやっているのなら躊躇なく左右の道を両方とも行く。ヴァンパイアならそのほぼ無敵の性能頼りに突っ込んだ。しかし罠察知系スキルを持たない9割人間では自殺行為だ。クロードは死なない様に慎重に行動する俺を見たら怒るだろうか? クロードは結構向こう見ずな性格だったし、恐れず使用されていない道を選んだかもしれない。


「惜しい。余りに惜しい」


 悔やんでも悔やみきれない。罠察知スキルを持っているゴブリンが居れば優先的に狩ると心に誓うほど悔やんだ。


 とにかく闇の中を進んだ。地下10階と地下9階はゴブリンの道を通って最短距離で駆け抜けた。分岐があるたびに「ちょっと横道にそれても……」と葛藤した。ゴブリンとの殺し合いよりも自分の冒険心が強敵だとは驚いた。ブラック企業に務めていた頃はノルマをこなすためにそんな事を思いつく余裕すらなかった。


「ちっ、明るい」


 地下8階に上る階段に近づくにつれ、明るくなっていった。どうやらここからがゴブリンの生息地域だ。今の手札で何処まで出来るか。最悪使われていない道を探索して何か武器が出る事に賭けるしか無いかもしれない。


 一気に階段を駆け上がり、周囲を見回す。クリア。ゴブリンはいない。この階段は重要な防衛拠点では無かったか。


「これは光苔か」


 闇の中でうっすら光る苔が壁と天井にびっしり生えていた。自然にこんな形にはならないと思う。ゴブリンか廃寺院になる前の住人が人為的に作ったに違いない。松明の灯りに比べたら暗いが、これならゴブリンは俺を視認出来る。ボーナスステージは始まる前に終わった。


 俺は床に光苔が少ない道を進んだ。そして当然の様にゴブリンと遭遇した!


「ゴブ!」


「おらぁぁぁ!」


 俺の折れたボーンソードとゴブリンの素手が交差する。身体能力の差で俺は青あざが出来る程度で済んだが、左目から脳を貫通されたゴブリンは絶命した。


 一匹から数匹の小部隊で徘徊しているゴブリンと10回ほど戦った後、俺の体は限界に近付きつつあった。


「はぁはぁ……これは少しヤバいかもしれない」


 ゴブリンが持っていた食べかけのリンゴを吸血スキルで吸収しながら俺は途方に暮れた。地下7階に近づくにつれてゴブリンの層が厚くなっている。最弱のゴブリンだから打撲程度で済んでいるが、少しでも武器や魔法の扱いに長けたゴブリンと遭遇したら大けがを負う。


 対抗策は分かっている。ヴァンピールのクラスレベルを2まで上げれば良い。剣術2があれば武器を持ったゴブリン程度には負けない。吸血スキルも強化されて戦いながら回復出来る。だが、それは俺が確実に人間を辞める一手だ。秩序の神の試作勇者としてそれはどうなんだ? 俺自身に特に拘りは無い。流民になった今、人間らしい真面な生活をするのは困難だ。人間らしい生活を手に入れるためにもヴァンピールのクラスを強化するのは必須だ。


「もう少しだけ拘るか。プロトブレイバー」


 俺はストックスキルから何か使えないか確認する事にした。地下7階で暴れた後の方が良いスキルがありそうだが、それに賭けるには俺が弱すぎた。俺はここまで倒した23匹のゴブリンが何か良いスキルを持っていてくれと祈りながらストックリストを見た。


***


ストックスキル

 ブレイブシステム  0/1

 吸血        0/1

 アイテムボックス  2/3

 最大LVアップ   2/3

 取得SPアップ   2/3

 マナ呼吸      2/5

 HPブースト    5/5

 暗視        2/10

 剣術        9/10

 短剣術      10/10

 共通語       9/10

 ゴブリン語    10/10


***


「やはり『悪食』みたいなゴブリン固有スキルは無いか」


 種族特有のスキルはストックされないのかもしれない。それとゴブリンのクラスそのものもストックされていない。俺を殺した衛兵のクラスがストックされていなかったからその可能性が高いと考えていた。だがクラスのストックには殺害が条件の可能性もあり、今まで保留にしていた。ゴブリンを20匹以上殺してストックされないのなら、クラスはストックされないと考えれば良さそうだ。


 しかし『ゴブリン語』か。取得してみたい好奇心と何の役に立つんだと言う感情が半々だ。それに俺は言葉が分かる人型を殺せるのか? 有効でもゴブリン語でゴブリンを罠に誘導して殺せるほど俺の神経は図太くない。「ゴブゴブ」言うモンスターと認識した方が俺の精神安定には良いだろう。


「駄目か」


 SPを全部使い短剣術を限界まで上げればゴブリン相手に無双できる。だがその先にあるものは? 俺は足が特段速い訳でも技量に長けているわけでも無い。短剣術をゴブリンより強いモンスター相手に通用させるものが何一つない。いよいよダンピールを伸ばすしか無いと諦めかけるも、まずは地下7階を覗いてからにした。


 地下7階の階段を上ると50匹近くのゴブリンが俺を待ち伏せしていた。乾いた笑いすら出なかった。

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