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灰色の森  作者: 五月雨
19/19

終章 旅立ち

 がさりと、雪が滑り落ちた。年中色を変えない常緑樹の枝から。


 その音に、私は反応しない。あえて無視を決め込み、漠然と雪の中に立ち尽くす。


 不用心と言われれば、そのとおりだと思う。村の近くとはいえ、見通しの悪い森の中。魔獣に襲われたりしたら、生命に関わる。


 でも私は、警戒するつもりがない。そんなことをする意味がないと思っている。あの戦を最後に、私の時間は止まってしまった。


 くぐもった音と一緒に、小川のせせらぎが雪の塊を呑み込んでゆく。


 澄んだ流れは水嵩を増し、春には濁流となって付近の村へ溢れ出す。それが畑の肥料となり、秋には豊かな実りを約束する。


 変わらぬ森の暮らし。それに不満を抱いたことは一度もない。けれど、今は……


「くうぅぅ~ん」


 洗濯を終えたルークが、左脚に鼻先を押しつける。今日の仕事はこれで終わり、早く褒美の林檎が欲しいのだろう。無意識に首筋を撫でようとして……私の胸は塞がった。私の左腕は、もうなくなってしまったのだと。


 先代族長とグスマさんの死を受けて、族長にはシェラさんがなった。古参のバルザ師匠は、筆頭若長として新しい若長達を指導している。就任して間もなく、シェラさんはリシリアさんと一緒にウゥヌス・リトラへ向かった。何も言わなかったけれど、本当はヒト質なんだと思う。ニンゲン達がいなければ、復讐に燃えたニウェウス達は最後の一人まで戦をやめなかったと思うから……


 そんな経緯もあって、今はバルザ師匠がライセンの村を治めている。和解の策は功を奏し、犠牲は出たものの戦争は終わった。


 お兄ちゃんの頭に洗濯籠を乗せ、無言のまま先に立って歩き出す。


 片腕を失った今、私にできることは少ない。薪割りなどの力仕事は、村の男のヒト達が手伝ってくれた。洗濯も片腕では効率が悪く、お兄ちゃん一人に任せたほうが手早く終わる。元々していなかったこともあるし、わざわざ寒いところを一緒に来る必要はなかったのだけれど……


 その理由は自分でも分かる。私は今、ひとりになりたくないのだ。ひとりになると、いろいろ余計なことを考えてしまう。


 ネロ族長が遺した爪のこと。帰ってこなかった仲間達のこと。あのときリタさんが教えてくれた、記憶を失う前のウィルがしていたこと……


 普通に考えれば、彼は仇なんだと思う。リタさんの腕を斬り落とし、彼女の仲間を何人も死なせた。この戦で死んだヒトは、結果的にウィルが殺したようなもの。どんな理由があろうと、赦してもらえない罪だってある。


 それでも逢いたい。たとえ赦されなくても、私は彼と一緒にいたい。


 あの日、結局ウィルは見つからなかった。


 ブラッド王ハルマーこそがウィルだと、私は確信を抱いている。風の噂によると、そのハルマーが魔獣ウィル・オ・ウィスプの底なし沼に呑まれて死んだという。


 でも誰が見たのか、どこから出た話なのかははっきりしない。ウィルが生きていることを隠すために流された嘘と疑うこともできる。


 記憶が戻ったのかもしれない。昔と今の自分に挟まれて、どちらでもない自分を造るしかなかった。その新しい自分さえ、皆に死ぬことを望まれるとしたら。どこにも生きる場所を見つけられなくて、私だったら逃げ出していると思う。


 仲よく向かい合う、二軒の真新しい小屋。村を離れている間に、バルザ師匠と村の皆が建ててくれた。そのうち片方の小屋は、全く使われていない。予定していた住人が、今も行方不明になっているから。壊すのは惜しいし、さりとて住む者もいない。それなら必要になるまで残しておくだけのこと。


 暮らしが落ち着けば、ここに最近成人したトリシャが引っ越してくるだろう。あの子は部族の義務に忠実だから、きっと毎晩のように騒音で悩まされるに違いない。


「じゃあ……掃除に行ってくる。林檎はいつもの場所に置いてあるから、あまり食べ過ぎないようにね」


 朧気に言い置くと、私は雑巾を片手に無人の小屋へ向かった。



 ☆★☆★☆★☆★☆



 軒先の苗代には、トマトや玉葱など新しい野菜の種が蒔かれている。春には小さな芽を出し、夏には自分の畑と併せて忙しくなると思う。こういった作物には、虫や生い茂る雑草が一番の敵。まめに畑へ出向き、多くの障害を除かなくてはいけない。もっとも今の季節は冬。仕事は僅か。


 戦が終わってからというもの、ここを一人で掃除するのが私の日課になっている。とはいえ昨日も丁寧に磨いたばかり、床には埃ひとつ落ちていない。壁や天井、家具の類にしてもそうだ。使われていないにもかかわらず、手入れが行き届いた小屋の内装は――奇妙な落ち着きがあり、寂しげな輝きを湛えている。


 布団の埃を払い、不器用な手つきで床や壁を拭く。


 そろそろ片腕の暮らしに慣れていい頃。でも生まれて十六年間の癖は、そう簡単に直るものじゃない。左腕を支えに床を拭こうとして転ぶ。雑巾を畳みなおそうとして……左腕がないことに気づき、持ち上げた右手が何もない虚空を彷徨う。


 初めは、そんな失敗を繰り返していた。心配するお兄ちゃんの手伝いも断り、自分の頭を何度も床に打ちつけた。ううん……それこそが自分で望んだ罰だったのかもしれない。彼を救うこともできず、ただ無様に醜い傷痕を晒している。


 私は、村のために戦ったわけじゃない。私情に駆られて彷徨い歩き、結果としてこの傷を負わされた。憐れむだけの価値もなければ、仲間の同情を受ける資格もない。


 小一時間で作業が終わると、私は途方に暮れて立ち尽くした。無韻の静寂が、生活感のない空間を支配する。ここだけは……この小屋の中だけは。私と同じ、あのときを境に時間が止まってしまったかのよう。


 こんなことじゃいけない。それは分かっている。早く立ち直って、村の再建に努めなければ。亡き族長の遺命は、今もなお生き続けている。彼を追って旅立つことは、部族の戦士として同胞の仇を討ち果たすこと。助命を願って赦されるとは思えなかった。


 今は落ち着いているけれど、そのうちウィルに対する部族の保護を取り消すべきだという意見が出るんじゃないか。戦の原因となった彼を殺し、それで気を紛らわせようとするヒト達が。今更彼を殺したところで、得られるものは何もないのに。族長のシェラさんを通じて、私がリタさんから聞いた話は全部ニンゲン達に伝えた。それでニウェウス達が納得するか……少なくとも、これ以上争うことの無意味さは分かってくれたはず。


 今私がすべきことは、ウィルが安心して帰ってこられる静かな居場所を作ること。


 一緒に逃げるのは簡単。でも、それで彼が幸せになれるのか。生まれたセシルは戻らなくても、せめてライセンには堂々と住めるように。できればサラサにも――ルークを見ていれば分かる。義妹に会いたくない兄なんていないのだから。


 ディム、ネフラ、ウィル――どの名を呼ぶにしても。彼というヒトに対して、私達はあまりにも無頓着だった。色白ならニウェウス。魔獣を産めばアトルム。私達の住む世界は、彼の存在をありのままに受け容れることができなかった。全てを白と黒に分け、灰色の存在を認めない。白でも黒でもなければ、それは小人族か野蛮な原種に獣人族。またはバーゲストやカトブレパスなど変異の魔獣。


 彼――ウィルは、そのどれでもない。確かにエルフだ。白と黒を併せ持ち、同じく白と黒の両方に育てられた。両者の間を彷徨う不安定な存在――有耶無耶の灰。残酷にして無慈悲な運命が、彼に与えた本当の姿。彼の居場所を作るため、彼と一緒に生きるため。私は、彼の真実をありのままに受け容れよう……


 戸口から顔を出し、空の向こうに一羽の渡り鳥を見つける。きっと何かの拍子に、他の仲間達とはぐれてしまったのだろう。でも心配は要らない。帰るべき場所が分かっているのなら、きっとまた逢うことができるはず。白い陽光を見上げながら、私は無意識のうちに二月越しの微笑みを浮かべていた。


「大切なのは、あなたの意思よ。あなたが何を望むのか。どんなふうに生きたいのか……ここに帰ってくるのなら、私は今度こそあなたの全てを受け容れる」


 止まっていた私の時間は、ようやく前に進み出した。



 ☆★☆★☆★☆★☆



「う……」


 何も見えない中で、ユリアナは覚醒した。


 手探りで周囲の状況を確かめる。どうやら寝かされているようだ。外は雪が降っているから、月がなくとも見えるはず。


 寝台の上で身を起こした。古く硬いそれは、動きに合わせて軋みを立てる。


 他に誰かいれば、彼女が目覚めたことは伝わったろう。その何者かは、気配を隠さなかった。なるべく驚かせないよう離れていただけ。


 ユリアナも瞬時に察した。エルフは敵を全て殺す――だとすればニウェウスかニンゲン、家を構える時点で獣人はない。いずれにせよ、いろいろ気が回る相手のようだ。


(それにしても……)


 暗い。全く見えない。しっかり目を見開いているのに。家主も同じと思われるのをよいことに、不躾な探索の視線を部屋中に向ける。


 だが本当に何も分からなかった。諦めて声をかけることにする。これ以上無視するのは、さすがに失礼というもの。


「あの……」


「うん?」


 意外に近くから聞こえて驚く。


「熱を測らせて。一応ね」


 問題なかったようだ。しかし、すんなり額を探し当てられたのが気になる。


「あ……ぅっ」


「何か飲む?」


 温い蜂蜜入りの飲み物は、喉に優しかった。まだ辛そうなユリアナを気遣い、訊かれる前に答える。


「ここは始原の森近くにある小屋で、私はティターニア。村には住んでいないけれど、カインの末裔達が面倒みてくれてる」


「……………」


 女王ティターニア。この島に住む者達は、半ば伝説的な存在として彼女のことをそう呼ぶ――ニウェウスに限らず。冗談や嘘で言う名前ではない。


 何かと生臭い若長タルカスのことは嫌いだったが、族長夫妻に育てられたユリアナは伝統や権威といったものを大切にするほうだ。その権威たる養父が激甘で、少しは威厳を持たせようと頑張ってきたせいもある。


 女王は権威の頂点だ。しかし必要なことは訊かねばならない。


「…陛下。この身をお救いいただいたうえ、願いごとを口にするなど恥ずかしくも畏れ多いのですが……」


 無言で頷きかけたが、改めて声に出す。仲間は助けるものだから、と。最近ここを訪ねた男も、最初は同じようなことを言った気がする。


(夫婦は似るものかしら)


 何を頼まれるか、何を訊ねられるのか。このとき彼女には分かっていた。


「灯りを、点けていただけないでしょうか?ここは暗くて、何も」


「今は昼過ぎ。窓も開けている。ジョウビタキの囀りが聞こえない?」


「……………」


 病人の部屋にしては肌寒い。だが、つい先程まで暖められていたのも分かる。長らく火を熾したため、部屋の空気を入れ替えでもしたのか。


 だとしたら、この暗さは。


 自分は何か、大事なことを忘れて……


「…ユリアナ。落ち着いて聞いて」


 そういえば名乗ってもいなかった。


 無礼はさておき。昨夜助けてくれたヒト達から聞いたのだろう。カイン氏族の彼らは、女王陛下の遣いを称していた。夫がなりすましたと確信する『邪悪なブラッド王』を追っていたら、途中で意識がなくなり……


 思い出した。そのとき聞かされた、信じたくない結末と一緒に。


「あなたは光を失った。治す方法はあるけれど、過去の自分に戻るしかない」


 神は全能に非ず。創世の昔、ヒトは未知なる存在より与えられた法創術を極めしニンゲンを神と呼んだ。このことは、多少神話を知る者なら誰もが理解している。


 真言で編まれた世界は法創術の奥義、全てがその賜物である。アウレアの生きとし生けるものはおろか土の一片、水の一滴に至るまで。これらの奇蹟を生み出した『真なる神』ならばともかく、模倣するだけの神もどきなど。その紛いものから断片を漏れ聞いただけの似姿ができることは更に少ない。


「私達の法術も、アトルムの創術も、礎の記憶を頼るのは同じ。どの時点に遡るか、それが一番大事。何も示さないと、それぞれの時間に存在する『あなた』のどれかが無作為に選ばれてしまう」


 言葉の意味が浸透するのを待つ。


 ユリアナが戻りたい自分はいつなのか?いや……それ以前に。


「あなたは辛い思いをしたと聞いてる。全部忘れてしまうのも一つの手よ」


 夫が帰還する前の彼女なら、確実に目の損傷はない。このまま家族の元へ戻らなければ、何も知らないままでいられるかも。優しい女王と眷属達は、上手に彼女を騙してくれるだろう。茫然とするユリアナの背中を、ティターニアが優しく抱き締める。


 彼女には時間が必要なのだ。夫の愛を、夫の不実を忘れる決心がつくまで。


 ただ、共に在ろう。


 いつか、その日が来るまで。


「大丈夫。もう苦しまなくていいから……」



 ☆★☆★☆★☆★☆



「…やっと来たか」


 恰幅のよい薄墨色の小人は、腰掛けた岩に純銀の煙管をちーんと鳴らした。


「『王』とは、ヒトを待たせるものじゃのう?」


 見上げる先、銀髪白皙の青年がひとり。色の薄い瞳は、微かに赤味がかっている。その場に立ち止まると、青年は大きく顔を綻ばせた。


「…冤罪だな」


 ここ暫く、心の中で何度同じ言葉を叫んだか。しかし今は、堂々と反論できる。


「俺は紛いものだ。『王』と言うなら、より近い者がそこにいるだろう」


 糾弾してきた張本人を指差す。


「ドワーフ族長イゴルの弟ラダラム。全権代理として条約署名の帰り、羽を伸ばして賞金稼ぎの真似事か?」


 島に争乱を起こしたブラッド王は、新生リトラ共和国により指名手配されている。黒い膚と銀髪に濃い紅玉の瞳と、どこまで本気に捜すつもりがあるのか不明だが。いずれ大陸でも悪名が轟くに違いない。


「…よく、生き延びたの」


 傍らの荷物を背負って立ちあがる。今回は急ぎの旅、いつもの荷馬車や盗難監視用のゴーレムは連れていない。それでも小商いを目論んでしまうのはさすがと言えよう。


 ここから隧道を抜ければ大陸だ。ドワーフとホビットがひとつの社会を形成する自治領。かつて属した王国は滅びたゆえ、『国』と言ってよいかもしれない。彼らはリトラと同盟を結んだ。青年が追手を逃れるには、もっと遠くへ行く必要がある。


「西方のファロス市国、その北のミランダ共和国、中原のレザリア帝国……ここが最も栄えておるな。解放された黒炎の森を経て北東のエルニア王国、バルザが言うところの『命の水』の故郷じゃ。紅水晶の平原を越えて南の群雄割拠に戻る。なかでも頽廃の都セリムは、若くして無念の死を遂げた高名な宮司の幽霊が出ると聞く。通り過ぎるだけでも見どころは山ほどあるぞ」


 一度故郷へ戻ったら、またすぐ旅に出るつもりらしい。新たな道連れの予感に、すっかり浮足立っているようだ。異種族からは酒樽呼ばわりされるドワーフのこと、潰れにくい呑み仲間ができて嬉しいだけなのかもしれないが……


 陽の光を惜しむように、小人が立ち止まって振り返る。


「して、お前さん。名は何という?」


「そういえば自己紹介もまだだったな」


 小さく頷き。だが誇らしげに語る、新しい彼の名前は……



 ☆★☆★☆★☆★☆



「行っちまったな」


 少年が溜息を洩らす。仕事を終えて戻った母親へ、釈然としない息子の陰鬱な呟き。


 彼女も納得はしていない。さりとて他に、どうすればよかったというのか?


(あたしは無事だったけど、家族が死んだ奴とかもいるし)


 ここイラリオでも、三人の犠牲者が出た。成人したての二人に、リタとは別行動を取っていた三人のうち一人だ。


 当人も死ぬだろうと思っていた族長代理のヨルマは、辛うじて生き残った。皆が森の外へ避難する時間稼ぎのため村で殿を務めたのだが、密かに再生を続けていた族長イラリオの魔晶石を使い果たし、すわ相討ちというところでライセンのネロ族長が『魂消し』を発動。勝利の予感に震える敵が尻尾を巻いて逃げ出した。翌朝骨を拾うため集まる同胞の前に現れた顔は、思わずぶん殴りたくなるほど居心地が悪そうだったと。


「でもあんたが生き延びてくれて、本当によかったよ。あんたまでいなくなったら、あたし生きてけないもん」


 抱きつこうとする母の顔を、うんざりと押し戻す。


「いい加減、子離れしろよ」


 何度も言われている台詞だ。若長リタが亡き友の忘れ形見を見送った、その事実に当てつけている。しかしサツキはめげない。誰が何と言おうと、子は親の全てだから。


「…サユキは寂しくないの?母さんがいなくなっても」


「んなことより、ヤヨイはどこ行ったんだ?戦い方を教えてもらおうと思ったのに……相変わらず若長は何も教えてくんないからさ」


 サユキはヤヨイに懐いていた。実の伯母であり、あの悪名高いブラッドで一番強かったこともある。幼い弟妹を護りながら生き延びた抜け目のなさ、毅然とした立ち居振る舞いは少年の心を刺激した。いつも情けない自分の母と、事あるごとに比べてしまう。


「……そんなことより、ってぇ………」


 思わず涙が零れてくるが、それもまた仕方ないと思う。ブラッドにいた頃から、サツキの目には身体の小さな姉が大きく見えた。先に病で死んだ兄達と肩を並べ、命を張って自分達を護ってくれた姉の姿が。


 脱走したサユキを追ってリタに敗れたとき、そのまま帰らないことにしたのはヤヨイや他の姉妹達の足手纏いを減らすつもりもあった。一番弱い自分がいなくなれば、少しは楽になると考えたのである。それが自分だけ子供を連れて逃げたと誤解されて裏目に。ウヅキとミナヅキも失踪、ヤヨイひとりに重い負担をかけてしまったのだが。


(でもね。今度こそは、幸せになってほしいんだよ)


 次は自分が、フヅキとハヅキを護る。別れ際、わざわざ振り返って「サユキによろしく」と言われたのは気になるけれど。


「ちゃんと追いつけたかな……?」


 サツキ同様、ヤヨイも膚の色を誤魔化せない。ブラッド育ちのアトルムは、誰からも創術を教わらなかった。そもそも教えられる大人がいなかったゆえ。


 小人族の領域を抜けるまでに、擬装の術を覚えられなければ。そのときは。


「…んん……」


「何か言った?」


「んや。別にぃ」


「何だよ。気になる言い方だな……」


 それ以上は答えず、曇り空を見上げる。


 さして明るくも暗くもなかった。


 灰色は、これからもきっと晴れない。

一応、これで終わりです。

読んでくださった方、ありがとうございました。

気が向けば短い話を書くかもしれません。

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