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魅入られたもの【中】

「問題は、僕だけこれと目が合ったってことだ」


 英は、げんなりと首を振る。


「どうも波長が合ったみたいで、あれから視線を感じることがある。特に、あの肝試しメンバーに会った時」

「……石落とした奴を探してるのかね」

「違う、とは思う。うっかり間宮に会っても何もなかった……でも、最近おかしくてね」


 英は喉が渇くのか、また水を含んだ。


「家でもそれを感じるようになったんだ」

「何ででしょう……?」

「わからない。無視するようにはしてるけど、気が抜けない」

「それで、気分転換にうちに泊らせることにしたんだが……まあ一人より二人、二人より三人だ」


 それで俺を誘ったのか。


「でも、これからどうするんです?」


 同じことは続くだろう。しかも、話を聞く限り段々と酷くなっている。

 しばらくの沈黙の後、英がボソリと言った。


「……金縛りに会う前、夢であの神社にいた。あそこの何かがやってるのはわかった」


 俯き、疲れた顔でそれだけ伝え、英はまた水を飲む。


「何か、ね……選択肢としては、あそこで祀られてたものか、それとも……」


 渡井はそこで言葉を切った。


「表情があまりないけど美人な奴に向かって『人形のようだ』って形容することあるだろ」

「ありますけど……」


 唐突だ。


「人形のようになりたいーーそう思う人は昔から一定数いるんだろうな。とある人形師の家の娘が、お人形みたいになりたいってあの井戸にそれを投げ入れたんだってさ」


 願いの井戸だろう。あそこにはお金を入れるのではなかったのか。


「願いの対価、と言う意味ならわからなくもないがな。でも、その女の子はそれから間も無く死んだ。子供の生存率が低かった時代だから、偶然だろうが……それからその家は崩壊した」


 まず母親が狂い、父親は彼女を蔵に閉じ込めた。夜な夜な泣き叫ぶ声が村に響くような、怪しげな噂のある家と取引する商人は消えた。

 大量の人形に溢れて子供の笑い声が絶えなかったその家は、見る影もなく廃れた。

 やがて、父親は狂った女を殺し、自らも命を絶った。


「ここまでならまだその家だけの話だ。だが死んだ場所が悪かった。――あの井戸に身投げしたんだ。大量の人形を投げ入れてからな」

「……願いを叶えてもらおうとしたんでしょうか」


 呟いた俺に渡井は肩を竦めた。


「わかっているその後の顛末としては、村ごと廃れてしまったっていうくらいだな。疫病が流行ったんだ。神社ですら、神主が病に倒れた」

「なんでそんなことに……」


 ちゃんとお祓いもしただろうに、呪いの類が効かなそうな人まで全滅とは。


「その頃な。近隣の村でも、あの井戸のところで人形が歩いていたという話が聞こえるようになったんだと……あそこにできただろう穢れは祓えてなんかいない。そもそも、祀ってたのも相当ヤバいやつだったのかもしれないな」


 絶望した父親の願いが、全て滅べと言うものだったなら……俺は頭を振って嫌な想像を消した。


「じゃ、英先輩が視た『目』ってのは」


 英は、げんなりして言った。


「まあ人形かもね。ただ、あそこには霊験あらたかな神様なんてものはいないのは確かじゃないかな。なんか……とにかく最悪なものがいたとしか僕には言えない……それが、井戸に入れたモノのせいなのかはわからないけど」

「じゃあお祓いでも行くか?」


 渡井の言葉に、英は首を振る。


「その前にあそこに行かなきゃいけない」

「は?」

「あの神社に行かないといけない気がするんだ」


 それは、()()()()()()のではないだろうか。

 俺と渡井は顔を見合わせた。


「……流石に、ダメだろ」


 渡井が至極真っ当なことを言っている。俺も力一杯頷いた。

 だが、英は真剣な目をしていた。


「あそこの何かが確かに僕を呼んでるんだ。その目的が知りたい」

「……お前な。取り込むため、とかだったらどうするんだ馬鹿」


 渡井が呆れたように半目になる。


「……取り込むにしては弱々しかった」

「悪人が悪人とわかるような雰囲気だと思うか?」


 渡井の言葉は最もだ。騙している可能性は大いにある。


「何かあったら僕を殴ってでも連れ帰って欲しい」


 今度こそ、渡井は呆れて言葉も出ないようだった。代わりに俺が口を開く。


「まず一回お祓い行ってから考えましょうよ」

「今はまだダメだ。その前に一度だけ、あそこに行かせて欲しい」


 その目はまっすぐだった。


 ーーなんてことだ。思ったより頑固だ。


 渡井は大きなため息をついた。


「……しのくん。こいつの両脇ガッチリ固めるぞ」

「ら、ラジャー」


 うげ、と声を漏らした英の隣にいた渡井はその腕を引っ掴んでいる。俺もその反対に回って腕を掴んだ。


「……この状態なら無理矢理連れてかれることもないだろ。下手したら全滅だけど」

「……行くんですか」


 俺は生唾を飲み込んだ。

 この時、俺は何となく行き先を察していた。


「しゃーないだろ。こいつは昔から頑固で、なんかあったら梃子でも動かんし、行く時は一人でも行くからな……それなら監視下に置いて一緒に行った方がマシだ」

「……行ってくれるのか?」

「なんかあったら本気で殴るぞ。なぁしのくん」


 賛同しにくいことを後輩に振ってくるのは切にやめてほしい。だが、この時の俺は黙って頷いた。

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